圏ガク!!

はなッぱち

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家畜生活はじまりました!

番長改め髭

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「やっぱり難しいよなぁ。なら、こうしたらどうや。言い出しっぺが責任取る……とかな」

 男の言葉に由々式が動揺し出す。それを見て、男は標的を絞ったらしい。

「元はと言えば、アホ言い出した奴が悪いんやし、妥当やと思うねんけど、どう思う?」

 次々と言葉が由々式に投げかけられ、面白いように翻弄する。

「でもなぁ、ボク的にはそうゆうのん好かんわ。自分楽しむだけ楽しんで、問題になった時だけ先頭に責任押しつけるのとか、ほんまないわ。人として最低やで。そう思わん?」

 かなり追い詰められた顔をしている由々式を見ていると、こいつに突き出される前に自分が引き受けた方がいいようにも思えてくる。この男がさせたがっている事を見たがっている事を壊すのだと考えれば、それは多少だが魅力的な選択の一つだと思えた。

「それに見てみい。キミの顔と彼の顔、えらい違いよるで。ああ、元の出来の話しとちゃうで、そんなん比べたら人権問題に発展してまうやん。いくらボクでも、そんな残酷な事はようせんで」

 打開策の糸口すら見つけられない現状、これ以上この男の無駄口に付き合うのも馬鹿らしくなってきた。

「心から反省しとるキミは真っ青な顔しとるのに、こっちの彼は……随分と生意気な顔しよる」

 オレの顔を見て、男は無駄に垂れ流していた笑みを引っ込めた。どうやら、顔に出てしまっているらしい。どうやって、この気に食わない男に一泡吹かせられるかなーと考えている事が。

「なんや文句ありそうな顔しよるな。今ここで、しばき倒してもええねんで」

 男が臨戦態勢に入ったようだった。相手が一人なら、問題はそう多くない。皆元を吹っ飛ばすような奴だから甘く見ればただじゃ済まないだろうが、成り行きに任せていても同じ末路だ。

 大体こいつの判断で、一人は許されるって状況もかなり怪しい。番長の髭は、最後はグタグタだったが、その言葉に納得出来るだけの説得力があった。それがこいつにはまるで無い。あるのは半端ない雑魚臭だ。叩いても後から後から湧いて出そうという懸念はあるが、そうなったらなったで、その時にまた考えよう。

「言いたい事あるんやったら聞いたるで。文句でも、謝罪でも、言うてみ」

 人を追い込む為の気安い雰囲気も不快だったが、こいつの完全な上からの物言いは、後輩としてではなく人間として受け止めがたい。たかが数年早く生まれた程度で、よくここまで尊大な態度が出来るものだと感心する。

「何を笑とんねん」

 男の顔が歪む。すげぇ怒ってる。更に笑える。その下らない自尊心を踏みつぶしてやる。

「す、スイマセンでした! わしです。わしが言い出したんです。わしが全部悪いんです!」

 突然割り込んできた由々式は、オレの目の前で男に頭を下げた。咄嗟にその襟ぐりを掴んで、由々式をこちらに引き寄せると、間一髪、男のつま先は空を突く。掴んだ由々式を思い切り振りかぶって片足が浮いている状態の足元を狙うと、見事に二人は絡まるようにして転けた。

 男は自分の足を由々式に掴まれた形になっていたが、すぐに状況を察してか罵声を上げるより先に、そこから抜け出そうと動き出した。だが遅い。身動きの取れないその一瞬は長いのだ。男が立て直す前に決める。

 そのつもりで動いたはずのオレが、次の瞬間、何故か後方へと吹っ飛ばされた。受け身も取れず押し入れの襖に背中から激突して思わず蹲るが、固い壁ではなく襖だったおかげか、いまだに起き上がれない皆元とは違って、ダメージは少なかったらしい。

 どうなっているのか把握する為に顔を上げると、オレが居た場所に、髭の番長が威厳を取り戻した姿で立っていた。

「うっわぁー最悪や。ごっつかっこ悪いとこ見せてしもた。堪忍してや、真山君。すぐ片付けるさかい」

 体を起こしつつ、由々式を蹴ってどかすと、男は形勢逆転したとばかりに元のにやけた顔を浮かべてオレの方と見た。背中に痛みはあるが起き上がれない程ではない。けれど、それだけで、指を鳴らし近づいて来る男には対処出来そうになかった。

