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圏ガクの夏休み
お節介の成果
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「夷川? どうした、腹痛は治まったのか」
階段を下り図書室へと続く廊下に出ると、タイミング良く顔を出した女神が声をかけてくれた。腹痛は治まったので戻って来たと説明すると
「今日はもう終了だ。梱包した物を荷台に乗せれば、な。少し重いがいけるか?」
女神が視線で背後を指すので、第二図書室を覗き込んでみると、随分と捗ったらしく段ボールが十箱以上並んでいた。サボった分を少しでも取り戻さねばと元気よく返事すると、女神は車を回してくると豪快に一箱肩に乗せて先行した。
妙な対抗意識が芽生え、男としては二箱ぐらい抱えて下りてやろうと、やる気を漲らせ室内に入れば、何故か中は無人だった。
あの童貞はどこ行った? 女神にいい所を見せようと、一足先に段ボール抱えて下りたのか? 少し不審に思いつつも、遅れを取り戻そうとオレも段ボールに手を伸ばす。
ちょうど二箱重ねて置いてあったので、しゃがんで下の箱を抱え込み、一気に持ち上げる! …………結果から言うと、稲継先輩の梱包が不十分だったのか、オレの持ち方がアレだったのか、二箱分の成果が無に帰した。
未開の地にその残骸を押しやるという姑息な手段で誤魔化そうとしたが、戻って来た女神に一発で見抜かれ、視界に星が瞬くような強烈な拳骨を頂戴した。
「箱が崩れてしまったのは仕方が無い。が、何故それを隠す必要があるんだ。そのような卑怯な真似はするな、いいな!」
実に誠実な人だ。清廉潔白というか、今の煩悩の塊みたいなオレには眩しすぎる教育方針だった。素直に返事をして、ついでとばかりに稲継先輩の所在について聞いてみると、なんとあの童貞、オレが気を利かせて用意してやった、女神と二人きりの空間から逃げ出しやがったらしい。
「稲継なら保健室で休んでいるよ。帰る前に様子を見に行くつもりだが、夷川も気にしてやってくれ。大丈夫と言っていたが、暑さで出た鼻血と言うには、少しばかり量が多かったからな。無理をさせていたのかもしれん」
敵前逃亡ではなく、限界までは頑張ったようだ。稲っちだけに見える幻覚の女神が、惜しげもなく乳をさらけ出したのかもしれない。「おかげで随分と捗ったぞ」と冗談のノリで笑って見せる女神だったが、破壊神として一応の自覚はあるのだ、申し訳なさで土下座したくなった。
両手の指で足りるくらいの数に減った段ボール箱を一つ抱えて玄関まで下りると、初日に小吉さんと一緒に乗った命がけのアトラクションである、軽トラが止まっていた。
荷台に乗る女神に段ボール箱を受け渡し、駄目にした分を取り戻そうと急ぎ次の箱を取りに戻る道中、先生への挨拶を済ませた先輩と鉢合わせた。
事情を説明すると「手伝うよ」そう言って一緒に図書室へ向かってくれる。
「結構、重いなコレ」
そんな事を言いつつも、オレが最初に挑戦した二つ持ちを軽々とやってのける先輩。
どうやら、稲継先輩の梱包は十分でオレの持ち方がアレだったらしい。とんだ濡れ衣を着せてしまっていたようだ。
「無理せずにセイシュンは一個からだ」
先輩に持ち方を伝授してもらうも、基礎体力的な部分が足りておらず、二つ持ちは断念せざるを得なかった。
どうにも悔しくて駄々を捏ねていると、何故か先輩が、三つの段ボール箱を抱えて下りるなどと馬鹿げた事態になってしまったが、反省より先にその隆々とした腕の筋肉が気になってしまい、自分の煩悩に辟易した。
男である先輩の体に興奮している自分が抑えられず、稲継先輩を見習い、魅力的な女神の乳を頭の中で揺らしたり、さらしを引き千切り剥き出しにしてみたが、どう頑張っても先輩の汗ばんだ肌から視線を逸らす事が出来なかった。
