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# 25 慢心が招いた結果
しおりを挟む豆丸のターン。
次でどうやっても、クイーンかビショップを取られる手を打たれた。
だけど。
「はい! そして、はい」
1回のターンでクイーンを2回動かした。そのお陰で相手クイーンを奪取した挙句、後詰めのポーンの射程から逃れた。
おかしいな、と思ったのは序盤。
こちらのポーンを動かそうとした時に生じたラグ。
最初から2回動かせたのだ。ルールが書いてあったわけでも、説明があったわけでもない。ただ、チェスっぽい見た目のゲームが問答無用で始まっただけ。
心の中の「当たり前」は、 冷たい殻に包まれた卵みたいなもの。そのままじゃ中身は見えないし、 無理に割れば、形は崩れてしまう。でも、少しだけ温めててみれば、 中から新しい意味がふわりとした玉子に変わる。
それはつまり見方を変えるだけで、 世界はまるで別の味になるということ。
2回行動のまま、一気に形勢逆転して、相手キングを味方のクイーンとキング役である豆丸自身が挟み込んでチェックメイトをかけて勝利した。
「器の昇華、phase4への移行完了──意識拡張領域、接続開始」
「──うっ!」
なんか、頭の中が鋭い刃物で切り刻まれるように激痛が走る。
「スキル〝並行思考〟を獲得 ──神経演算の分岐に成功。複数行動プロトコル、同時実行可能」
意識の多重化?
思考が二重化され、別々のことを同時に考えることができる。
「スキル〝戦術共有視界〟を獲得 ──支配下Unitの視覚の共有化。複数視点によるリアルタイム戦場解析、起動」
モリ達の視覚を借りて見ることができるってこと? それって、豆丸のスキルにうってつけだと思う。
並列思考で、モリ達の視界を確認しながら指示を行い、かつ、豆丸自身もまったく別の行動ができるってことだと思う。
「……ちゃん」
「んっ?」
「おじいちゃん!」
夢を見ていたかのように目を覚ました。
場所はどこかの自然の岩石で構成された大空洞の中。
そばに川が流れていて、川の水が先ほどの大きな穴の下に流れ込んでいた。
歩茶が心配そうに豆丸を見上げているので、笑顔で大丈夫だと伝える。
豆丸が意識を失ったように立ち尽くして、10秒も経っていなかったそうだ。リングの中とチェス盤の上に体感的には1時間はいたと感じていたのに。
先ほどの昇華の試練自体が夢だったのかと言われれば、それは違う。
スキルとして、「並行思考」と「戦術共有視界」がちゃんと身についているので先ほどの出来事は夢なんかではない。
それを証拠に先ほどの事象が夢だったのか検証している間にも並行して自分の置かれた状況を確認している豆丸がいた。
大空洞。人工物ではない自然にできた地形。
洞窟には川の上流である水路が続いている横穴の他、いくつか横穴が口を開けており、風が抜けてくる。
──────────────
器昇華ミッションクリア、扉消滅まで99,958秒
現在地:ダンジョンV1071R1F68
適正ステータス:517以上
──────────────
目の前に扉がある。
扉の上に文字が浮かんでいて、ミッションをクリアしたことで外に出られる扉が出現したと思われる。
──だけど。
例のあの人型のバックにいた怪物が待ち受けていないだろうか……。
豆丸の生存本能が警鐘を鳴らしている。
できるだけ、この場に留まっていた方がいい。
それにしても10万秒って、計算し直してみたら1日以上もある。
退屈しのぎにこのダンジョンを探索することにした。
でも、今の豆丸が以前とは一味も二味も違う。
モリをオブジェクト化で補充しつつ、これまで生き残った歴戦のモリ達を中心に班編成を行う。
仮想戦術領域でリンクした班から、探索に向かわせる。かなり入り組んでいて、無数に分岐しているが、豆丸の方で、モリが進めば進むほど仮想領域マップが広がり、繋がっていく。2kmほど広がったところで、別の大空洞を見つけたパーティーから報告を受けた。
洞窟の中に廃墟がある。
先ほど身に着けたばかりの戦術共有視界スキルを使用してモリの視界を借りて覗いてみた。いかにも何かありそうな空間。それにもまして、なぜこんな洞窟の中に廃墟があるのか、探求心が豆丸をくすぐる。
10体ほどの豆丸精鋭部隊。
彼らが、そばにいてくれさえすれば、熊型の化け物程度であれば何体でも倒す自信がある。
他の探索に出ているモリ達は豆丸を中心に半径5kmまで、引き続き探索に当たらせている。──そう、これが豆丸の慢心の表れだった。
廃墟に到着した。
大空洞の中に突如として現れた文明の遺構。
商店街があり、ほとんど朽ちているが、日本語で書かれた看板もチラホラと見られる。
「ツタツタ!」
豆丸精鋭部隊のツタ忍の合図。
よく見ると建物や瓦礫の陰から、何者かがこちらを観察している。
1体、2体……いや、もっといる。
だが、姿を現さない。
外の世界では、こういった動きをする化け物は見当たらない。
豆丸達を獲物として狙っているのか。
──それとも怯えている?
どちらにせよ、数が多い。
急いで5キロ四方に展開している各班をこの廃墟に向かうように連絡を入れた。
あれって、何だろう?
商店街の突き当り。
謎のモニュメントが建っている。
モニュメントの左右に奈落の底のような穴が口を開けていて、そこから僅かに風が噴き上がっているのでどこかにつながっていそうだった。まあ、落ちたら一発でOUTなので、落ちないように気をつけながら、怪しげなモニュメントに近づいた。
目、かな?
大きな目のついた太陽のような像。
「ツタ⁉」
ツタ忍の鋭い警告。
周囲から複数の白い帯が、伸びてきていた。
ツタ忍の蔦。
斬リッ株の斧。
チョキ犬の巨大なハサミ。
白い帯をいくつも撃退してくれたが、1本だけ豆丸の足元に巻き付いた。
「おじいちゃん!」
「モリ達、半分は残って歩茶を守って⁉」
落下しながらなので、それだけ伝えるのが精いっぱいだった。
豆丸は、瓦礫の陰から飛び出してきた真っ白な怪物の白い帯に繋がったまま、一緒に奈落の底に落ちていった……。
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