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圏ガクの夏休み
探検書籍山
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「いつまで寝てる気だ……オラ、起きろッ!」
横っ腹に何かが突き刺さる痛みで覚醒する。寝起きの頭でも、体に走る痛みから危機的状況だと無理矢理フル回転させるが、どうなっているのか全く分からず、側にあった何かにとりあえずしがみついた。
「まだ寝てんのか、死にたいのか、どっちだ」
頭上から降ってくる殺気に、恐る恐る顔を上げると、額に青筋を浮かべた稲継先輩と目が合ってしまった。
うん、どうやらオレは寝ぼけて稲継先輩の足にしがみついているらしい。壊れ物を運ぶようにソロリと手を離し体を離し、冷や汗を吹き出しながら、その場で他意はない事を伝える為に全力で土下座した。
「すいません! 寝てました! 今、起きました!」
素直に謝ったのに朝っぱらから荒ぶる稲継先輩は、夕べ食べた空っぽの缶詰を勢いよく蹴り飛ばす。
「起きたんなら、とっとと行け!」
ついでとばかりに、謝罪の意を示す格好をしているオレのケツにまで一発見舞いやがった。部屋の中を転がりながら、その拍子に目に入った掛け時計を見て、やってしまった事を知る。
九時などとうに過ぎており、控えめに考えても遅刻などと言える範疇にない。朝食だけで朝が終わってしまったと言えるレベル! 長い休みにありがちな一日の過ごし方ではある……が、謹慎二日目にしてやっていい事ではない。
夏休み入ってからは、毎日小吉さんが起こしてくれていたし、それまでは皆元すら恐れない狭間が転がし起こしてくれていたから、こんな不祥事は想定外だった。部屋で仁王立ちして隙あらば、もう一発ぶち込んでやろうと企んでいる稲継先輩から逃げるように部屋を飛び出す。
寝汗の上にもう一汗かいて廊下を爆走、遅刻したけど急いで来ましたの体は完璧な状態で、オレは第二図書室の扉を開いた。
「すみません! 遅くなりました!」
ゼイゼイと完璧な呼吸を繰り返しながら、きっとご立腹だろう霧夜氏を探すが、まるで動かなかった昨日の定位置に氏の姿はなかった。
おかしいなと思いつつ空っぽの椅子を横目に、本の山を覗き込むと、ビニールシートの敷かれた峡谷がまるで棺桶のように、通路で横たわる霧夜氏を発見してしまう。
「霧夜先生ッ!?」
まるで穏やかな自殺現場を目の当たりにしてしまったような衝撃に、オレは霧夜氏に駆け寄るという愚行に走った。慌てて突入した為、体のあちこちを本の山にぶつけてしまい、恐れていた大雪崩を引き起こしてしまったのだ。
もちろん、本は通路に横たわる霧夜氏の上にも降ってくる。崩壊を止めるのは無理だと一瞬で悟ったオレは、思い切り床を蹴り、霧夜氏の上に覆い被さった。
その辺りを占めていたのは文庫本だったらしく、鈍器の域にある図鑑などでなかったのは不幸中の幸いだったが、痛いものは痛い。そして、かなりの量が背中に積み上がり、身動きが取れなくなってしまった。
本のにおいで窒息しそうだったが、オレの下敷きになってしまった霧夜氏に何度も呼びかける。非情にマズイ状態だという事だけは確認出来た。耳元で叫んでいるというのに、霧夜氏はピクリとも反応しなかった。
早く救急車を呼ばないと、そう焦りだし必死に藻掻いて本の下から這い出そうと試みるが、オレの引き起こした大雪崩は、自力での脱出が不可能な規模だったらしい。
「だれか、たすけて」
寝起きに不測の事態で、頭が真っ白になってしまった。動かない体にジワリと広がる不安、口から出るのは弱音だ……って、言ってる場合か! 弱音じゃ駄目だ!
