圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み

思い出ハラハラ

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 圏ガクでの初日に由々式と屋上に来なかったら、先輩とは出会わなかったかもしれない。ふと思い浮かんだ考えにゾクッと寒気が走った。先輩がいない生活なんて考えられない今となっては、由々式と自分の無鉄砲さに、運命なんて仰々しくも馬鹿らしい言葉を当て嵌めそうになる。

 まさか自分がホモになるとは夢にも思わなかったけどな。

「まあ……先輩が相手なら仕方ないよな」

 呆れも含んだ自嘲である苦笑ですら、甘ったるく感じるほどに、オレは幸せを実感していた。

「俺が相手なら何が仕方ないんだ?」

 首筋を襲った冷たい感触と、気配もなく降って湧いたような登場をする先輩に、情けなく声を上げて驚いてしまう。振り返ると、部屋から持って来たらしい紙パックのジュースを片手で二つ持ち、不思議そうな顔をした先輩が首を傾げていた。

「べ、べべ別になんでもねぇし! てか先輩、いきなり人の背後に出現すんの止めろよ! 忍者かッてめぇ!」

  忍者という単語がツボに入ったのか「お前、たまに変な事言うよな」と背中をバシバシ叩かれながら笑われてしまった。背中の衝撃でむせながらも抗議を続けると、先輩は手に持ったジュースを一つ差し出す。

「いや、ちょっと驚かせてやろうと思って、そろっと近づいたんだ。ん、だから大成功だ」

 オレの恥ずかしい独り言を有耶無耶には出来たが、真顔で言い切られると腹も立ち、差し出されたジュースをふんだくってやった。礼も言わず、ストローをぶっさしてやろうとして、手元に視線をやると、目に入ったパッケージに思わず手が止まる。

「今日はキャンプだからさ。少しくらいなら、まあ羽目を外してもいいかと思ってな」

 随分と久し振りな味を連想させないパッケージ、小さな冷蔵庫の中で隠すように置かれていた毒ジュースだ。

「ちゃんと野菜ジュースの方を飲んでたセイシュンにご褒美だ」

 先輩の気持ちは嬉しい。でも、自分の気持ちを素直に告白する事にした。

「先輩、オレ、そっちの方がいい。交換しよう」

 そう言うや、オレは先輩が自分用に持って来ていた野菜ジュースと、毒ジュースを素早く取り替える。動揺する先輩に取り替えさせまいとして、流れる動作でストローをさし一吸い。うん、美味しい。

「オレ、先輩のせいで舌が変わったんだ。だから、それは責任を持って先輩が飲め」

 ビシッと指を突きつけて言い放つと、先輩はちょっと嬉しそうな顔をした後、手元に視線を落とし暗い顔をして、無表情でストローをさした。

「…………冷蔵庫の残りは、稲継と矢野にやろう」

 一口で責任を放棄した先輩は、圏ガクの最上級生らしい事を言う。小吉さんを外す辺りに先輩もオレと同じただの人なんだなぁと感じながら、二人で協力して毒を平らげた。
 汚染された舌を洗い流す為、少し早めの歯磨きを済ませ、キャンプ気分をテントの中で満喫しようと提案する。蚊帳で覆われたテントは、風通しがよく、ビニールシートで作ったものより過ごしやすかった。

「セイシュン、明かりを消すぞ」

 テントの中に潜り込み、寝袋の上でゴロンと横になると、先輩はせっかく灯したランプをフッと消してしまった。

「え、もう寝る気?」

 自分の寝床で横になる先輩は、正に寝る体勢でオレは慌てて起き上がる。

「お前も横になって目を瞑れ。先輩命令な」

 有無を言わさず命令してくる先輩。狭いテントの中に誰にも邪魔されず二人きりでいるんだし、ちょっと悪戯してやろうとか企んだりもしてたけど、こんな即行で就寝を言い渡されるとは思っていなかった。

「先輩、オレまだ眠くない」

 ふて腐れた声でそう言うと「別に眠れとは言ってない」と前置きしてから、早く寝ろとせっつくように寝袋を叩かれる。不承不承寝転がるが、このまま寝るなんて考えられないので、横を向き先輩の顔をジッと睨むように見つめ続けた。そうして数分が経った頃、暗闇に目が慣れ、穏やかな寝顔を視姦出来るようになると、唐突に先輩が目を開け、オレの方へと顔を向けた。

「ん、セイシュン、こっちじゃないぞ。上を見てみろ、上だ」

 いきなりオレと目が合って面食らった先輩は、すぐに顔を逸らすと、オレではなく頭上へと視線を向ける。避けられたみたいで腹は立ったが、言われるまま仰向けになると、口から垂れ出ていた文句は感嘆に変わった。

