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2、噂
しおりを挟む「改めて、来てくれてありがとう」
リーシュが雑貨屋に迎えに来てくれて、そのまま邸に戻って来た。作戦も立てずに、マーシャさんに会いに行ったことを後悔している。会えもしなかったけど……
「ここは、変わってないな」
幼い頃、リーシュと一緒に遊んだ庭園で、昔を思い出しながらお茶をする。リーシュが好きなハーブティーを、執事のルイスが用意してくれた。
真っ白なテーブルの上に、色とりどりのお菓子が並び、庭に咲き誇った花々の香りが辺りを包み込む。
足を組み、優雅にお茶を飲むリーシュの姿は、とても美しくて魅入ってしまう。
リーシュって、こんなに美しかったかな?
薄い茶色のサラサラな髪に、吸い込まれそうなくらい綺麗な藍色の大きな瞳。少し高めの鼻に、形のいい唇。幼い頃は可愛らしい容姿だったのに、2年会わなかなっただけで素敵な大人の男性になっていた。
「何だ? 俺に見惚れているのか?」
図星をつかれて、頬が熱を帯びる。
「リーシュったら、ズルい! 私なんて、子供の時のまま大きくなったみたいな容姿なのに、なんでそんなに変わったの!?」
半分冗談で、半分本気。
自分の容姿にコンプレックスを抱いているから、こんな風に思ってしまう。
「あははっ! お前は、そのままでいいんだよ。いつまでも可愛いルイーズだ」
妹としてだとわかっているけど、そんな綺麗な顔で言われたらドキッとする。久しぶりに会ったから、まだこの容姿に慣れそうにない。
「で、手紙のことだが、ハリソンを捨てる覚悟が出来たんだな?」
そうだった!
すっかり忘れていたけど、その為にリーシュにお願いしたんだった。
「覚悟って言ったら大袈裟だけど、ハリソン様と結婚なんて考えられない。お金のことも、マーシャさんのことも、私には受け入れることは出来なかった」
ハリソン様との結婚生活が、どんなものになるかは想像がつく。きっと、マーシャさんを愛人にする。それだけじゃなく、妻として扱われないだろう。
「俺が、もっと早く……」
リーシュがそう言いかけた時、
「そこに居るのは、リーシュか!?」
帰宅したお父様が、リーシュが来ていることを聞き、庭園に出て来た。
「お久しぶりです!」
リーシュは立ち上がり、お父様にイスを引いてあげて座るように促した。
リーシュのお父様と、私のお父様は幼馴染みだった。ノーランド侯爵が2年前に病で亡くなるまで、月に一度は家族ぐるみで旅行に出掛けたりしていた。親友だったノーランド侯爵が亡くなり、お父様はパーティーで飲み過ぎてガードナー侯爵とあんな約束をしてしまった。
「婚約の件は、すまなかったね」
お父様はイスに腰を下ろし、リーシュに申し訳なさそうな顔を向けた。
「頭を上げてください! 俺も父が亡くなって侯爵になったばかりで、何も出来なかったことを後悔しています」
「何の話?」
2人が何の話をしているのか、私には分からなかった。
「ああ、お前には言っていなかったな。ガードナー侯爵から婚約の話が出るずっと前から、お前とリーシュの婚約を考えていたんだ。ロジーとも、そう話していた」
そんなこと、全く知らなかった。
ロジーとは、リーシュのお父様の名前だ。リーシュのことはお兄様のように思って来たし、そんな目で見たことはなかった。
だけど、婚約者がリーシュだったら、こんなに傷付けられることはなかったのだと、迷うことなくそう思える。
「なーんだ! 本当は私、リーシュの婚約者になるはずだったんだね! それなら、最初から言ってよ。2年も我慢しちゃったわ」
リーシュもお父様も、キョトンとした顔をしている。
「お前……ハリソン君を好きだったんじゃ?」
お父様が、急に変なことを言い出した。
「ハリソンを好きだから、ずっと我慢していたんじゃないのか?」
リーシュまで、変なことを言い出す。
「私が、いつハリソン様を好きだと言ったの? 婚約者なのだからと、好きになる努力は2年間して来たけど、無理だった」
まさか2人共、私がハリソン様を好きだと思っていたということ?
2人はまだ不思議そうな顔で私を見ている。
「お前がハリソン君を好きだという噂が広がっていると、ガードナー侯爵から聞いたんだが? だから、リーシュではなくハリソン君と婚約させることになったんだ」
どうして、そんな噂が?
「俺も、その噂を聞いた」
そんな噂なんて、知らない。友人からも、そんな話は聞いたことがない。
「お父様からハリソン様との婚約の話を聞くまで、私はハリソン様のことを知らなかったんですけど?」
たとえ前から知っていても、彼を好きになるはずがない。見た目だけの、中身が空っぽなハリソン様に好意を抱くことは決してない。
「……これは、裏がありそうですね。おじさんは、騙されたのかもしれません」
確かに、そうとしか考えられない。
2年前、リーシュのお父様が亡くなった時に、婚約話を持ちかけて来て、お父様は何も覚えてはいなかった。翌日、お父様は了承したと邸を訪れ、私が知らないところで、勝手にハリソン様を慕っていることにされていた。
最初から、私達を騙す気で近付いて来たのなら許せない!
「お父様、ハリソン様に貸したお金は全額返して頂かなくてはなりません! 私達を騙したことを、後悔させましょう!」
2年間も、騙されていたことに気付かなかった。
マーシャさんが、この事に関わっていたかは分からないけど、私から借りたお金がマーシャさんに流れたのは事実。私の復讐に付き合ってもらうわ!
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