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# 06 死なない男
しおりを挟む「ところで、自己紹介がまだだったわね。私は門口雨、オジ様は?」
「ああっ、失礼。二瓶、二瓶豆丸です」
「あら? オジ様ったら、礼儀正しいのね」
いや、ただ、この歳まで仕事一筋だったので、女性にどう接していいのかわからないだけ。
豪邸と呼べる和風の建物の中に入りながら、互いに自己紹介した。
豆丸は野良サル1体と斬リッ株1体を護衛につけていて、接近戦に強い斬リッ株が、先頭で建物の中を探索し始めた。
ずいぶんと血痕が残っている。
障子や襖が破れ倒されている中、あちこちにどす黒くなった血の痕が壁や床に飛び散っていた。──これだけ見ると大家族でも住んでいたのだろうかと疑いたくなる。
「これは銃弾の痕ね」
本当だ。
言われて気づいた。
よく見ると壁に穴がちらほらと開いている。
「それにほら?」
拳銃。これは本物?
倒れた襖の下敷きになっていたので、拾い上げてみるとモデルガンと違ってズシリと重みがある。
「暴力団のアジトだったようね。それ、いいかしら?」
「──はい」
「ちょうど良かったわ。私が持っておくわね」
雨は拳銃を手に取ると、まるで長年の相棒に触れるかのように、銃身を指先で優しくなぞった。 そして、くるりと片手で銃を反転させ、弾倉を抜き取る。 カチャリ、カチャリ。無駄のない動きで弾の残数を確認し、すぐさま元に戻す。 その一連の動作は、場慣れした者にしか出せない静かな迫力があった。
思わず息を呑んだ。
(この人……本当に何者⁉)
拳銃を両手で持って下に向けたまま、屋敷の探索を再開する。
この屋敷の一番奥。
壁から天井まで、赤色を基調とした金色の装飾が目立つ部屋にたどり着いた。
奥にあるデスクが不自然に横にスライドしており、そこにレールがあったのでスライドを前提とした作りになっていることに気づいた。
「下に逃げ込む前に化け物に襲われたようね」
指一本しか入らない小さな穴があった。
雨はそこに指を入れて、床を持ち上げると、地下へと続く階段を探し当てた。ただ、少し下りたところに頑丈そうな鉄の扉があり、施錠されていた。
雨は部屋の装飾を指先でなぞりながら、まるで何かを感じ取るように壁を叩いた。 「……ここね」 そう呟くと、壁の一部を押し込む。カチリと音がして、隠し収納の扉がわずかに開いた。 中には、重厚な金属の鍵がひとつ。
「やっぱり。こういうの隠す場所って決まってるのよ」
鍵を手にした雨の目が、わずかに細められる。 その目は、まるで過去に何度もこうした場面を経験してきたかのよう……。
地下室に降りると、明らかに違法な白い粉や、銃火器が眠っていた。
それらと一緒に保存の利きそうなPETボトルや缶詰、火を使わずに加熱できる防災用のレトルト食品などが、棚に並べられている。
地下室には、便器もあった。
地下室の入り口の頑丈な扉から、戦争が始まっても何カ月も、地下に篭れるように用意してあったのかもしれない。でも、逃げ込む前に化け物に襲われるとは、この屋敷の主も想定外だったんじゃないだろうか?
「じゃあ運びましょ?」
全然、罪の意識の欠片もなさそうな雨が平然と言う。
豆丸が飲み物や食料を運んでいる間に雨が、キャリーケースに色々と銃火器を見繕ってケースの中にしまっていた。
3往復目。
地下室から食料を持ち出そうとしている時に、上から物音が聞こえた
急いで、外に出ると敷地の外で野良サル達が、ボウガンやバリスタで熊型の化け物数体と応戦していているのが見えた。
「鍵は閉めて、床も戻してきたわ。また今度来ましょ?」
キャリーケースを荷台の端に乗せ、雨が顎を使って早く行こうと催促してきた。モリ達が時間を稼いでくれている間に豆丸も急いで、車に乗り込みアクセルを踏んだ。
「なんかずいぶんと手慣れてない?」
「そうかしら? アクション映画が好きだから、かな?」
助手席の窓から拳銃を握った左手を出して、前に立ち塞がった熊型の化け物の眉間を一発で撃ち抜き、平然とそうのたまった。
そんなわけない。
シラを切るつもりなので、これ以上追及したりはしないが、なんか腑に落ちない。
思ったより、時間がかかってしまった。
夕方に近づくにつれてどこからともなく化け物達が活発になり始めた。
あっ、人が襲われて……ない⁉
街中を化け物達に追いつかれないように飛ばしていたら、目の前に男が飛び出てきた。
「そのまま、轢いて」
「ぇぇえええっ、そんなこと!」
豆丸がハンドルを切ろうとしたその時、雨が助手席から身を乗り出し、拳銃を連射した。 だが、男は倒れない。血も流れていない? ただ、無表情にこちらを見ている。
ズドッと、バリスタの矢が男の胸を貫き、歩道へと吹き飛ばした。
なぜ人間を攻撃してはならないと強く命じていたはずのモリが攻撃した?
ドアミラーに映る男の姿が、ゆっくりと起き上がる。その肩や腕に、さらにボウガンの矢が二発、突き刺さる。
バリスタ担当の野良サル以外も命令を背いた⁉
「雨さん、今のは⁉」
「……さあ、知らないわ。でも」
雨は冷ややかに答えながら、弾倉に素早く弾を込めていく。その手つきは、まるでこれが日常であるかのように滑らかだった。
「あれは人なんかじゃない。別の〝何か〟よ」
その言葉に豆丸の背筋がゾクっと震えた。
夕暮れの空が、まるで血の色に染まっていくように見えた。
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