「誰かーッ、助けてくれぇー!」
霧夜氏に覆い被さっているので、どうしても床に向かって声が落ちてしまうが仕方ない。
「稲継先輩ー! 霧夜先生が倒れてるんだ!」
腕で本ごと体を持ち上げてみる。超ハードな腕立てだが、少し本の山が動いた気がして、気合いをいれて踏ん張ってみるが、更に追加で本が落ちてきたようで、体を支えられず霧夜氏を押し潰してしまった。
「だれか……せんぱい……たすけて」
訳の分からない状況に泣きそうになる。何でこんなに本積み上げんだよ。崩れたら大変だって事くらい気付け! てか、部屋まで迎えに来たなら、ちょっとくらい様子見に来い!
「何グズグズしてんだ、稲っち! とっとと助けろこの野郎!」
後先考えないオレの叫び声は、多分二年で一番怒らせてはいけない先輩を召喚した。背中に乗っかっていた本がガサッと動き、その隙間から文字通り本の海から頭を突き出す。
「今、何か言ったか?」
おどろおどろしい声が聞こえると、頭をボールのように掴まれ、りんごのように砕こうという意思が、手のひら越しに伝わってきた。場合が場合なら、即座に土下座すべきだろうが、今はそんな事をしている場合ではない。
「稲継先輩、早く霧夜先生を連れ出して下さい! 倒れたまま動かないんだ!」
後輩の無礼を(今この瞬間だけだろうが)見逃してくれる気になったらしい稲継先輩は、砂でも掻くように本を薙ぎ払う。本の状態を全く無視した救助は迅速で、すぐに自力で起き上がる事が出来るようになった。
「お前……何したんだ。謹慎中のサボりを隠蔽するにしても、やり過ぎだろ」
「何もしてませんよ! いや、不注意で山を崩してしまったのはオレですけど……その前から、霧夜先生はここで倒れてたんです」
まるで眠るような穏やかな顔を二人で覗き込んでいると、霧夜氏の両目が何の前触れもなくパチッと開いた。うおっと仰け反るオレらの間で、まるで機械のようなぎこちない、けれど力強い勢いで霧夜氏は上体を起こした。
「本に溺れる夢を見ていました……これはどうゆうことでしょう。正夢ですか?」
まるで想い人が夢に出て来たと喜ぶ女子のように顔を綻ばせた霧夜氏は、オレと稲継先輩を交互に見て首を傾げる。
「先生は、今まで眠っていたんですか? 倒れていたんじゃなくて?」
まさかと思いながらも尋ねると「はい」とシンプルな答えが返って来た。
「夕べ読み始めた本が、止め所の見当たらない面白い内容でして、気付いたら夜が明けていました。夷川君が来る前に仮眠を取ろうと横になっていたのですが……これは一体」
自分の上に降り積もった本を視線で指しながら、霧夜氏は黙って答えを待っている。なんで仮眠を取るのに床なのか、しかも一歩間違えばこうなると分かっている場所で寝てしまうのか。謝罪や報告よりも先に文句が頭をいっぱいにしたが全て飲み込み、一通り自分のやらかした事を簡潔に伝えると、霧夜氏は一片の曇りもない爽やかな笑顔で
「今日は本を探すどころではありませんね。残念ですが文芸部の初めての活動はここの整理にしましょうか」
途方もない事をサラリと決定した。
改めて眺めてみると、これぞまさしく足の踏み場のない状態で、オレも稲継先輩も同時に深い深い溜息を吐いた。
第二図書室の片付けは予想通り難航した。そもそも本を片付けるスペースが完全に足りていないのだ。狭間がいれば、事細かに整理整頓出来るのだろうが、オレや稲継先輩、ただひたすらに積み上げるだけの霧夜氏も含めて、この場にいる誰もが、こういった事に不得手だった。
「あぁ、こんな所に紛れていましたか。ずっと探していたのですよ」
片付けを言い出した霧夜氏は、本を手に取る度に嬉しそうな声を上げて手を休め、床に正座しながら読書タイムを始めてしまうし
「ちょっ、稲継先輩! こんな所に積み上げないで下さいよ。オレが出られなくなる」
単なる嫌がらせかもしれないが、最初に確保した通路にバランスを考えず積み上げられた本で関所を作る稲継先輩に