「星……すごい、いっぱいだ」

 蚊帳越しだと言うのに、目の前には星が、無数の星が瞬いている。

「蚊取り線香を出して、寝袋をちょっとずらす……と」

 その景色に見とれていたオレが、何か言いたくて先輩の方を向くと、顔だけをテントの外に出した大男が横たわっていて、せっかくの感動が一瞬で冷めてしまった。

「何してんだよ、先輩」

 感動を返せという気持ちが籠もったオレの声は、冷静さも加わり必要以上に平坦になってしまう。

「セイシュンもちょっと顔だけ出してみろ。その方がキレイに見えるから」

 間抜けな体勢でオレを呼ぶ先輩は、顔は微動だにせず、何故か手や足を必死でばたつかせて、まるで子供みたいだ。自分が一緒にやる恥ずかしさより、先輩を一人でこのまま放置する方の恥ずかしさが勝り、オレは寝袋ごとズリズリと頭一つ分這いずり、テントの外に頭を突き出す。

「な、こうやって見る方がキレイだろ」

 目の前に広がる星を眺めて素直に頷こうとして、隣に視線をやり失敗に終わる。テントからにょきっと頭が飛び出た先輩を見ると駄目だった。ついでに自分も同じように並んでいると思うと、更に駄目だった。

 これ以上ないロマンチックな景色だというのに、オレは腹を抱えて爆笑してしまう。オレの反応に不服そうな先輩は、そっぽを向いてしまうが、それがまた可笑しくてオレは暫く笑い続けた。

 こんな体勢ではなく、普通にこの空を見上げていたら、ちゅーの一つもしたくなったに違いない。ちゅーまで行かずとも、かなりいい雰囲気になっただろうが、コレは無理だ。

「星座とか知ってそうなセイシュンとなら、天体観測とか面白いかと思ったんだよ」

 すっかり拗ねてしまった先輩は、そっぽを向いたまま、そんな事を言った。

「オレは別に星座とか詳しくないよ。先輩は好きなの?」

 ようやく落ち着き、満天の星を見上げながら、改めてその美しさに見入った。特に好きという訳じゃあないと答えながら、テントの中に戻る先輩に倣い、オレも頭を引っ込める。

「学校以外に明かりがないだろ、暗いから星がよく見えるんだ。それに山の上だから空も近い」

 マッチで火をおこし、ランプを灯す。蚊取り線香もテントの中に戻し、オレらは向かい合って寝袋に腰を下ろした。

「圏ガクに来てから星空を見るの初めてだった。前に屋上に来た時は、森にばっかり目がいってたから、すごく驚いた」

 素直に伝えると、らしくない不機嫌そうな先輩のレア顔は、いつもの暢気な顔に戻ってくれた。

「本番では、もっとキレイに見えるぞ。周りに何も明かりがなくなるからな」

 キャンプの本番までに星座の勉強をしてみようかな。寝転がった先輩の真似をして、オレも寝袋の上でグッと背中を伸ばす。見上げれば満天の星、隣には機嫌を直してくれた先輩。このまま大人しく就寝するには惜しい状況だ。冗談のノリで襲いかかり、ちゅーの一つもかましてやりたかったが、せっかくのテントが暴れて壊れでもしたら大変なので自嘲する。

「先輩、あのさ、オレ……先輩の事をもっと知りたい」

 オレは少し起き上がり、先輩にそう切り出す。

「んー俺の何を知りたいんだ? 面白い話とか期待されても持ち合わせはないぞ」

 笑いながら先輩もオレの方へ顔を向けてくれる。

「別に面白い話じゃなくていいよ。そうだな……例えば、好きな音楽とかスポーツとか、嫌いな物の話でもいいし……その、本当になんでもいいんだ。先輩の事ならオレなんでも知りたい」

 狭いテントの中、鼻息荒く詰め寄るオレでも、先輩は当たり前みたいに頭を撫でてくれる。

「俺もセイシュンをもっと知りたいな。ん、じゃあ今夜は男同士、ちょっと語り合うか」

 楽しそうに笑ってくれる先輩の言葉に、他意はないだろうが心拍数が上がってしまう。つい甘えたくなる雰囲気、そこへ飛び込もうとする自分に釘を刺す。今日はあくまで男同士の語り合いだ。勢いに任せて、先輩にセクハラしまくったりはしないのだ。

「じゃ、じゃあオレから聞いてもいい?」

 少し前のめり気味に挙手をするオレに、気安く「いいよ」と言ってくれる。

「先輩、今、好きな奴とかいる?」

 自分でも引くぐらいド直球な質問。てか、先輩がポカンとしてしまっている! 

「今って言うか、恋人とかいるのかなって……いや、その……もしかして、本気で今いたり、する? ここじゃなくて、学校でじゃなくて、そりゃそうなんだけど、その、前に住んでた所とか……彼女……遠距離恋愛、的な」

 誤魔化そうと慌てて取り繕うが、オレの声はどんどん核心を突くような所まで進んでしまう。ダラダラと冷や汗が吹き出し顔も熱い。
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