圏ガク!!

はなッぱち

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家畜生活はじまりました!

寮長の超能力

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 あの男が呼びに行った葛見という生徒が上がって来たのだと思った。けれど、ヌッと出てきたのは宙に浮いた車椅子の男だった。そう言えば寮長の名前が葛見だったような気がする。しかしテレパシーだけでなく、体を車椅子ごと浮かす事が出来るなんて、まったくもって非常識な人だ。

 などと一瞬考えてしまったのだが、執事モドキが車椅子を抱えて階段を上がって来ただけだった。……だけ、とは言い難いか。この寮内にエレベーターなどはなく、階段もバリアフリー化など全くされていなかったので、車椅子での移動は困難だろうが、ごと運ぶとは些か非常識な気がする。別々に運ぶのより効率はいいだろうが。

 ゆっくりと廊下に下ろされた車椅子を執事モドキが押して、寮長はオレと髭の前へとやって来た。

「おはようございます、真山先輩」

 執事モドキが番長であり先輩でもある髭に、非常に押さえた声量で挨拶をするが寮長は沈黙していた。

 それもそのはず、車椅子に座る寮長は、布団から無理矢理運んできました的な状態で、着ている物は見るからにパジャマ、目元にはアイマスクと現在進行形で睡眠中だった。それを見た髭は、さっきの上機嫌はどこへやら、周囲の温度を数度下げてしまうような緊張感を発生させる表情に戻り、無遠慮に車椅子に近づいた。

 そしてオロオロし出した執事モドキを無視して、髭は寮長の頭を思い切り叩いた。

「いつまで寝とんねん、起きんかい」

 時刻的には、まだ朝の五時を回った所だったので、眠っていても不思議ではない時刻なのだが、まあ確かによく寝てられるなぁと思う状況ではある。しかし意外だったのは、大事な旦那様に手を上げられても、執事モドキがブチ切れなかった事だ。

 昨日の食堂では、呼び捨てにされただけで、あれほど反応していたというのに……今は二人の間で忙しなく視線を往復させて泣きそうな顔しているだけだ。口すら挟めず、手元だけをもどかしげに動かしている。

 こんな規格外の奴にも人望があるとは、番長と呼ばれている髭は、オレが思っている以上に凄い奴なのかもしれない。

「……雫……ここは、どこだ? 暗くて、なにも見えない」

 思いっきり寝起き声の寮長は、寝ぼけているのだろう、ふらふらと手を前に出して何かを探しているような素振りを見せた。その手を執事モドキは力強く握りしめ、口を開いたが

「坊ちゃん、大丈夫です! 雫はここに居ります! 何も心配はいりません!」

現状を何一つ報告する事なく終わってしまった。執事モドキの後頭部を髭は当然のように叩いたが、その音の大きさはオレや寮長の時の比ではなく、執事モドキはその場に蹲った。

「真山先輩? 雫、一体どうゆう状況なんだ」

 アイマスクをずらした先に見えたのが髭だったので、驚いたのだろう。寮長は自分の足下に蹲る執事モドキに即座に声をかけるが、使用人の復旧は目処が立っていなかった。仕方なく、視線を髭とオレにやり、軽く頭を下げた。

「このような見苦しい格好のままで、申し訳ない」

「いや、かまへん。それより、山野辺! 大げさにいつまで寝てるつもりや」

 髭に怒鳴られ、執事モドキはなんとか立ち上がった。

「ヒサドはどないしたんや」

「自分を起こした後、眠たいから帰って寝ると言って去って行きました」

 あの男の行方を知った髭は、一度舌打ちをして、再び執事モドキに向き直った。

「この部屋ん中に居る、倒れとるのんを爺の所まで連れてけ。大した事ないやろうけど、頭打ってそうや」

 部屋の中を覗けば、壁に寄りかかり気分悪そうに座っている皆元と、それを甲斐甲斐しく世話する心配そうな顔した狭間が見えた。その奥では由々式が畳の上でのびてもいた。執事モドキは寮長を一人にして大丈夫だろうかと、何度も振り返りながらも、髭の言葉通り皆元を、多分だが医務室に連れて行ってくれるらしい。部屋に入ると軽々と皆元を抱え上げ、後ろ手に由々式を引きずり、傍らに狭間を連れて階段へと足を向ける。

「そっちのんは置いてけ」

 執事モドキに髭は待ったをかけた。髭の視線の先には、四肢から完全に力の抜けた由々式が居る。

「誤魔化せる思たんか。舐められたもんやのう。気絶した振り続ける気なら、気付けに一発入れたるで」

 髭から本気の気配を感じ取ってか、由々式はバネ仕掛けの人形みたいに起き上がり直立不動になった。その動きに執事モドキは驚いて、皆元を落としそうになるが、狭間が必死で支え事なきを得た。執事モドキは文句の一つも言いたそうにしていたが、髭に一睨みされ黙って階段に向かった。

 その場に残ったオレたちを見回して、髭が寮長に説明を始めた。オレと由々式が夕べやらかした事を話し終えると、髭は面倒そうに後ろ頭を掻いた。

「下らん事やから、こいつらの処分はお前に任せたいんや」

 髭の処分という言葉に、由々式は即座に反応し、不安そうな顔でこっちを見て来た。どうやら、髭は由々式もまとめて見逃してくれるらしい。

 軽く頷く事で答えてやると、由々式は少し安心したような表情になったが、どう風が吹いて最終的にどう決着が着くのかは分からないと言いたげに、表情を引き締めた。オレも番長と寮長の会話に再び耳を傾ける。

「それは……構いませんが、宜しいのですか? 夕べ報告を頂いた時には、身柄の引き渡しを要求されましたが」

 髭は僅かにオレへと視線を向けてきた。髭の心変わりの理由が必要になってくるのだろうか……そうなると部室前の出来事を赤裸々に語られる事になる。それは勘弁して欲しい。初っぱなからホモ疑惑の渦中に放り込まれるのはキツイ。髭の答えに内心は冷や冷やだった。

「こいつらのしょぼい顔見とったらアホらしいなったんや。ビビっとう奴に手ぇ上げんのは胸くそ悪いしな」

 寮長は少し表情を柔らかくして「そうですか」と頷いた。この人が下す処分なら、そうそう酷い事にはならなそうだと、オレも由々式と同じく胸を撫で下ろす。

「彼らはいいとして、春日野の方はどうするべきでしょうか」

「そんなもん、自分で考えんかい。……まあ、アレは生ぬるい対処しよったら、何遍でもやらかしよるやろうから、そやな……新学期始まるまで今のままにしとけ」

 新学期、オレらにとっては正式な入学式になる訳だが、それまでまだ数日はある。その間中、独房暮らしか。中々他では体験出来ない高校デビューだなと、他人事ながら思った。

 寮長とのやり取りに一区切りついたらしく、髭はオレたちの方へと顔を向けた。その顔は思わず気を引き締めなければと思ってしまうくらい、こちらに有無を言わせぬ圧力をかけてくる。ただ、どうにもオレの方はまともに見ていないようだった。髭の視線は、緊張で今にも倒れそうな由々式の方へと向いていた。

「えらい派手な顔しとるやんけ。ヒサドにやられたんか」

 由々式の顔にくっきり浮き上がる足形を見て、髭はそう問いかけた。確かにあの男からも蹴られていたので、そういう事にしておいて欲しかったが、今の髭の威圧感を前にそんな気の利いた事は言えないだろう。

 由々式は黙ったまま首を左右に振って答える。「ほな、誰にやられたんや。言うてみい」と髭に迫られ、由々式は震える指先でオレを指さした。

「夷川……お前……いきなり身内に手ぇ出して、どないすんねん」

 髭に呆れた顔をされてしまった。別に故意にやった訳じゃないのに、心外だった。

 オレが抗議の声を上げる前に、階段を騒々しく駆け上がってくる音が聞こえてきた。間違いなく、医務室に皆元を放り込んで来た執事モドキだ。

 廊下に転がるように飛び出して来た執事モドキは、寮長の元へその勢いで駆け寄り、呼吸を乱れさせたまま膝を折り、その安否を確認しているようだった。小さな氷嚢を片手に、髭に叩かれた所を冷やそうとする執事モドキを、鬱陶しそうに寮長があしらっている。

「僕の事は大丈夫だ。それより、連れて行った生徒はどうなったんだ」

 オレらが気になっていた事を寮長が聞いてくれたが、それには簡潔過ぎる「大丈夫だそうです」としか答えは返ってこず、オレらと寮長はなんとなく同時に溜め息を吐いてしまった。

 暫くすると、階段から狭間が姿を見せた。皆元に付き添ってはいないようで、廊下で勢揃いしているオレたちの元へ小走りで寄って来た。寮長が狭間にも皆元の事を同じように聞くと、

「えっと、その、そんなに強くは頭を打っていないって、言ってました。先生も少し安静にしていたら、大丈夫だろうって、言って、ました。はい」

執事モドキと同じように、けれど少し詳しく現状を付け加えて大丈夫と答えてくれた。なんとなく、これにて一件落着という雰囲気が流れ出したのだが、そこへ髭が入って来ると、途端に流れは変わりだした。

「山野辺、お前これからコイツの面倒見たれ」
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