〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな

文字の大きさ
16 / 44

16、大切な存在 ―エルビン視点―

しおりを挟む


 今思えば、イザベラを愛していると思い込んでいただけなのかもしれない。ずっと見てきたのは、アナベルだった。少しだけイザベラに顔が似ていたアナベルを、イザベラと重ねていた。
 イザベラ自身の事は何も知らず、イザベラの顔でアナベルの性格の架空の存在を愛していた。
 イザベラのことを知れば知るほど、アナベルとは全く違う事に気が付いていたのに、愛している気持ちが大きくなり過ぎて、認めたくなかった。

 あんなに素敵な妻だったのに、俺は苦しめてしまった。夜会の時に、トーマスからイザベラが会いたがっていると聞いた俺は、舞い上がっていた。
 アナベルの事を考えずに、すぐに会いたいと返事をしてしまった。そして、アナベルにキスする事をやめ、一緒に寝ることもやめた。
 失って初めて分かった。俺にとってアナベルが、どれほど大切な存在だったのかを……
 今更遅いのは分かっているが、出来ることならやり直したい。
 アナベルは、あの男が好きなのだろうか……
 あの男と一緒にいるのだとおもうと、嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。

 イザベラがしきりに手紙を気にしていた事を思い出した俺は、その手紙について調べる事にした。手紙には、俺とイザベラの事が書いてあると言っていたが、手紙の差し出し人はホーリー侯爵夫人だと聞いた。手紙が届いたのは、イザベラと関係を持った日……あの時は、イザベラが言ったことを疑いもしなかったが、よく考えたらおかしなことだらけだ。手紙の差し出し人がホーリー侯爵夫人ということと、まだ関係を持ったばかりなのに、それをアナベルに知らせる為に手紙を出したのは不自然だ。あの日、アナベルはホーリー侯爵主催のお茶会に朝から出かけたのだから、ホーリー侯爵夫人に会っているはず。
 そして何より、翌日にホーリー侯爵夫人が自害したということ。
 ホーリー侯爵夫人は、本当に自害なのだろうか?
 イザベラは俺と会うために、ホーリー侯爵にお茶会を開かせた。2人はそれ程親しい仲だという事だ。イザベラの噂は知っていたが、信じていなかった。だが、今なら噂が本当なのだと分かる。
 簡単に妹の夫を寝とったのだから……
 
 俺は、なんということをしてしまったのだろう。

 イザベラとホーリー侯爵が関係を持っていたのなら、アナベルに宛てた手紙にはその事が書いてあったはず。だが、どうしてイザベラの妹であるアナベルに手紙を? 考えていても分からないなら、ホーリー侯爵に会いに行こう。

 

 「申し訳ありません……
 旦那様は、誰ともお会いしないそうです」

 ホーリー侯爵に会いに来たが、執事に断られてしまった。妻が自害したのだから、伏せっているのも分かる……が、一つだけ確かめたい事があった。

 「誰とも? イザベラは、よく出入りしていると聞いたが?」

 何も聞いてはいないが、かまをかけてみた。

 「イザベラ様は、旦那様のご友人ですので……」

 執事の目が泳いでいる。

 「ご友人……か。たった今、ホーリー侯爵は誰とも会わないと言っていたのに、今度は友人にだけ会うと言うのか?」

 「そ、それは……」

 「会いたくないというなら、夫人の手紙を持っていると伝えろ」

 これで会うというなら、手紙に書いてあったのはイザベラとホーリー侯爵の事で間違いない。

 執事にそう伝えるように言うと、しばらくしてから執事が戻って来た。

 「お入りください」

 この後俺は、とんでもない事実を知ることになる。

しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

婚約破棄の前日に

豆狸
恋愛
──お帰りください、側近の操り人形殿下。 私はもう、お人形遊びは卒業したのです。

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

処理中です...