圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
391 / 411
蜜月

マンガのチカラ

しおりを挟む
「夷川、おっそいべ!」

 解説を寮長に頼もうとしたら秒殺(黙殺)され、意気消沈して部屋に戻ると、いきなり由々式に詰め寄られた。

「なんだよ。別になにも」

 約束してないだろ、そう言いかけて部屋の違和感に気が付く。

「………………」

 部屋のど真ん中にスケッチブックを前に精神統一でもしているのか、座禅を組む呉須が居た。有り難がった方がいいんだろうかと考えてしまうくらい、その姿は威圧感があり、正に神が顕現しているようでさえある。まあエロマンガの神な訳だが。

「ちゃっちゃっと座るべ。神の貴重な時間を浪費するでねぇべ」

 由々式に押され、呉須の前に無理やり座らされる。こちらが様子を伺っていると、唐突に呉須の目がカッと開き、思わずビクッとしてしまう程の異様な迫力に立ち上がりそうになったが、由々式に背後を取られているので逃げられそうにもない。

 諦めて何が始まるのか大人しく待つと、呉須はパタンとスケッチブックを開き、どこから出したのか鉛筆を手にし、迷う事なく紙の上へと芯を滑らせた。魔法のように描き出されたのは、乳や尻を放り出した女ではなく、一匹の独特なファッションをした犬だった。

「『忍者勇者カクレコノハ』のカツヤについて知りたいんじゃろ。その話を神殿にしたら、直々にご講義下さると申し出てくれたんじゃ」

 確かに知りたいとは思ったが、教えてくれと由々式に頼んだ記憶がなく、戸惑っていると狭間が「ごめん」と申し訳なさそうな顔を見せた。

「もしかしたら必要かなって……聞いたら大ごとになってしまいました」

 狭間は先輩の名前を知っていたのか、気を回してくれたらしい。人の名前、それもフルネームで覚えてるのすげぇな。オレがフルネームで言える奴は片手で足りるんじゃねってくらい少ない。これは問題だろうか……地味に不安だ。

「…………」

 呉須はリアルな犬の絵の横に、同じ妙な格好をした犬のキャラクターも描き添えて、スケッチブックを切り離し手渡してくる。その目は『これが新旧のカツヤだよ』と言っているように見えた。

「昔は実写の戦隊モノだったんじゃが、今はアニメになっとるんじゃ。こっちはきっと見た事あるじゃろ。コンビニでコラボ商品やくじが出るくらい人気あるからのう」

 由々式がキャラクターの方を指さして補足する。オレの中にはどこかで見た記憶はなかったが、狭間は思い当たるものがあったらしく「これ、アニメのキャラだったんだね」と相槌を打った。

「夷川が知りたいのは、どっちのカツヤなんじゃ?」

 呉須の眼差しを受け、由々式が通訳をしてくれる。オレは迷う事なく流行っているらしいキャラクターの方ではなく、リアルな犬の方を指さす。すると呉須は少し悩むように目を瞑ったが、再度開眼した途端、ものすごい勢いでスケッチブックに何かを描きだした。

「動画は用意するのに時間がかかるだろうからと、マンガを描いて下さっとるんじゃ。感謝して跪き咽び泣くように」

 由々式は無視して呉須の手元に視線をやる。フリーハンドで見事に真っ直ぐな線を引き四角が量産され、その中に次々と場面が浮かび上がってくる。

「なんか……プロみたいって言葉さえ霞むな」

 迷いのなさや正確さで『こいつ本当に人間か?』と思わせる勢いのまま、マンガが仕上がっていく。ただ最後にまとめて書き込まれたセリフや説明文の文字だけは、無駄に丸みが強くそこにだけ人間味を感じた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...