「ヒサド、お前何しとんねん」

 万事休す、オレがそう確信した時、髭が口を開いた。その声は部屋の温度をグッと引き下げる。

「え、っと? 何て、夕べ言うてた一年を見つけたんやけど……あかんかった?」

 髭の動向に気が気じゃ無くなっているのは、なにもオレだけではないらしい。男は髭の機嫌を伺うかのように、声がだんだん弱くなっている。

「一晩中ここの居ったんか」

「そやけど……あかんかったかなぁ。山に逃げ込まれたら面倒やろ、その前に捕まえたかってん」

 番長が部屋の隅で小さくなっている狭間に視線をやると、男の顔色が露骨に変わった。髭は何かを確認したらしく、壁をも砕くという拳を作り男を睨み付けた。

「またやりおったな、お前」

 自分に向けられている訳でもないのに、その威圧感に体が竦んだ。男は慌てて身振り手振りを入れて弁明を始める。

「やってない! まだなんもしてへんって! 信じてーや真山君。ほんまやねん! 狭間チャンも言うたって、まだボクなんもキミにしてないやんね? ね?」

 男に勢い良く詰め寄られて、狭間は小動物のように震え目を潤ませながらも懸命に小さく頷いた。

「あかーん! こんな状況で泣いてもたら、絶対に誤解されてまうやんけアホー!」

 狼狽えだした男を見据えて、髭は真横の壁を無造作に殴りつけた。コンクリートとは違う和室特有の脆そうな壁とは言え、なんの予備動作もなく壁に見事な亀裂が走るのを見せつけられると、押し入れの中に隠れたくなる衝動に駆られた。

「葛見を呼んで来い、ヒサド」

 髭がそう言うと、男は逃げるように部屋を出て行った。そうなると、当然、髭の視線はこちらに向けられた。オレが何か言おうとするより先に、首根っこを引っ掴まれ部屋の外まで軽々と放り出されてしまう。

「大人しいしてられんのか、おのれは」

 転がり出た先の廊下で、吐き捨てるように言われ、後頭部を勢い良く叩かれた。本気ではないだろうが、結構痛い。

 けれど髭が制裁を加えに来た訳ではないと知れ、礼の一つも言おうかと見上げると、その顔は不自然な方向を向いてた。どうやら、オレから必死で視線を逸らせているらしいが、そんな髭を見ていると同じように後頭部を叩き返してやりたいと思ってしまった。もちろん自重したが、それなら盗み見るように、チラチラとこっちに視線を投げかけたくるのは止めろと言いたかった。

 あと、その度に顔の赤味にグラデーションを付けていくのも止めろ。明らかに思い出されているのを見ると、こっちの記憶まで刺激されてるだろうが!

「髭っ……じゃなくて、真山先輩」

「今、おのれ髭とか言いよったな。どうゆう意味じゃ」

 思わず髭を髭と呼び捨ててしまいそうになった。オレは慌てて

「いや、その……先輩の髭、かっこいいなーと思って。男の貫禄、みたいな感じで」

フォローを入れたが失敗だった。さっきまでまともに視線を合わせなかった髭の顔が、至近距離まで迫ってきた。思わず後ろへ下がってしまったが、髭は気にする訳でもなく、オレの目を真剣に覗き込んだ。

「ほんまか? ほんまにそう思うか、夷川」

 お前好みかと聞かれているようにも思えて恐かったが、下手に貶すと絶賛壁を砕いたパンチを生身の体に頂けそうなので、今開ける最大限の間を取って、もう一度髭の髭を褒めた。髭がコンプレックスなのか、いやアイデンティティーなのかもしれないな。予想以上に機嫌を良くして、髭は嬉しそうに自分の口元を撫で回し始めた。

 そんな姿を目の当たりにすると、さっきのおっかないイメージが根こそぎ何処かへ行ってしまうので、多少困惑する。マンガの中の不良みたいな有無を言わさぬ迫力があったのに、今はただの髭が似合ってない高校生だ。

 普段言われ慣れていないのか、髭を褒められかなり浮かれ出した髭は、更に新しい言葉をオレから引きだそうと、ここぞとばかりに話しかけてくる。正直うっとうしくなってきて、どうしたものかと考えている所へ、誰かが階段を上ってくる気配を感じた。渡りに舟とオレは自然に会話の流れを切るよう視線をそちらへやる。
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