「お前は動くな夷川! これ以上ぶちまけやがったら……吊すぞ」
ちょっとした拍子に新たな雪崩を起こしてしまうオレが揃っているとあっては、本気で目処が全く立たなかった。
読み返していた本が一段落したらしく、霧夜氏が本を閉じたので、片付けに戻って来ると思いきや、辺りを闇雲に漁りだし、終いには「みなさん、この続きを探して下さい。きっと近くにあるはずです」読書タイム続行をオレらを巻き込む形で主張された。
このままでは夏休み中かかっても片付かない。そう悟ったオレは、雑巾掛けをする要領で、自分の前にある本で埋まった床を除雪車のように駆け抜ける。多大な犠牲(本)を払いつつも、振り返れば本が割け、通路が一本出来上がっていた。
「あの、一度、休憩挟みませんか」
時刻は見ないでおこうと務めたが、チラリと目に入った時計の針が二時を回って更に延長されそうになり、一番最初にギブアップを宣言する。午前中を丸々寝ていたとは言え、まるで穴を掘っては埋める拷問のような作業を空腹で続けるのは無理だった。同意してくれたのか、稲継先輩も本の中から出て来る。
「そうですね……続きは昼食を終えてからにしましょうか」
二対一に別れた事が効果的だったのか、霧夜氏も重い腰を上げてくれた。
昼食を確保すべく、と言うより終わりの見えない片付けから逃げたくて、休憩開始の宣言を聞くや、先輩の部屋へと戻ろうとしたオレを霧夜氏が穏やかに呼び止めた。
「夷川君、今から食堂に行きましょう。昼食の準備を手伝って下さい」
目論見が外れ、缶詰飯が決定してしまった。オレは濁った目をしながら「はい」と頷き、食堂へ向かうべく図書室を出る。
「それじゃあ、おれは少し外させてもらいます」
一緒に部屋を出た稲継先輩だったが、そう簡単に挨拶を済ませると、きっと冷蔵庫に戻ったのだろう、とっとと姿を消しやがった。
姿を消したのは稲継先輩だけではなかった。ほぼ同時に逆方向へ歩き出した霧夜氏の姿も見えなくなっていた。慌てて追いかけるが、階段に響く足音さえも遠い。このままとんずらしてやろうかなと、ほんの少しばかり頭を過ぎったが、当初の目的を思い出し、霧夜氏を追いかけ食堂へ急いだ。
横っ腹に何かが突き刺さる痛みで覚醒する。寝起きの頭でも、体に走る痛みから危機的状況だと無理矢理フル回転させるが、どうなっているのか全く分からず、側にあった何かにとりあえずしがみついた。
「まだ寝てんのか、死にたいのか、どっちだ」
頭上から降ってくる殺気に、恐る恐る顔を上げると、額に青筋を浮かべた稲継先輩と目が合ってしまった。
うん、どうやらオレは寝ぼけて稲継先輩の足にしがみついているらしい。壊れ物を運ぶようにソロリと手を離し体を離し、冷や汗を吹き出しながら、その場で他意はない事を伝える為に全力で土下座した。
「すいません! 寝てました! 今、起きました!」
素直に謝ったのに朝っぱらから荒ぶる稲継先輩は、夕べ食べた空っぽの缶詰を勢いよく蹴り飛ばす。
「起きたんなら、とっとと行け!」
ついでとばかりに、謝罪の意を示す格好をしているオレのケツにまで一発見舞いやがった。部屋の中を転がりながら、その拍子に目に入った掛け時計を見て、やってしまった事を知る。
九時などとうに過ぎており、控えめに考えても遅刻などと言える範疇にない。朝食だけで朝が終わってしまったと言えるレベル! 長い休みにありがちな一日の過ごし方ではある……が、謹慎二日目にしてやっていい事ではない。
夏休み入ってからは、毎日小吉さんが起こしてくれていたし、それまでは皆元すら恐れない狭間が転がし起こしてくれていたから、こんな不祥事は想定外だった。部屋で仁王立ちして隙あらば、もう一発ぶち込んでやろうと企んでいる稲継先輩から逃げるように部屋を飛び出す。
寝汗の上にもう一汗かいて廊下を爆走、遅刻したけど急いで来ましたの体は完璧な状態で、オレは第二図書室の扉を開いた。
「すみません! 遅くなりました!」
