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二章
平和
しおりを挟む「攻撃……されていない? なにをバカなことを! すでに四カ国が同時にグルダに攻めて来ているはずだ! 今日この日に、攻めて来るようにと命じたのだから!」
自分が命じたと、自白までしてしまったランドルク公爵。
「四カ国すべての軍を、グルダの友好国であるグランディ王国とスフィリル帝国の軍が制圧している頃です」
ガレスタ王国を出発する前、レイビス様がグランディ王国の陛下に軍を出して欲しいと手紙に書いていた。
その時私もスフィリル帝国の叔父様に手紙を出し、軍をグルダ周辺に待機させて欲しいとお願いしていた。
そして護衛十人を呼び寄せた時に、残りの護衛にグランディ王国の兵とスフィリル帝国の兵にもランドルク公爵の企みを知らせてもらっていたのだ。
今頃は、四カ国の軍が降伏しているだろう。グルダの国民を誰一人、傷つけさせたりしない。
「そんなこと……できるはずが……」
できるはずがないとはっきり言えないのは、クリスティ様の誕生パーティーでの叔父様を知っているからだろう。
「残念ですね。もうあなたには、なにもできません」
ランドルク公爵は、呆然としながら立ち尽くしている。すべて思い通りになると思っていたのに、気づいたらなにもかも失っていた。
「ランドルク公爵ら四人を、捕らえよ!」
ルギウス様の命で、ランドルク公爵と元王妃様、サイモン様、ドノバン公爵夫人が兵に捕えられる。
ランドルク公爵に従っていた十一人の貴族も、取り調べ室へと連行された。
「お兄様、セリーナ、本当にありがとう。二人がいなかったら、この国はどうなっていたか……」
「二人には、感謝してもしきれない。グルダを救ってくれて、ありがとう」
シェリルとルギウス様は、ようやく心から笑えたようだ。
八ヶ月ほど前、前国王陛下が病でお倒れになったそうだ。八ヶ月間、意識が戻っていない。
それまでは、ランドルク公爵は大人しくしていた。つまり、前国王陛下がお倒れになったのが、今回の件の引き金になったのだろう。
ルギウス様は即位したばかりで、貴族たちの信頼を完全に得ていたわけではない。ランドルク公爵派の貴族は十一人だったけれど、四カ国との戦争をチラつかせれば、自分たちに味方する貴族が多数いると考えての計画だったのだろう。
ただ、たった八ヶ月でここまでの計画立て、実行に移すことができるのかが疑問だ。
「ルギウス様、ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか? 前国王陛下は、本当に病ですか?」
「それが……いまだに、なんの病なのかわからない」
「毒の可能性は、ありませんか?」
毒という言葉に、ルギウス様が反応した。思い当たることがあるようだ。
「実は……父が倒れたあと、父の身の回りの世話をしていた侍女が一人消えたんだ。だが銀食器にも反応しなかった。毒だとしてもなんの毒かもわからない」
「おそらく、銀に反応しない毒だと思います。ランドルク公爵の屋敷を調べましょう」
すぐに、ランドルク公爵家の屋敷を調べるようにと命がくだされた。
ランドルク公爵の屋敷の温室で、グレスタスの花が育てられていたそうだ。グレスタスの根は死に至るほどの毒ではないけれど、摂取すると意識を失い戻らなくなる。
命を奪わなかったのは、前国王陛下が亡くなることで、ルギウス様に忠誠を誓う貴族が増えることを懸念したのだろう。
グレスタスの花は、解毒薬になる。ランドルク公爵が証拠を処分することなく、そのまま育てていてくれたおかげで、前国王陛下はお元気になるだろう。
ランドルク公爵は、ルギウス様が国王になった時から計画していたのかもしれない。
ホークス公爵やドノバン公爵でさえ、前国王陛下に毒を盛ったことは知らなかった。知っていたら、自分に従わないと思ったのだろう。
四カ国は、グランディ王国とスフィリル帝国の軍を見て、抵抗もせずにすぐに降伏したそうだ。そして、二度とグルダを攻めないと確約までして帰って行った。
すべてが解決して、グルダに平和が戻る。
ランドルク公爵、元王妃様、サイモン様、そしてドノバン公爵夫人は反逆罪となり極刑が決まった。公開処刑になるそうだ。
サイモン様は、前国王陛下の子だ。そして、ルギウス様の弟。お二人は、さぞお辛いことだろう。
けれど彼らの犯したたくさんの罪は非常に重く、擁護できるものではない。
バイゼル侯爵とレイビス様が脅して従わせたマーホック侯爵は、他国に軍事機密を流した罪で毒殺刑が決まった。公開処刑にならなかったのは、脅されたとはいえ、私たちに協力をしてくれたことが考慮された。
ホークス公爵、ドノバン公爵、スコフィールド子爵、ブレナン伯爵は財産の半分を没収される。
残りの五人は財産の半分を没収され、爵位がひとつ降格となった。
「シェリルの頬が、ぷにぷにになってる」
シェリルの頬を指でつんつんしながら、嬉しくなる。やつれていた顔が、健康的になっているからだ。
天気がいいから庭園でお茶をしましょうとシェリルに誘われ、私とレイビス様、シェリルとカタリーナ、そしてクウとのんびりお茶をいただいている。
「いつまでつついているの? セリーナだって、ぷにぷによ」
シェリルも私の頬をつんつんしだす。
いつもより少食で過ごしているのだけれど、まったく痩せる気がしない。
「そういえば、その子大きくなってない?」
シェリルの目線は、私の膝の上で眠っているクウに向けられた。たしかに、重くなっているような気がする。
「毎日見ていたから気づかなかったけど、もう胸元には入りそうにないくらい大きくなってる」
クウを抱き上げてみると、初めて会った時の三倍くらいになっていた。
「クゥーン」
大きくなったけれど、甘えん坊なところは変わっていない。抱き上げたクウは、前足をバタバタさせて私の頬に触ろうとしている。
「やっぱり可愛い!」
その仕草が可愛くて、いつものように頬擦りしてしまう。
「お兄様、強敵出現ね。セリーナをクウにとられてしまうわ!」
「おまえ……面白がってるだろ」
「当たり前じゃない! こんなに面白いことは、そうそうないわ! 婚約者を狼にとられたら、前代未聞ね」
シェリルは楽しそうに笑いながら、レイビス様をからかう。シェリルが元気になって、レイビス様も嬉しそうだ。
「ずいぶん楽しそうな話をしているね。私も、混ぜてくれないか?」
声がした方を振り返ると、そこにはスフィリル帝国にいるはずの叔父様が立っていた。
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