厄介な事に、オレの中で圏ガクの呪いは完全に成就し、どう考えても病気の域である欲求が、忌避感も嫌悪感もなく量産され始める。
先輩への感情は、情欲を混ぜながら、ゆっくりと確実に大きくなっていた。それを友情と呼ぶには些か歪で、けれど、自分の中で的確な名前をつけるのを躊躇わせる程度には、オレの判断力も鈍ってはいなかったが、手遅れなのは明らかだった。
本日の成果を積み終わり、校舎内に戻ろうとしたオレたちの背後、校門から勢いよくバスが飛び込んで来た。
それを見るや丁度いいと笑い女神は「霧夜先生によろしく伝えてくれ」と伝言を残し、穏やかに、けれど結構なスピードで入れ違いに学校を出て行った。
軽トラの機嫌のよさそうな音を聞きながら、車も脂ぎったおっさんより美人で乳のでかい女にハンドルを握られたいんだなぁと、詮無い事を考えながら見送る。
「一応、残られてる先生全員に挨拶しときたいから、ちょっと顔出して来るな。セイシュンはどうする?」
女神を見送り、日の暮れだしたグラウンドをぼんやり眺めていると、先輩は先に回れ右をして校舎に向かって歩き出していた。
「オレも行くよ! 小吉さ、じゃなくて、あの、世話になってる二年生をいつも迎えに行ってるから」
「あぁ、そうだったな。そいつらにもちゃんと礼を言わないとな」
真剣な顔して頷いている先輩は手をポンと打ち、名案だと言いたげな表情で「そうだアイスもやろう」と言って、ついでとばかりにオレの頭をポンポンやった。
子供扱いされていると腹立たしくもあるはずなのに、腹の底から心地良い温かさが満ちてくるのは不思議だ。野良犬の餌付けみたいなモンだろうか、先輩がするこの行為は。すっかり飼い慣らされてしまっている気がする。
先輩の手や腕に飛びつきたい気持ちをなんとかやり過ごし、大人しく隣に並んで歩く。廊下を歩きながら、髭にオレの事を頼んでくれたのかと問えば、先輩はそうだと答えてくれた。
「真山の事を慕ってる奴らが、留守番を買って出るのは知ってたから、セイシュンがピンチの時は助けてやって欲しいって頼んでたんだ」
当たり前みたいに軽く言ってくれる。こっちはそれを聞いて鼻の奥がきゅーんと痛くなってしまったじゃあないか、この野郎。
「頼むくらいならしてやるって真山が言ってくれたから、俺も安心して山を下りられた。圏ガクで真山の頼みほど信頼出来るものはないからな」
嬉しそうな顔で「真山が帰って来たら一緒にお礼を言おうな」とか言いやがる。髭に対する感謝の気持ちと同じくらい、先輩にこんな顔をさせる髭に対する嫉妬が膨らむ。自分の狭量さが嫌になる。
男の嫉妬はみっともない。グッと奥歯を噛みしめ膨らみ続ける嫉妬を潰す。けれどオレの気色悪い気持ちになんて全く気付いていない先輩は、髭の事を話し続け、それがどうにも恨めしくて、つい手を伸ばしてしまった。先輩の手を握ってしまった。
驚いたように足を止める先輩は、ふて腐れたオレの顔を見つめると、しょうがないなぁと言いたげに目を細め、優しく手を握り返してくれた。
夕涼みと洒落込みたい頃合いだが、校舎内は迷惑な事に蒸し暑さが居座っている。握った自分の手がじっとりと汗ばんでいるのに気付き、名残惜しくも気が気でなく、校舎を出て旧館に向かう時、履き物を替える為に離した手を再び伸ばす事はしなかった。
まあ、他の奴らの前で仲良く手を繋いでいる訳にもいかないしな。
人気のなかった校舎とは違い、旧館には奉仕作業から帰った連中の喧騒が溢れ返っていた。最初の頃こそ、小吉さんや山セン以外の奴は、一日の労働で酷使した体を引きずるように持ち帰り、誰一人として口を開く事すら出来なかったのに、慣れとは恐ろしいもので、馬鹿騒ぎとまではいかずとも一階の廊下には騒々しい気配が広がっている。
そこへ先輩と連れだってオレが現れたせいで、水を打ったように誰もが口を閉じた。向けられるのは、心地良いとは言い難いはずの敵意剥き出しの視線だったが、その中にオレを便器として見るようなモノは混ざっていなかった。
その代わり憎悪を煮詰めたような香月の視線は顕著で、今にも掴み掛かってくるんじゃないかと身構えたが、オレらに向かって真っ先にアクションを起こしたのは別の奴だった。
「ま、まさか、お前は金城かッ! ここで会ったが百年目、今こそ雪辱を果たす時……いざッ尋常に勝負しろ!」
いつもの色ボケした……もとい不抜けた……いやいや、もとい! とにかくチャラい山センが目の色を変えて、突進する勢いで距離を詰め、先輩の鼻先に指を突きつけて来た。鼻息荒く相手の出方を窺う山センを先輩はきょとんとした顔で見つめている。
「? えーっと? お前、誰だっけ? どこかで見た気もするんだが…………すまん、思い出せん」
疑問符を乱舞させつつも、思い出そうと目を瞑り唸ってみせる先輩だったが、すぐさま諦めたようで、潔くカラッと笑い山センを一刀両断した。山センは屈辱からかブルブルと震え、バッと一歩飛び退くと、啖呵を切るような勢いで自ら名乗りを上げる。
「見忘れたなどとは言わせんぞ! オレは圏ガク始まって以来のスゥーパァーイケメンこと山本千尋だ! ほら頑張って思い出せ~、お前はやれば出来る子だろ金城! ほらほら一年の時は一緒のクラスだっただろ~」
フルネームを言われても困った顔で首を傾げている先輩に、山センは縋るように肩を掴み、なんとか先輩の記憶を発掘しようと必死で語りかけている。てか、スゥーパァーイケメンって自称するのは酷いな。語感は間抜けだし、冗談が微塵も感じられない自己認識もすげぇイタイ。
「山セン留年して今は二年生だけど、元は先輩と同じ学年なんだって」
めんどくさい絡み方をしてくる山センに、心底申し訳なさそうな顔で困っている先輩を見かねて助け船を出す。「留年……山本……すぅーぱぁーいけめん」脳内で検索しているのだろう、先輩は小声で呟きながら、眉間に皺を寄せてしまう。
階段を下り図書室へと続く廊下に出ると、タイミング良く顔を出した女神が声をかけてくれた。腹痛は治まったので戻って来たと説明すると
「今日はもう終了だ。梱包した物を荷台に乗せれば、な。少し重いがいけるか?」
女神が視線で背後を指すので、第二図書室を覗き込んでみると、随分と捗ったらしく段ボールが十箱以上並んでいた。サボった分を少しでも取り戻さねばと元気よく返事すると、女神は車を回してくると豪快に一箱肩に乗せて先行した。
妙な対抗意識が芽生え、男としては二箱ぐらい抱えて下りてやろうと、やる気を漲らせ室内に入れば、何故か中は無人だった。
あの童貞はどこ行った? 女神にいい所を見せようと、一足先に段ボール抱えて下りたのか? 少し不審に思いつつも、遅れを取り戻そうとオレも段ボールに手を伸ばす。
ちょうど二箱重ねて置いてあったので、しゃがんで下の箱を抱え込み、一気に持ち上げる! …………結果から言うと、稲継先輩の梱包が不十分だったのか、オレの持ち方がアレだったのか、二箱分の成果が無に帰した。
未開の地にその残骸を押しやるという姑息な手段で誤魔化そうとしたが、戻って来た女神に一発で見抜かれ、視界に星が瞬くような強烈な拳骨を頂戴した。
「箱が崩れてしまったのは仕方が無い。が、何故それを隠す必要があるんだ。そのような卑怯な真似はするな、いいな!」
実に誠実な人だ。清廉潔白というか、今の煩悩の塊みたいなオレには眩しすぎる教育方針だった。素直に返事をして、ついでとばかりに稲継先輩の所在について聞いてみると、なんとあの童貞、オレが気を利かせて用意してやった、女神と二人きりの空間から逃げ出しやがったらしい。
「稲継なら保健室で休んでいるよ。帰る前に様子を見に行くつもりだが、夷川も気にしてやってくれ。大丈夫と言っていたが、暑さで出た鼻血と言うには、少しばかり量が多かったからな。無理をさせていたのかもしれん」
敵前逃亡ではなく、限界までは頑張ったようだ。稲っちだけに見える幻覚の女神が、惜しげもなく乳をさらけ出したのかもしれない。「おかげで随分と捗ったぞ」と冗談のノリで笑って見せる女神だったが、破壊神として一応の自覚はあるのだ、申し訳なさで土下座したくなった。
両手の指で足りるくらいの数に減った段ボール箱を一つ抱えて玄関まで下りると、初日に小吉さんと一緒に乗った命がけのアトラクションである、軽トラが止まっていた。
荷台に乗る女神に段ボール箱を受け渡し、駄目にした分を取り戻そうと急ぎ次の箱を取りに戻る道中、先生への挨拶を済ませた先輩と鉢合わせた。
事情を説明すると「手伝うよ」そう言って一緒に図書室へ向かってくれる。
「結構、重いなコレ」
そんな事を言いつつも、オレが最初に挑戦した二つ持ちを軽々とやってのける先輩。
どうやら、稲継先輩の梱包は十分でオレの持ち方がアレだったらしい。とんだ濡れ衣を着せてしまっていたようだ。
「無理せずにセイシュンは一個からだ」
先輩に持ち方を伝授してもらうも、基礎体力的な部分が足りておらず、二つ持ちは断念せざるを得なかった。
どうにも悔しくて駄々を捏ねていると、何故か先輩が、三つの段ボール箱を抱えて下りるなどと馬鹿げた事態になってしまったが、反省より先にその隆々とした腕の筋肉が気になってしまい、自分の煩悩に辟易した。
男である先輩の体に興奮している自分が抑えられず、稲継先輩を見習い、魅力的な女神の乳を頭の中で揺らしたり、さらしを引き千切り剥き出しにしてみたが、どう頑張っても先輩の汗ばんだ肌から視線を逸らす事が出来なかった。
厄介な事に、オレの中で圏ガクの呪いは完全に成就し、どう考えても病気の域である欲求が、忌避感も嫌悪感もなく量産され始める。
先輩への感情は、情欲を混ぜながら、ゆっくりと確実に大きくなっていた。それを友情と呼ぶには些か歪で、けれど、自分の中で的確な名前をつけるのを躊躇わせる程度には、オレの判断力も鈍ってはいなかったが、手遅れなのは明らかだった。
本日の成果を積み終わり、校舎内に戻ろうとしたオレたちの背後、校門から勢いよくバスが飛び込んで来た。
それを見るや丁度いいと笑い女神は「霧夜先生によろしく伝えてくれ」と伝言を残し、穏やかに、けれど結構なスピードで入れ違いに学校を出て行った。
軽トラの機嫌のよさそうな音を聞きながら、車も脂ぎったおっさんより美人で乳のでかい女にハンドルを握られたいんだなぁと、詮無い事を考えながら見送る。
「一応、残られてる先生全員に挨拶しときたいから、ちょっと顔出して来るな。セイシュンはどうする?」
女神を見送り、日の暮れだしたグラウンドをぼんやり眺めていると、先輩は先に回れ右をして校舎に向かって歩き出していた。
「オレも行くよ! 小吉さ、じゃなくて、あの、世話になってる二年生をいつも迎えに行ってるから」
「あぁ、そうだったな。そいつらにもちゃんと礼を言わないとな」
真剣な顔して頷いている先輩は手をポンと打ち、名案だと言いたげな表情で「そうだアイスもやろう」と言って、ついでとばかりにオレの頭をポンポンやった。
子供扱いされていると腹立たしくもあるはずなのに、腹の底から心地良い温かさが満ちてくるのは不思議だ。野良犬の餌付けみたいなモンだろうか、先輩がするこの行為は。すっかり飼い慣らされてしまっている気がする。
先輩の手や腕に飛びつきたい気持ちをなんとかやり過ごし、大人しく隣に並んで歩く。廊下を歩きながら、髭にオレの事を頼んでくれたのかと問えば、先輩はそうだと答えてくれた。
「真山の事を慕ってる奴らが、留守番を買って出るのは知ってたから、セイシュンがピンチの時は助けてやって欲しいって頼んでたんだ」
当たり前みたいに軽く言ってくれる。こっちはそれを聞いて鼻の奥がきゅーんと痛くなってしまったじゃあないか、この野郎。
「頼むくらいならしてやるって真山が言ってくれたから、俺も安心して山を下りられた。圏ガクで真山の頼みほど信頼出来るものはないからな」
嬉しそうな顔で「真山が帰って来たら一緒にお礼を言おうな」とか言いやがる。髭に対する感謝の気持ちと同じくらい、先輩にこんな顔をさせる髭に対する嫉妬が膨らむ。自分の狭量さが嫌になる。
男の嫉妬はみっともない。グッと奥歯を噛みしめ膨らみ続ける嫉妬を潰す。けれどオレの気色悪い気持ちになんて全く気付いていない先輩は、髭の事を話し続け、それがどうにも恨めしくて、つい手を伸ばしてしまった。先輩の手を握ってしまった。
驚いたように足を止める先輩は、ふて腐れたオレの顔を見つめると、しょうがないなぁと言いたげに目を細め、優しく手を握り返してくれた。
夕涼みと洒落込みたい頃合いだが、校舎内は迷惑な事に蒸し暑さが居座っている。握った自分の手がじっとりと汗ばんでいるのに気付き、名残惜しくも気が気でなく、校舎を出て旧館に向かう時、履き物を替える為に離した手を再び伸ばす事はしなかった。
まあ、他の奴らの前で仲良く手を繋いでいる訳にもいかないしな。
人気のなかった校舎とは違い、旧館には奉仕作業から帰った連中の喧騒が溢れ返っていた。最初の頃こそ、小吉さんや山セン以外の奴は、一日の労働で酷使した体を引きずるように持ち帰り、誰一人として口を開く事すら出来なかったのに、慣れとは恐ろしいもので、馬鹿騒ぎとまではいかずとも一階の廊下には騒々しい気配が広がっている。
そこへ先輩と連れだってオレが現れたせいで、水を打ったように誰もが口を閉じた。向けられるのは、心地良いとは言い難いはずの敵意剥き出しの視線だったが、その中にオレを便器として見るようなモノは混ざっていなかった。
その代わり憎悪を煮詰めたような香月の視線は顕著で、今にも掴み掛かってくるんじゃないかと身構えたが、オレらに向かって真っ先にアクションを起こしたのは別の奴だった。
「ま、まさか、お前は金城かッ! ここで会ったが百年目、今こそ雪辱を果たす時……いざッ尋常に勝負しろ!」
いつもの色ボケした……もとい不抜けた……いやいや、もとい! とにかくチャラい山センが目の色を変えて、突進する勢いで距離を詰め、先輩の鼻先に指を突きつけて来た。鼻息荒く相手の出方を窺う山センを先輩はきょとんとした顔で見つめている。
「? えーっと? お前、誰だっけ? どこかで見た気もするんだが…………すまん、思い出せん」
疑問符を乱舞させつつも、思い出そうと目を瞑り唸ってみせる先輩だったが、すぐさま諦めたようで、潔くカラッと笑い山センを一刀両断した。山センは屈辱からかブルブルと震え、バッと一歩飛び退くと、啖呵を切るような勢いで自ら名乗りを上げる。
「見忘れたなどとは言わせんぞ! オレは圏ガク始まって以来のスゥーパァーイケメンこと山本千尋だ! ほら頑張って思い出せ~、お前はやれば出来る子だろ金城! ほらほら一年の時は一緒のクラスだっただろ~」
フルネームを言われても困った顔で首を傾げている先輩に、山センは縋るように肩を掴み、なんとか先輩の記憶を発掘しようと必死で語りかけている。てか、スゥーパァーイケメンって自称するのは酷いな。語感は間抜けだし、冗談が微塵も感じられない自己認識もすげぇイタイ。
「山セン留年して今は二年生だけど、元は先輩と同じ学年なんだって」
めんどくさい絡み方をしてくる山センに、心底申し訳なさそうな顔で困っている先輩を見かねて助け船を出す。「留年……山本……すぅーぱぁーいけめん」脳内で検索しているのだろう、先輩は小声で呟きながら、眉間に皺を寄せてしまう。
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