ゼイゼイと完璧な呼吸を繰り返しながら、きっとご立腹だろう霧夜氏を探すが、まるで動かなかった昨日の定位置に氏の姿はなかった。
おかしいなと思いつつ空っぽの椅子を横目に、本の山を覗き込むと、ビニールシートの敷かれた峡谷がまるで棺桶のように、通路で横たわる霧夜氏を発見してしまう。
「霧夜先生ッ!?」
まるで穏やかな自殺現場を目の当たりにしてしまったような衝撃に、オレは霧夜氏に駆け寄るという愚行に走った。慌てて突入した為、体のあちこちを本の山にぶつけてしまい、恐れていた大雪崩を引き起こしてしまったのだ。
もちろん、本は通路に横たわる霧夜氏の上にも降ってくる。崩壊を止めるのは無理だと一瞬で悟ったオレは、思い切り床を蹴り、霧夜氏の上に覆い被さった。
その辺りを占めていたのは文庫本だったらしく、鈍器の域にある図鑑などでなかったのは不幸中の幸いだったが、痛いものは痛い。そして、かなりの量が背中に積み上がり、身動きが取れなくなってしまった。
本のにおいで窒息しそうだったが、オレの下敷きになってしまった霧夜氏に何度も呼びかける。非情にマズイ状態だという事だけは確認出来た。耳元で叫んでいるというのに、霧夜氏はピクリとも反応しなかった。
早く救急車を呼ばないと、そう焦りだし必死に藻掻いて本の下から這い出そうと試みるが、オレの引き起こした大雪崩は、自力での脱出が不可能な規模だったらしい。
「だれか、たすけて」
寝起きに不測の事態で、頭が真っ白になってしまった。動かない体にジワリと広がる不安、口から出るのは弱音だ……って、言ってる場合か! 弱音じゃ駄目だ!
「誰かーッ、助けてくれぇー!」
霧夜氏に覆い被さっているので、どうしても床に向かって声が落ちてしまうが仕方ない。
「稲継先輩ー! 霧夜先生が倒れてるんだ!」
腕で本ごと体を持ち上げてみる。超ハードな腕立てだが、少し本の山が動いた気がして、気合いをいれて踏ん張ってみるが、更に追加で本が落ちてきたようで、体を支えられず霧夜氏を押し潰してしまった。
「だれか……せんぱい……たすけて」
訳の分からない状況に泣きそうになる。何でこんなに本積み上げんだよ。崩れたら大変だって事くらい気付け! てか、部屋まで迎えに来たなら、ちょっとくらい様子見に来い!
「何グズグズしてんだ、稲っち! とっとと助けろこの野郎!」
後先考えないオレの叫び声は、多分二年で一番怒らせてはいけない先輩を召喚した。背中に乗っかっていた本がガサッと動き、その隙間から文字通り本の海から頭を突き出す。
「今、何か言ったか?」
おどろおどろしい声が聞こえると、頭をボールのように掴まれ、りんごのように砕こうという意思が、手のひら越しに伝わってきた。場合が場合なら、即座に土下座すべきだろうが、今はそんな事をしている場合ではない。
「稲継先輩、早く霧夜先生を連れ出して下さい! 倒れたまま動かないんだ!」
後輩の無礼を(今この瞬間だけだろうが)見逃してくれる気になったらしい稲継先輩は、砂でも掻くように本を薙ぎ払う。本の状態を全く無視した救助は迅速で、すぐに自力で起き上がる事が出来るようになった。
「お前……何したんだ。謹慎中のサボりを隠蔽するにしても、やり過ぎだろ」
「何もしてませんよ! いや、不注意で山を崩してしまったのはオレですけど……その前から、霧夜先生はここで倒れてたんです」
まるで眠るような穏やかな顔を二人で覗き込んでいると、霧夜氏の両目が何の前触れもなくパチッと開いた。うおっと仰け反るオレらの間で、まるで機械のようなぎこちない、けれど力強い勢いで霧夜氏は上体を起こした。
「本に溺れる夢を見ていました……これはどうゆうことでしょう。正夢ですか?」
まるで想い人が夢に出て来たと喜ぶ女子のように顔を綻ばせた霧夜氏は、オレと稲継先輩を交互に見て首を傾げる。
「先生は、今まで眠っていたんですか? 倒れていたんじゃなくて?」
まさかと思いながらも尋ねると「はい」とシンプルな答えが返って来た。
「夕べ読み始めた本が、止め所の見当たらない面白い内容でして、気付いたら夜が明けていました。夷川君が来る前に仮眠を取ろうと横になっていたのですが……これは一体」
自分の上に降り積もった本を視線で指しながら、霧夜氏は黙って答えを待っている。なんで仮眠を取るのに床なのか、しかも一歩間違えばこうなると分かっている場所で寝てしまうのか。謝罪や報告よりも先に文句が頭をいっぱいにしたが全て飲み込み、一通り自分のやらかした事を簡潔に伝えると、霧夜氏は一片の曇りもない爽やかな笑顔で
「今日は本を探すどころではありませんね。残念ですが文芸部の初めての活動はここの整理にしましょうか」
途方もない事をサラリと決定した。
改めて眺めてみると、これぞまさしく足の踏み場のない状態で、オレも稲継先輩も同時に深い深い溜息を吐いた。
第二図書室の片付けは予想通り難航した。そもそも本を片付けるスペースが完全に足りていないのだ。狭間がいれば、事細かに整理整頓出来るのだろうが、オレや稲継先輩、ただひたすらに積み上げるだけの霧夜氏も含めて、この場にいる誰もが、こういった事に不得手だった。
「あぁ、こんな所に紛れていましたか。ずっと探していたのですよ」
片付けを言い出した霧夜氏は、本を手に取る度に嬉しそうな声を上げて手を休め、床に正座しながら読書タイムを始めてしまうし
「ちょっ、稲継先輩! こんな所に積み上げないで下さいよ。オレが出られなくなる」
単なる嫌がらせかもしれないが、最初に確保した通路にバランスを考えず積み上げられた本で関所を作る稲継先輩に
「お前は動くな夷川! これ以上ぶちまけやがったら……吊すぞ」
ちょっとした拍子に新たな雪崩を起こしてしまうオレが揃っているとあっては、本気で目処が全く立たなかった。
読み返していた本が一段落したらしく、霧夜氏が本を閉じたので、片付けに戻って来ると思いきや、辺りを闇雲に漁りだし、終いには「みなさん、この続きを探して下さい。きっと近くにあるはずです」読書タイム続行をオレらを巻き込む形で主張された。
このままでは夏休み中かかっても片付かない。そう悟ったオレは、雑巾掛けをする要領で、自分の前にある本で埋まった床を除雪車のように駆け抜ける。多大な犠牲(本)を払いつつも、振り返れば本が割け、通路が一本出来上がっていた。
「あの、一度、休憩挟みませんか」
時刻は見ないでおこうと務めたが、チラリと目に入った時計の針が二時を回って更に延長されそうになり、一番最初にギブアップを宣言する。午前中を丸々寝ていたとは言え、まるで穴を掘っては埋める拷問のような作業を空腹で続けるのは無理だった。同意してくれたのか、稲継先輩も本の中から出て来る。
「そうですね……続きは昼食を終えてからにしましょうか」
二対一に別れた事が効果的だったのか、霧夜氏も重い腰を上げてくれた。
昼食を確保すべく、と言うより終わりの見えない片付けから逃げたくて、休憩開始の宣言を聞くや、先輩の部屋へと戻ろうとしたオレを霧夜氏が穏やかに呼び止めた。
「夷川君、今から食堂に行きましょう。昼食の準備を手伝って下さい」
目論見が外れ、缶詰飯が決定してしまった。オレは濁った目をしながら「はい」と頷き、食堂へ向かうべく図書室を出る。
「それじゃあ、おれは少し外させてもらいます」
一緒に部屋を出た稲継先輩だったが、そう簡単に挨拶を済ませると、きっと冷蔵庫に戻ったのだろう、とっとと姿を消しやがった。
姿を消したのは稲継先輩だけではなかった。ほぼ同時に逆方向へ歩き出した霧夜氏の姿も見えなくなっていた。慌てて追いかけるが、階段に響く足音さえも遠い。このままとんずらしてやろうかなと、ほんの少しばかり頭を過ぎったが、当初の目的を思い出し、霧夜氏を追いかけ食堂へ急いだ。
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