392 / 411
蜜月
カツヤの事情
しおりを挟む
「…………」
描き上がったページを破り、さっきの勢いはどこへ行ったのか、そっと差し出してくる呉須。その目は「もっとちゃんと描けたらいいんだけど、ごめんね」と何故か申し訳なさそうだった。そしてオレが受け取ると、再びスケッチブックへと向かい続きを描き出す。
「マンガ家ってすげぇな」
素直に驚きを口にすると、由々式がオレの手元を覗き込んで言った。
「そうじゃねぇべ。この方がすごいんじゃ。正真正銘の神じゃよ」
大袈裟な言い方だが、納得してしまうくらいには、オレにも呉須のすごさが分かった。
その後、消灯時間ギリギリまで呉須はオレらの部屋に滞在し『忍者勇者カクレコノハ』のカツヤが登場する回のマンガを描き切ってくれた。おかげで、先輩の名前の由来になったカツヤの事を知る事ができた。
悪の組織が行った動物実験で、高い知能と特殊な(なんかソニックブームみたいなの出せる)能力を持つ事になった犬が、悪い奴らに操られて主人公たちと敵対する。犬一匹に追い詰められた主人公たちだったが、トドメを刺す直前でカツヤは正気を取り戻し、主人公たちを助け致命傷の怪我を負った。その最後に主人公の一人に「ありがとう」と言い残して息絶えた。
カツヤを看取ったそいつは、悪の組織に捕まる前ボロボロの野良犬だったカツヤに餌をやった事があったらしいが、カツヤの境遇に同情する事なく血まみれで倒れたカツヤを捨て置き話は進み、あまりに可哀想だと視聴者からのクレームで大炎上したのだとか。
由々式が横から設定やらなんやら補足説明をしてくれたが、その辺は例の如く聞き流したので、だいぶ大雑把なあらすじになったがこんな感じだ。
当時の放送時間は朝、しかも子供番組で動物が悲惨な死に方をしたのだから、そりゃクレームも来るだろうな。
「カツヤ事件は小さい方なんじゃがな。後半はもっと物議を醸す展開のオンパレードで伝説になっとるからな。何回かは放送中止になって別番組に差し替えられたとかなんとか」
よくリメイクしようと思ったな、そんな爆発物。
「そういう無茶苦茶な内容が、新たな才能を刺激して天才を生み出したりもするんじゃよ。まあオリジナルは個人的にはナシじゃが、リメイク版はアリ寄りのアリじゃな。いっぺん見てみるといいべ」
呉須が描いてくれたマンガの最後のページ、息絶えたカツヤは打ち捨てられた感が強く、何の思い入れもないオレが見ても悲しかった。「可哀想だな」と呟けば、由々式は嬉々として更に口を開く。
「そう思うなら、尚更リメイク版を見るといいべ。単純に別のシナリオに使われとる訳じゃなく、オリジナルの結末からしっかり救い出されとるから」
……昔は悲惨だったが、今は幸せなのか。微妙に先輩と被っているように思えて、由々式に「いつか見てみたい」と素直に答えた。
描き上がったページを破り、さっきの勢いはどこへ行ったのか、そっと差し出してくる呉須。その目は「もっとちゃんと描けたらいいんだけど、ごめんね」と何故か申し訳なさそうだった。そしてオレが受け取ると、再びスケッチブックへと向かい続きを描き出す。
「マンガ家ってすげぇな」
素直に驚きを口にすると、由々式がオレの手元を覗き込んで言った。
「そうじゃねぇべ。この方がすごいんじゃ。正真正銘の神じゃよ」
大袈裟な言い方だが、納得してしまうくらいには、オレにも呉須のすごさが分かった。
その後、消灯時間ギリギリまで呉須はオレらの部屋に滞在し『忍者勇者カクレコノハ』のカツヤが登場する回のマンガを描き切ってくれた。おかげで、先輩の名前の由来になったカツヤの事を知る事ができた。
悪の組織が行った動物実験で、高い知能と特殊な(なんかソニックブームみたいなの出せる)能力を持つ事になった犬が、悪い奴らに操られて主人公たちと敵対する。犬一匹に追い詰められた主人公たちだったが、トドメを刺す直前でカツヤは正気を取り戻し、主人公たちを助け致命傷の怪我を負った。その最後に主人公の一人に「ありがとう」と言い残して息絶えた。
カツヤを看取ったそいつは、悪の組織に捕まる前ボロボロの野良犬だったカツヤに餌をやった事があったらしいが、カツヤの境遇に同情する事なく血まみれで倒れたカツヤを捨て置き話は進み、あまりに可哀想だと視聴者からのクレームで大炎上したのだとか。
由々式が横から設定やらなんやら補足説明をしてくれたが、その辺は例の如く聞き流したので、だいぶ大雑把なあらすじになったがこんな感じだ。
当時の放送時間は朝、しかも子供番組で動物が悲惨な死に方をしたのだから、そりゃクレームも来るだろうな。
「カツヤ事件は小さい方なんじゃがな。後半はもっと物議を醸す展開のオンパレードで伝説になっとるからな。何回かは放送中止になって別番組に差し替えられたとかなんとか」
よくリメイクしようと思ったな、そんな爆発物。
「そういう無茶苦茶な内容が、新たな才能を刺激して天才を生み出したりもするんじゃよ。まあオリジナルは個人的にはナシじゃが、リメイク版はアリ寄りのアリじゃな。いっぺん見てみるといいべ」
呉須が描いてくれたマンガの最後のページ、息絶えたカツヤは打ち捨てられた感が強く、何の思い入れもないオレが見ても悲しかった。「可哀想だな」と呟けば、由々式は嬉々として更に口を開く。
「そう思うなら、尚更リメイク版を見るといいべ。単純に別のシナリオに使われとる訳じゃなく、オリジナルの結末からしっかり救い出されとるから」
……昔は悲惨だったが、今は幸せなのか。微妙に先輩と被っているように思えて、由々式に「いつか見てみたい」と素直に答えた。
0
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる