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# 07 歩茶の異変
しおりを挟む「二瓶さん!」
「どうしました?」
「歩茶ちゃんが……!」
辺りはすっかり夜の帳に包まれていた。
自宅の敷地に着いた瞬間、雲の切れ間から淡い月光が差し込み、苔むした岩壁の模様が銀色に浮かび上がる。
切通しの岩場付近では、モリたちが外敵の侵入を警戒して配置されている。
そのそばには、歩茶が通っていた小中学校の校長先生が両手を胸元で握りしめ、祈るような面持ちで立っていた。豆丸が無事帰ってきたことに一度、安堵の表情を浮かべたが、すぐに顔を引き締め、軽トラへ駆け寄り、現状を報告してくれた。
家に駆け込むと、ソファには汗でぐっしょり濡れた歩茶がうなされていた。
額には玉のような汗、唇は震え、うわ言のように何かを呟いている。
「歩茶ちゃん、見ててって言ったのに!」
「知らんわい。子育てなんて女の仕事だろ!」
この男ときたら……。
豆丸の部屋を歩茶に譲っていたのに、ちゃっかり奥の部屋から出てきた村議。
「誰だ、その女は?」
「こんばんは~、今日からお世話になります、門口雨と申します~」
「勝手に食い扶持増やしやがって……」
奥方が深いため息をもらす。
なぜこんな男に、知的な奥さんがいるんだろう。
世の中、あまりにも不平等すぎる。
「車を貸してください」
「ダメだ。傷でもついたら、お前に弁償できるのか?」
歩茶を病院へ運びたい。
でも軽トラじゃ高熱の子を乗せられない。
「では、これで売ってください」
【換金】を使用。
村議の目の前に札束を5つ──500万円を置いた。
あの車は新車で800万円前後。年式も古い型なので、中古なら300万円もしない。
「……1日だけなら、この金で貸してやる」
「あなた、何を言ってるの?」
「お前は黙ってろ!」
奥方が抗議するも、一喝される。
1日500万円⁉
──だけど。
「いいでしょう。ではお借りします」
「もちろん私もついて行くわ!」
「雨さん……ありがとうございます」
雨が運転を引き受けてくれることになり、高級車の後部座席に歩茶を寝かせて運ぼうという話になった。軽トラにはバリスタとボウガン隊を搭載し、化け物の迎撃を任せる。
「でしたら、私もついて行きます」
「おい、お前はここに残れ!」
「いいえ、もうこれ以上あなたとはやってられません」
「なにぃっ⁉」
村議が激高し、妻に手をあげようとしたので、慌てて止める。
「放せ……お前か? 儂の妻をたらしこんだのは?」
「へっ? ちょっと何言ってるかわかりませんが、落ち着いてください!」
豆丸が村議と掴み合って揉めている間に女性陣はテキパキと動き、歩茶を高級車の後部座席に乗せ、奥方も看病のために同乗した。雨も運転席に座り、出発準備を整えている。
「ちっ……あんな古臭いババァなんてくれてやる! それより」
舌打ちした村議が要求してきたのは、食料、水、拳銃一丁……そしてこちらが驚く条件を提示してきた。
「ペットは全部置いてけ。じゃなきゃお前らを出すわけにいかん」
どういう理屈で、そしてどういう立ち位置でそう言っているのか理解不能だが、要求を飲むことにした。
現在、敷地を守るモリは9体。
グー犬、パー犬、チョキ犬×2、ニャース、斬リッ株、野良サル×3。
皆、カンスト状態。
村議にバレないよう、新たにオブジェクト化したモリを敷地に残し、強化済みのニャース、斬リッ株、野良サル×3体を軽トラの荷台にこっそり乗せた。
────────────────
▾防具
└聖柩【New】
▾キャラ〈Type:モリモリ〉
├斬リッ株
├ニャース
├ジャン犬
├野良サル
├ツタ忍【New】
└ゴリ親方【New】
────────────────
新しいキャラ2体と初めて防具の中に〈聖柩〉という選択肢が現れた。 先に新たに入手したモリ〈ツタ忍〉と〈ゴリ親方〉もオブジェクト化してみることにした。
まずは〈ツタ忍〉を選択。
オブジェクト化を実行すると、視界に「オブジェクト化中……」のエフェクトが走り、地面から蔦が巻き上がるようにして小柄な影が現れた。
──────────────
ツタ忍
レベル:1/5
スキル:1/6
ステータス:92
体長約1メートル。
全身蔦でできた俊敏なステルス型のモリ
・蔓縛り(敵の移動を一時停止)
・葉隠れ(一定時間、敵からのターゲットを回避)
・蔓渡り(高所での高速移動が可能)
──────────────
これはずいぶんと使い勝手のよさそうなモリだ。
続いて、ゴリ親方をオブジェクト化してみる。
今度は地面がズシンと揺れ、巨大な影が現れる。
──────────────
ゴリ親方
レベル:1/5
スキル:1/6
ステータス:138
体長約2.5メートル。
建設と破壊を司る巨体・巨腕のモリ。
・地割り(両腕で地面を砕く。範囲内の敵にスタン効果)
・ドラミングショット(ドラミングで力を溜めた一撃、単体に大ダメージ)
──────────────
「そっちは留守番だね」
「ゴリぃぃぃ~~」
悲しそうな顔をするゴリ親方。
許せ。サイズ的に軽トラに乗せるのは無理。
そして、初見の防具カテゴリ〈聖柩〉もオブジェクト化してみた。
一見何も起きなかったが、視界右上に「▾」アイコンが点滅。意識を向けるとポップアップが展開された。
────────────────
【聖柩:起動中】
効果範囲:半径5.0m
持続時間:60秒
効果:対象エリア内の味方ユニットにHP自動回復(小)
敵ユニットに継続ダメージ(微小)+鈍化(20%)
────────────────
直後、豆丸の足元から淡い青白い光が円形に広がり、地面が静かに脈打ち始めた。まるで結界が張られたかのように空気が澄み、外界の気配が遮断される。
〈聖柩〉は約1分で消失。検証は後回しにすることにした。
「では、ついてきてください」
「うふふ、お手柔らかにね。オジ様!」
雨の言葉が妙に胸に響く。心臓に悪い。
こうして、深夜の決死行が幕を開けた──。
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