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#01 還暦とログイン
しおりを挟む仕事一筋、40年。
会社最優先で、結婚もせずに働き続けた。
でも、今になって後悔している。
――結婚、しておくべきだったなって。
私の名は、二瓶 豆丸、60歳。
還暦と同時に定年を迎えた。
65歳まで働けたけど、やめた。
急に馬鹿らしくなって、心のどこかがポキッと折れた気がした。
それで、思い切って山奥のド田舎に土地と家を買った。
元は50人くらい住んでいたらしいけど、今は誰もいない。
1万坪で500万。
管理が面倒で、売主は手放したがってたらしい。
残っていた建物は一棟だけ。
敷地の奥にポツンと立ってて、隣には水路。
荒れた田んぼが、ずらっと並んでる。
まあ、体力が続く限りここでのんびり暮らすつもり。
都会の喧騒に疲れた私には、ちょうどいい静けさだ。
ただ、スマホだけは手放せない。
購入前は不安だったけど、Wi-Fiは問題なし。
こんな山奥でも、ネットは生きてる。
スマホでゲームさえできれば、無人島でも生きていける気がする。
電線は昔の名残でここまで来てたみたいだけど、今はなし。
水道もないけど、山の湧き水が豊富だから困らない。
不便だけど、それもまた楽しい。
ちなみに、私が15年続けてるゲームがある。
「モリモリ」っていう積みゲー。
毎日欠かさずプレイして、今じゃコイン3億枚。
一昨年サ終したけど、オフラインでプレイはできる。
運営の更新は止まったけど、今なお続けている。
移住して3日目。
家の中を片付けてようやく外の手入れをしようとしていたのだが……。
「この世界はゲームマスターのものになりました」
なんだこれ?
目の前に突然、光っているパネルが浮かんだ。
「世界のすべてのものを〝数値化〟します」
数値化とは?
パネルに触ろうとしたら、すぐに消えてしまった。
これはいったい?
木や石に小さく『▾』が浮かんでる。
じっと見ると、こんな表示が出た。
──────────────
ただの石
価値:0コイン
希少度:☆
解説:どこにでも転がっている、ごく一般的な石。
──────────────
うーん、ゲームっぽい。
まあ、私は積み専。
RPGの世界観はよくわからない。
やったのは大昔、ドット絵の頃の記憶しかない。
他のものも試してみた。
「木」や「水」、「草」など適当にも程がある表記。
価値のあるものが見当たらない。
試しに20年間愛用している腕時計を見てみると、「腕時計、価値5コイン」と少しだけ価値があった。
まあ、海外のブランド物ではなく国内老舗の時計メーカーの頑丈なタイプなので、こんなものだろうと納得できた。
それにしてもエラい騒ぎになってるな……。
SNSを見てみるとあちこち大騒ぎになっている。
みんな目の前に数値が表示されるようになって驚いている。
ネットニュースでもやっていた。
どうやら、この数値化現象は世界中で同時に起こったらしい。
しばらくスマホで情報を集めようとしていた次の瞬間。
【国家規模の重大な緊急事態が発生しました。身の安全を最優先に行動してください。不要不急の外出を避け、水・食料の確保をお願いします】
緊急速報を受信した。
その直後にスマホがつながらなくなった。
家に戻ってテレビをつけてもどのチャンネルも真っ黒。
地上波も衛星放送も全部だめ。
だめ元で、動画配信サービスも見てみたが、やはりつながっていなかった。
人里から遠く離れているせいか、防災無線も聞こえてこない。
まいったな。
移住してきてまだ3日なので、食料があまりない。
やむなく、中古で買った軽トラで、近くの村に食料の買い出しに出かけた。
近くの村といっても、10km近くはある。
そのうえ、曲がりくねった細い一本道で舗装もされていない区間もある。
村に着いたが、人のいる気配がなく静まり返っている。
おかしい。
個人商店もシャッターが降りている。
ここから一番近いコンビニでも約5kmほど先にある。
しょうがないのでコンビニへ行こうとした。
すると突然、目の前に二つの影が飛び出した。
女の子と子熊?
一瞬のできごと。
考えるよりも先にアクセルを踏んでいた。
女の子の後を追っていた小熊らしき生き物を軽トラではねた。
衝撃はほとんどなく、ぶつかった瞬間、小熊は跡形もなく消えてしまった。
「〇〇地区での初キルおめでとうございます!」
なんだこれ?
またあの光るパネルが目の前に現れた。
「あなたは〝Player〟になりました。Phase 1 ──ステータスのロックを解除します」
なになになに?
いきなり、文字がたくさん流れ始めて、慌てて目で文字を追っていく。
「続いてPhase 2 ──〝個体スキル〟を解除します。あなたのスキルは〈積みゲー〉です」
スキルが積みゲー?……意味不明すぎる。
「では、〝No00000812〟よきゲームライフを!」
最後までよく意味がわからないまま、白く光っているパネルが消えた。
今のはいったいなんだったんだ……。
──まあいい。
とりあえず、今やるべきことは。
「この辺の子? お父さんやお母さんは」
車から降りて、道の端でぶるぶる震えている女の子に声を掛けた。
なるべく驚かせないようにそっと──。
「パパとママが……」
両腕を回し自分の肩を目いっぱい掴みながら、ポツポツと話し出した。
「化け物に……」
食べられた?
さっきのより、もっと大きな熊みたいな化け物。
とりあえず女の子を車の助手席に乗せた。
それから村の中を車でぐるぐると回ったが、他に人の気配がなかった。
グルグルグルッ!
こいつか?
全長3メートルを超える巨体。
熊かと思ったが、真っ黒で影みたいな質感の謎の生き物。
目だけが白く、ひとつ確かなことは、軽トラを凝視しているという事実。
過去一の速さでギアをシフトチェンジして加速する。
同時に化け物が後を追い始めた。
でも、ギリギリ軽トラの加速の方が速かった。
みるみる内に化け物を引き離し、その姿が見えなくなった。
マジですか……あんなのアリ?
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