圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み

情けは人の為ならず

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 まだ自分で着ていない先輩の服を引っ張り出して、抱きつくように顔を埋める。大きな染みのある布団を引っ張り出し、止まらない感情に任せて、オナってやろうかと思ったが、布団より先に目に入った物に手を伸ばした。『触るな 危険』の張り紙を乱暴に剥がし、しっかり縛ってあった紐を解こうと奮闘するが、五分ほど粘っても緩まる気配すらない。

 触るなという事なんだと思ったが諦めきれず、机の引き出しを漁りカッターナイフを持ちだす。固く縛られた紐を力任せに切断すると、勢い余って下のテント本体にまで刃が刺さる。

「キャンプの日、雨降らなきゃいいけど」

 古いビニールシートを縫い合わせて作った継ぎ接ぎだらけのテントに、見事な大穴を開けてしまった。せっかく先輩が無理矢理だけど形にしてくれたのに……後悔も少し、けれど手は止まらず、先輩の見様見真似でテントを組み立てていく。

 壊れた傘を解体して補修した物と、元が何だったのか分からないプラスティックの棒に、廃品として積まれていたメタルラックやネジを使って、テントの形を作る。

 更に何カ所かぶっ壊しながら作業を進めると、なんとかシートを被せられる状態にまで持ってこられた。破れたビニールシートに気を付けながら屋根を付けると、先輩に見せて貰った時とは違い、何者かの襲撃を受けた後のような悲しいテントが姿を現した。

「先輩が帰ってくる前に、ちゃんと、直さなきゃ」

 テントだけじゃない。オレが使ったせいで、先輩の部屋はあばら屋のようだ。寂しいを通り越して悲しいも通り過ぎ、ひたすらに後悔の嵐で嬲られながらも、テントの中に潜り込む。

「…………狭いな」

 膝を抱えて座っても狭い。オレの組み立て方が間違っているだけのような気もするが、ゴロンと横になると足が外に飛び出してしまった。

 見上げた先にはオレの開けた穴から天井が覗いている。ビニールシートで囲まれたテントの中は、風が通らず蒸し暑かった。吹き出す汗をそのままに、溜め息を吐いた。

「何やってんだろ……オレ」

 情けない声だ。きっと、今、オレは泣きたいんだろうな。乾いたままの目元を擦って、茹だる体と頭をそのままに、少しだけ眠ろうと目を瞑った。

 目が覚めたら第二図書室に戻ろう。稲っちにお節介をやかなければ。今頃どうなっているかなと想像すると、固くなっていた頬が柔らかくなった気がした。

 何分経ったか定かではないが、ぐっすりと眠り込んでいたオレを覚醒させたのは、血の気の引くような異常な状況だった。

 足首を掴まれ、テントから引きずり出されようとしている。何者かに足首を掴まれている状態にゾッとした。寝ぼけた頭に急速に血の気が周り、クラクラするくらい体温が急上昇する。

 部屋の鍵をかけ忘れていた。香月の手の者が、もしくは香月本人か、奉仕作業から逃れて残っているかもしれないなんて考えもしなかった。油断していた。

「離せッ!」

 拘束を逃れようと滅茶苦茶に足を動かせば、相手も油断していたのか、足首を掴む手が緩まった。何人いるか分からないが、とにかく正面の奴を怯ませ、図書室まで逃げ切らないと、この状況はヤバイ。無我夢中で蹴りを見舞っていると

「うわっ急に暴れるな! 危ないだろ」

確かな手応えと一緒に、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

 恐る恐る足下に視線をやる。何度もオレの蹴りを受けた腹に靴跡がいくつも見えた。それなのにそいつの顔には、痛みや怒りは浮かんでいなかった。あるのは、ただただ困ったような暢気な顔。

「せん、ぱい?」

 目の前の現実に付いていけず、呆けた声で呟くと、暢気な顔は嬉しそうに口元を綻ばせた。

「ん、ただいま。セイシュン」

 夢かもしれない、そう思い自分で頬を抓ってみたが、特別痛いとも思わず、ますます混乱する。

「とりあえずな、一度テントから出て来い」

 足ではなく手を引っ張られ、オレはされるがままにテントを出た。もしかして、ぼんやりしている間に三週間ほど時間が過ぎたのかもしれない。カレンダーを確認しようとしたが、遠慮なく伸びて来た先輩の手によって阻まれてしまう。

「うぇ? な、ななななに、何してんの?」

 動揺で言葉が上手く口に出来ず、上ずった声が出てしまった。それも無理ない事で、テントから出た途端、先輩にのしかかられ寝汗で張り付いたシャツをいきなり捲り上げられたのだ。

 冗談の類いではないらしく、先輩の顔は真剣そのもの、それが余計に戸惑いを加速させた。先輩が何をしようとしているのか、心臓が痛いくらい鳴って、期待と不安が入り交じった興奮に体を乗っ取られる。

 ビデオカメラに映っていた男同士のおぞましい行為が、興奮という炎にじゃんじゃん油を注ぐ。気持ち悪いとしか思わなかった全てに興奮している。あれが全て『先輩とやれる』行為だと認識してしまったから。

「背中も見せてみろ」

 剥ぎ取るようにシャツを脱がされ有無も言わさず、ひっくり返された。先輩がこんなに激しく積極的に責めてくるなんて、オレの興奮が移ってしまったのか、予想外としか言えない。ドクドク鳴る心臓の音が、覚悟を決めろと、流されてしまえと囁く中、先輩は容赦なくオレのズボンを下着ごと引き下げた。

「…………ん、大きな怪我はないな」

 どこか納得したような声が聞こえたと思ったら、下げられたズボンと下着が、グイッと思い切り引き上げられた。

 先輩の大きな手は、それ以上オレに触れてはこず、場の空気もよくよく感じ取ってみれば色気もへったくれもない。逆上せ上がった頭の中で興奮が縮こまっていくのを止められず、無駄に血色の良くなった顔で振り返り先輩を見ると、安堵したような表情をこちらに向けていた。

 気持ち的に一人ほったらかしにされたオレは、恨みがましい視線を先輩に向け「何してんの?」と自分でも驚く程に低い声で、もう一度問いかけた。

「いや、そこの布団が血塗れだったから、酷い怪我でもしてるんじゃないかって心配でな。その確認だ」

 横にはオレの鼻血が染み込んだ布団が広げられている。心配をかけたのは悪いと思うが、この膨れ上がった興奮の始末をどうしてくれようと、頭の中では悪巧みだ。体がウズウズし始め堪らなくなったオレは、目の前の先輩にソレを丸ごと投げつけた。

「うわっ、どうしたんだ?」

 タックルでも決めるような勢いで、先輩に抱きついてやる。条件反射だろうが、オレの背中に手を回して受け止めてくれた先輩の匂いを思い切り嗅ぐ。汗を掻いているおかげか、先輩自体に鼻を埋めているおかげか、夏休み入ってからすっからかんだった先輩という名の栄養を存分に取り込む。

「おかえり、先輩」

 体中に必要だった栄養が巡り、伝えたい思いを沢山含んだオレの言葉が甘ったるく響く。まんざらでもないように笑って、先輩はもう一度「ただいま」と言った。

「そんなに待ち遠しかったのか」

 ようやく落ち着いたオレが体を離すと、少し意地悪い声でそう聞かれてしまった。ちょっと恥ずかしかったが、素直に頷いてしまえと思ったら

「暑い時のアイスクリームって美味いもんなぁ」

そっちじゃねーよとツッコミを入れたくなる事を言うと、一人で勝手に納得して豪快に笑いやがった。

 待ってたのはアイスじゃなくてお前だ! と文句の一つも言ってやりたかったが、自慢気に部屋の隅に置いていたアイスボックスを持って来た先輩の嬉しそうな顔を見ると、自然とアイスへの期待も高まる。

 二つ並んだアイスボックスは、それぞれが結構な大きさで、約束した『いっぱい買ってくる』という言葉に嘘はなかった。開けてもいいかと視線を向けると、何故か先輩の方が緊張したような面持ちになり一度コクンと頷いた。

 二つのボックスの蓋に片手ずつ伸ばし、一気に両方を開ける。ドライアイスの煙だろうか、ひんやりした冷気が中から溢れて、オレは思わず「うわぁ」と感嘆の声を上げた。

 コンビニとかスーパーのアイス売り場を再現したような豪華な中身に、テンションが上がってしまう。片方には棒アイスやソフトクリーム、カップに入ったものやクッキーでサンドされた他のとは値段から違いそうなものまで、目移りする程の種類が詰め込まれ、もう一方は箱に何本か入ったものや、でっかいカップアイスにケーキ型のものまであった。

「アイスは一日二個までだぞ。美味いからって一気に食ったら駄目だからな」

 真面目ぶって言う先輩だったが、こっちを見る表情はきっとオレと同じくらいにだらしない。はにかみ笑う先輩を見ていると、互いの気持ちが同調している錯覚に陥り、興奮とは別の理由から顔が赤くなるのが分かった。
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