1 / 45
#01 還暦とログイン
しおりを挟む仕事一筋、40年。
会社最優先で、結婚もせずに働き続けた。
でも、今になって後悔している。
――結婚、しておくべきだったなって。
私の名は、二瓶 豆丸、60歳。
還暦と同時に定年を迎えた。
65歳まで働けたけど、やめた。
急に馬鹿らしくなって、心のどこかがポキッと折れた気がした。
それで、思い切って山奥のド田舎に土地と家を買った。
元は50人くらい住んでいたらしいけど、今は誰もいない。
1万坪で500万。
管理が面倒で、売主は手放したがってたらしい。
残っていた建物は一棟だけ。
敷地の奥にポツンと立ってて、隣には水路。
荒れた田んぼが、ずらっと並んでる。
まあ、体力が続く限りここでのんびり暮らすつもり。
都会の喧騒に疲れた私には、ちょうどいい静けさだ。
ただ、スマホだけは手放せない。
購入前は不安だったけど、Wi-Fiは問題なし。
こんな山奥でも、ネットは生きてる。
スマホでゲームさえできれば、無人島でも生きていける気がする。
電線は昔の名残でここまで来てたみたいだけど、今はなし。
水道もないけど、山の湧き水が豊富だから困らない。
不便だけど、それもまた楽しい。
ちなみに、私が15年続けてるゲームがある。
「モリモリ」っていう積みゲー。
毎日欠かさずプレイして、今じゃコイン3億枚。
一昨年サ終したけど、オフラインでプレイはできる。
運営の更新は止まったけど、今なお続けている。
移住して3日目。
家の中を片付けてようやく外の手入れをしようとしていたのだが……。
「この世界はゲームマスターのものになりました」
なんだこれ?
目の前に突然、光っているパネルが浮かんだ。
「世界のすべてのものを〝数値化〟します」
数値化とは?
パネルに触ろうとしたら、すぐに消えてしまった。
これはいったい?
木や石に小さく『▾』が浮かんでる。
じっと見ると、こんな表示が出た。
──────────────
ただの石
価値:0コイン
希少度:☆
解説:どこにでも転がっている、ごく一般的な石。
──────────────
うーん、ゲームっぽい。
まあ、私は積み専。
RPGの世界観はよくわからない。
やったのは大昔、ドット絵の頃の記憶しかない。
他のものも試してみた。
「木」や「水」、「草」など適当にも程がある表記。
価値のあるものが見当たらない。
試しに20年間愛用している腕時計を見てみると、「腕時計、価値5コイン」と少しだけ価値があった。
まあ、海外のブランド物ではなく国内老舗の時計メーカーの頑丈なタイプなので、こんなものだろうと納得できた。
それにしてもエラい騒ぎになってるな……。
SNSを見てみるとあちこち大騒ぎになっている。
みんな目の前に数値が表示されるようになって驚いている。
ネットニュースでもやっていた。
どうやら、この数値化現象は世界中で同時に起こったらしい。
しばらくスマホで情報を集めようとしていた次の瞬間。
【国家規模の重大な緊急事態が発生しました。身の安全を最優先に行動してください。不要不急の外出を避け、水・食料の確保をお願いします】
緊急速報を受信した。
その直後にスマホがつながらなくなった。
家に戻ってテレビをつけてもどのチャンネルも真っ黒。
地上波も衛星放送も全部だめ。
だめ元で、動画配信サービスも見てみたが、やはりつながっていなかった。
人里から遠く離れているせいか、防災無線も聞こえてこない。
まいったな。
移住してきてまだ3日なので、食料があまりない。
やむなく、中古で買った軽トラで、近くの村に食料の買い出しに出かけた。
近くの村といっても、10km近くはある。
そのうえ、曲がりくねった細い一本道で舗装もされていない区間もある。
村に着いたが、人のいる気配がなく静まり返っている。
おかしい。
個人商店もシャッターが降りている。
ここから一番近いコンビニでも約5kmほど先にある。
しょうがないのでコンビニへ行こうとした。
すると突然、目の前に二つの影が飛び出した。
女の子と子熊?
一瞬のできごと。
考えるよりも先にアクセルを踏んでいた。
女の子の後を追っていた小熊らしき生き物を軽トラではねた。
衝撃はほとんどなく、ぶつかった瞬間、小熊は跡形もなく消えてしまった。
「〇〇地区での初キルおめでとうございます!」
なんだこれ?
またあの光るパネルが目の前に現れた。
「あなたは〝Player〟になりました。Phase 1 ──ステータスのロックを解除します」
なになになに?
いきなり、文字がたくさん流れ始めて、慌てて目で文字を追っていく。
「続いてPhase 2 ──〝個体スキル〟を解除します。あなたのスキルは〈積みゲー〉です」
スキルが積みゲー?……意味不明すぎる。
「では、〝No00000812〟よきゲームライフを!」
最後までよく意味がわからないまま、白く光っているパネルが消えた。
今のはいったいなんだったんだ……。
──まあいい。
とりあえず、今やるべきことは。
「この辺の子? お父さんやお母さんは」
車から降りて、道の端でぶるぶる震えている女の子に声を掛けた。
なるべく驚かせないようにそっと──。
「パパとママが……」
両腕を回し自分の肩を目いっぱい掴みながら、ポツポツと話し出した。
「化け物に……」
食べられた?
さっきのより、もっと大きな熊みたいな化け物。
とりあえず女の子を車の助手席に乗せた。
それから村の中を車でぐるぐると回ったが、他に人の気配がなかった。
グルグルグルッ!
こいつか?
全長3メートルを超える巨体。
熊かと思ったが、真っ黒で影みたいな質感の謎の生き物。
目だけが白く、ひとつ確かなことは、軽トラを凝視しているという事実。
過去一の速さでギアをシフトチェンジして加速する。
同時に化け物が後を追い始めた。
でも、ギリギリ軽トラの加速の方が速かった。
みるみる内に化け物を引き離し、その姿が見えなくなった。
マジですか……あんなのアリ?
87
あなたにおすすめの小説
神様、ありがとう! 2度目の人生は破滅経験者として
たぬきち25番
ファンタジー
流されるままに生きたノルン伯爵家の領主レオナルドは貢いだ女性に捨てられ、領政に失敗、全てを失い26年の生涯を自らの手で終えたはずだった。
だが――気が付くと時間が巻き戻っていた。
一度目では騙されて振られた。
さらに自分の力不足で全てを失った。
だが過去を知っている今、もうみじめな思いはしたくない。
※他サイト様にも公開しております。
※※皆様、ありがとう! HOTランキング1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
※※皆様、ありがとう! 完結ランキング(ファンタジー・SF部門)1位に!!読んで下さって本当にありがとうございます!!※※
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる