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16、大切な存在 ―エルビン視点―
しおりを挟む今思えば、イザベラを愛していると思い込んでいただけなのかもしれない。ずっと見てきたのは、アナベルだった。少しだけイザベラに顔が似ていたアナベルを、イザベラと重ねていた。
イザベラ自身の事は何も知らず、イザベラの顔でアナベルの性格の架空の存在を愛していた。
イザベラのことを知れば知るほど、アナベルとは全く違う事に気が付いていたのに、愛している気持ちが大きくなり過ぎて、認めたくなかった。
あんなに素敵な妻だったのに、俺は苦しめてしまった。夜会の時に、トーマスからイザベラが会いたがっていると聞いた俺は、舞い上がっていた。
アナベルの事を考えずに、すぐに会いたいと返事をしてしまった。そして、アナベルにキスする事をやめ、一緒に寝ることもやめた。
失って初めて分かった。俺にとってアナベルが、どれほど大切な存在だったのかを……
今更遅いのは分かっているが、出来ることならやり直したい。
アナベルは、あの男が好きなのだろうか……
あの男と一緒にいるのだとおもうと、嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。
イザベラがしきりに手紙を気にしていた事を思い出した俺は、その手紙について調べる事にした。手紙には、俺とイザベラの事が書いてあると言っていたが、手紙の差し出し人はホーリー侯爵夫人だと聞いた。手紙が届いたのは、イザベラと関係を持った日……あの時は、イザベラが言ったことを疑いもしなかったが、よく考えたらおかしなことだらけだ。手紙の差し出し人がホーリー侯爵夫人ということと、まだ関係を持ったばかりなのに、それをアナベルに知らせる為に手紙を出したのは不自然だ。あの日、アナベルはホーリー侯爵主催のお茶会に朝から出かけたのだから、ホーリー侯爵夫人に会っているはず。
そして何より、翌日にホーリー侯爵夫人が自害したということ。
ホーリー侯爵夫人は、本当に自害なのだろうか?
イザベラは俺と会うために、ホーリー侯爵にお茶会を開かせた。2人はそれ程親しい仲だという事だ。イザベラの噂は知っていたが、信じていなかった。だが、今なら噂が本当なのだと分かる。
簡単に妹の夫を寝とったのだから……
俺は、なんということをしてしまったのだろう。
イザベラとホーリー侯爵が関係を持っていたのなら、アナベルに宛てた手紙にはその事が書いてあったはず。だが、どうしてイザベラの妹であるアナベルに手紙を? 考えていても分からないなら、ホーリー侯爵に会いに行こう。
「申し訳ありません……
旦那様は、誰ともお会いしないそうです」
ホーリー侯爵に会いに来たが、執事に断られてしまった。妻が自害したのだから、伏せっているのも分かる……が、一つだけ確かめたい事があった。
「誰とも? イザベラは、よく出入りしていると聞いたが?」
何も聞いてはいないが、かまをかけてみた。
「イザベラ様は、旦那様のご友人ですので……」
執事の目が泳いでいる。
「ご友人……か。たった今、ホーリー侯爵は誰とも会わないと言っていたのに、今度は友人にだけ会うと言うのか?」
「そ、それは……」
「会いたくないというなら、夫人の手紙を持っていると伝えろ」
これで会うというなら、手紙に書いてあったのはイザベラとホーリー侯爵の事で間違いない。
執事にそう伝えるように言うと、しばらくしてから執事が戻って来た。
「お入りください」
この後俺は、とんでもない事実を知ることになる。
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