17 / 44
17、ルークの故郷
しおりを挟む勢いでルークの手を取って邸を出て来ちゃったけど、これからどうしましょう……
何も持たずに出て来たから、身に付けている宝石くらいしかお金にかえられそうなものがありません。手紙は、肌身離さず持っていたから良かったけど。
「アナベル様、あの馬車に乗りましょう!」
「馬車に? どこへ行くつもりなの?」
強引に手を引かれ、馬車へと乗り込みました。
話を聞かない所は、初めて会った時のルークを思い出します。
「はぁはぁ……」
ずっと走りっぱなしだったから、息が……
「申し訳ありません、少し強引でしたね」
少し? 少しじゃなかったんですけど!?
「強引にしないと、アナベル様が手を離してしまう気がしたのです。1度、断られてますからね」
「私には、関わらない方がいいと思ったの。
ごめんなさい。結局、こんな事になってしまった。大好きな仕事も失って、追われる事になるなんて……」
「どうしてアナベル様が謝るのですか? アナベル様を連れ出したのは俺ですし、着いてきてくれてめちゃくちゃ嬉しいです!」
ずっと思ってたけど、ルークって使用人の距離感じゃない気がします。だけど、それが心地良いです。
「で、どこに行くの?」
「俺の故郷です。アナベル様に出会ってから、俺がしたかった事は、故郷でも出来る事に気付きました」
ルークの故郷ですか。ルークの事が分かるかもしれませんね。
「ルークのしたい事って?」
「アナベル様に、俺の作った料理を褒めてもらうことです」
……それって、どこでも出来るんじゃ?
「いつだって褒めるよ。だって、ルークの料理は世界一だから!」
ルークがいなかったら、私はきっと耐えられなかったと思います。初めてエルビン様の裏切りを知った日、ルークが言ってくれた『俺は奥様の味方です。奥様がしたいようにしてください。』という言葉に救われました。私の味方なんて、生まれて初めて言われた言葉でした。エルビン様に裏切られて、絶望していた私の心を救ってくれてありがとう。
「俺の料理が世界一なのは知ってます」
そうですか……
自信満々だけど、その通りだから何も言えませんね。
「だけど、その料理をアナベル様に食べていただかないと、俺の料理は完成しません」
「どういう意味?」
「アナベル様が美味しそうに食べてくれて初めて、俺の料理が完成するんです。だから、俺はアナベル様の専属料理人です!」
それって、私の為だけに作るって事?
「ルークの料理は、沢山の人を幸せに出来ると思う。私だけなんて、もったいないよ」
「残念ながら、これは決定事項です。アナベル様に拒否権はありません。
俺にとっては、愛する人が美味しそうに食べてくれることが、最高に幸せなんです」
さりげなく、愛する人って言いました!?
「え? え?? いつから……?」
嫌いではないのは分かってたけど、愛する人だなんて……
「初めて料理を食べてくれた時、すごく嬉しそうな顔をしてくれて……その顔が忘れられなくなりました。またアナベル様を笑顔にしたいと思いながら料理を作っているうちに、いつの間にか愛していた。もちろん、気持ちを知られないように片思いしてるだけのつもりだったんですけど、おつらそうなアナベル様を、黙って見ている事など出来なかった」
もしかしたら、私は知らないうちにルークを傷付けていたのでしょうか……
「自分の事で精一杯で、ルークの気持ちに気付かずに沢山傷付けてごめんなさい。
決めた! 今度は私がルークの味方になる!」
甘えてばかりなんて、私らしくないです! ルークの為に、私に出来ることをします!
「頼もしいですね」
「故郷に帰るということは、現実と向き合う決心をしたんでしょ? 私にも手伝わせて欲しい」
「ありがとうございます。ただ、アナベル様にはかなり頑張っていただかなくてはなりません。それでも、いいですか?」
行き先を告げずに馬車に乗せたのだから、最初からそのつもりだったくせに!
「任せて! どんな事でも、やり遂げてみせる!」
そう宣言したのですが……
「もう無理ー! 誰か助けてーーー!!」
ルークが言っていた、『かなり頑張っていただかなくては……』という言葉が、めちゃくちゃ頑張っていただかなくてはの間違いだと思い知る事になりました。
401
あなたにおすすめの小説
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果
藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」
結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。
アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。
※ 他サイトにも投稿しています。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる