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# 05 スキル〈神託〉を操る女性
しおりを挟む「それで、ここには何しに?」
「食べ物とガソリンの携行缶があればと思いまして……」
「冗談じゃない!」
今まで遠巻きに見ていた人たちが、次々と大声を上げ始めた。
「そうだ。大事な水と食料を寄こせなんて、図々しい」
「役立たず、お前なんて出て行け!」
恐怖とやり場のない怒りが混ざった色の瞳で豆丸を睨みつける人々。
その後も非難され続けていると、「うるせー殺すぞ!」と褐色肌の男が怒りながら小口径の銃を背後にいる人たちへ向けた。「ひぃ!」と怯えて隠れる人たちを見て肩をすくめてみせた。
「どうだ? アンタもここに残らないか?」
「いえ、自宅に家族を残していますので」
「そうか、アンタの能力は使い勝手が良さそうなんだが、残念だ」
ホームセンターの中にも食料や水の販売コーナーがあるので、なんとか今のところは大丈夫だが、人に譲れるほどではないと話す。
「食料がダメなら、せめて携行缶はいただけないでしょうか?」
「物々交換ならいいぜ、そうだな……」
リーダーの男が、豆丸を見回す。
「そのスタンガンと交換でどうだ?」
豆丸が護身用に持っていたスタンガンを指差した。
本当はいくらでもオブジェクト化できるが、相手には伝えない方がいい気がする。携行缶とスタンガンを交換した。
「おいお前、どこに行く?」
ガソリンを入れる携行缶を手に入れたので、ホームセンターから立ち去ろうとしたら、20代女性が一人付いてきた。
それを見て、リーダーが呼び止めた。
「私、この人について行くって決めたの」
「ふざけろ、俺の女になるんじゃなかったのか?」
「残念。私、ずっと年上のオジ様が好みなの!」
「いいから戻ってこい! これは命令だ」
「嫌よ」
え~~~っ。
なにこの状況……。
豆丸の腕に両手を巻き付け、胸を押し当ててくる女性。
それに嫉妬したのか、リーダーの男が、小口径の銃をこちらに向けた。
さらにその敵意を感じたのか、野良サルやパー犬、斬リッ株が軽トラから降りてきて、豆丸の前に立ちふさがった。
「──ちっ、好きにしろ!」
「ふふっ。さあ、オジ様、行きましょ?」
舌打ちをして銃口を外したリーダーは振り返ることなく、さっさと扉を閉めてしまった。
「あのー、なんでついて来たんです?」
「あら? 聞いてなかったの、私は年上の……」
「いや、そういうのはいいですから、本当のことを話してください」
「ふふ、年上の男って、そういうとこ鋭いのね。……でも、そこが好きよ」
年を取ってくると、こういった駆け引きが面倒であると同時に相手が嘘をついていることをそれこそ超能力が使えるかのごとく、わかってしまう。
豆丸は、腕に絡みついた女性をあらためて観察する。
──妙に整いすぎた顔立ち。 切れ長の瞳は、まるで相手の心を覗き込むような光を宿している。 艶のある黒髪は肩にかかる長さで、近くにいるだけで、ほのかな甘い香りが漂ってくる。
涼しげなリネンのロングスカートに、生成りのノースリーブブラウス。 シンプルな麦わら帽を片手に持ち、足元は革のサンダル。 露出は控えめだが、首元や手首にさりげなく光るアクセサリーが、彼女の魅力を際立たせている。
「まあ、あの場所はもうそろそろヤバいから見限っただけ!」
なるほど。
そういうことなら、納得できた。
ホームセンターの中は、3人のPlayerによる独裁的な国家に似ていた。皆、疑心暗鬼になって、いつ寝首を掻かれるか分かったものではない。
「それにあの3人を足してもオジ様の方が強いんですもの」
へー。驚いた。
あの場では、おそらくコインが枯渇しない限り無尽蔵にキャラをオブジェクト化できることを隠していたのに、気づいたんだ……。でもどうやって?
軽トラに乗り込みエンジンを掛けた。
助手席に乗っていたパー犬と斬リッ株には申し訳ないが、荷台に移ってもらい、女性のために助手席を譲ってもらった。
「連中には隠していたけど、実は私もPlayerなの」
「──っ⁉」
彼女の両目が赤く光る。
ホームセンターの屋上から降りて、出口に向かっていたが、驚いて思わず駐車場に立っている照明柱に軽トラをぶつけるところだった。
「私の個体スキルは〝神託視〟──不確実だけど未来を視ることができるわ」
彼女はその神託視というスキルを使って豆丸がホームセンターにやってくることを知っていたそうだ。
「それと、もうひとつ。まもなくやってくるわ……」
ホームセンターは、2本の道路に面しているが、豆丸たちが出ようとしている側ではない方から嘘みたいに大きな樹とウーパールーパーみたいな見た目のトカゲ型の化け物、それに無数の熊型の化け物が敷地の中に入ってきた。
大樹の化け物が根っこを足のように使い、ホームセンターの建物にゆっくりと近づいている間に、トカゲ型の化け物が口から胃液のようなものを吐き出し、シャッターを溶かし始めた。
「あんな小っちゃな拳銃を出すスキルで、あの化け物たちの相手なんて無理よ」
──たしかに。
でも、あの大樹と大量の熊型の化け物たちが押し寄せてきたら、はたして勝ち目はあるのだろうか?
それより戻らなくて、いいのか。
このまま彼らを見捨てるのは、あまりにも非人道的では……。
「やめときましょ? あの化け物達の食料が2つ増えるだけよ」
心でも読んでいるかのように、助手席の女性が豆丸に答えた。
自宅からここに来るまでの道中、何度か熊型の化け物に遭遇したが、全部バリスタとボウガンで退けてきた。
だが、あの群れは無理だ。
数が多すぎる。
豆丸がここでコインを大量に使ってモリモリのキャラ達のオブジェクト化を始めたら、狙いをこちらに変えるかもしれない。昨日から何度も試しているが、キャラを1体オブジェクト化するのにどんなに急いでも数分を要する。その間、豆丸自身、動けないのでリスクが大きすぎる。
「止まって⁉」
「──っ!」
急に言われたので、急ブレーキをかけた。
二人ともシートベルトをしているから、頭が前に思い切り揺さぶられたが、軽トラの荷台に乗っているモリ達が心配だ。後ろを振り返ると、リアガラスにモリ達が重なるようにへばりついていた。
「この家、まだ食べ物が残っているわね」
瓦屋根の立派な平屋の大きな家。
軽トラを前に止めて、壊れた門扉を抜けて、敷地に入るとやはり化け物達の手によって荒らされていた。
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