〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。

藍川みいな

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3、依頼

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 性悪公爵……ではなく、ダナドア公爵に連れてこられた場所は孤児院。いつも来ているのか、子供達がダナドア公爵の周りに集まって来た。

 「ディーン様だー!」
 「今日のお土産なぁにー?」
 「僕、昨日おねしょしなかったんだよー!」

 おねしょ……
 そんな話までしてるのかと、感心してしまった。

 「そうか、大人になったなー!
 土産は後でクリスが持ってくるから、楽しみに待っているんだぞ」

 私に対して見せる表情とは全然違う優しい眼差しを、子供達に向けている。そんな顔も出来るのかと、少し意外だった。
 クリスさんというのは、ダナドア公爵の後をずっと着いて来ていた執事だ。私達が乗って来た馬車の後ろに、荷馬車がついてきていた。まさか、あの荷馬車いっぱいの荷物が、お土産だったのだろうか……。

 「私は院長に用があるから、クリスが来たら皆で仲良く分けるんだぞ?」

 「「「はーい!」」」

 ダナドア公爵の言葉に、子供達は元気よく返事をした。

 「さあ、行きましょう」

 「はい」

 なんだか子供達に対する態度と、私に対する態度が違い過ぎて、別人ではないかと錯覚する。初対面だし、仕方がないのかもしれない。

 孤児院の中に入り、院長室へと向かう。
 子供達は五十人位居るのに、面倒を見るシスターは一人しか見当たらない。
 この孤児院、大丈夫なのだろうか。

 院長室に着くと、中からうめき声が聞こえて来た。

 「う……うぅぅぅ……」

 急いで中に入ると、五十歳位の男性がお腹を押さえながらうずくまっていた。

 「院長!?」「大丈夫ですか!?」

 私達は急いで男性に駆け寄り、二人で肩を貸し、ソファーへと座らせた。

 「……ありがとうございます」

 院長先生は、私達の顔を申し訳なさそうに見ながら、お礼を言った。
 服に血が滲んでいる。こんな身体で仕事をするなんて無茶だ。

 「魔物に負わされた傷ですね。無理をしたら、治るものも治りませんよ」

 「分かっているのですが、子供達を放っておく事が出来ませんでした。あの……あなたは?」

 かなり痛みは強いはずなのに、子供達のことを口にする院長はとても優しい表情だった。
 私もこんな風に、愛されてみたかった。

 「私はマディソン。聖女です。傷を見せてください」

 「聖女様!?」

 院長先生のお腹にある傷口に手をかざし、祈りを込める。
 傷口は暖かい光に包まれ、みるみるうちに塞がっていく。ほんの数分で傷口はすっかり塞がり、院長先生のケガはすっかり治っていた。

 「終わりました」

 「え……あの、これは一体……?」

 奇跡のような出来事に、院長先生は戸惑っている。

 「もう大丈夫ですよ。傷は治りました」

 「あ、ありがとうございます! ありがとうございます、聖女様!」

 院長先生は、目に涙を浮かべながら、何度も何度も頭を下げる。

 「お礼なら、ダナドア公爵に仰ってください。私はただ、依頼を受けただけです」

 「ディーン様、ありがとうございました! 本当に、感謝してもしきれません! ありがとう……ありがとうございました!」

 院長先生はダナドア公爵の手を握り締め、何度も何度もお礼を言った。

 「院長にはこれからも子供達の為に、元気でいていただかなくてはなりません。
 ですが、あまり無理はなさらないようにしてください」

 ダナドア公爵も、院長先生の手をギュッと握り返していた。少し、彼を誤解していたかもしれない。力を使って、これほど満たされた気持ちになれたのは、初めてのことだった。

 「はい。ディーン様、聖女様、本当にありがとうございました!」


 「院長先生、元気になったの?」

 院長室のドアから、子供達が覗いていた。

 「ああ、この通り、もうすっかり元気だよ!」

 すると、子供達はいっせいに院長室に入って来て、院長先生に抱きつき涙を流した。

 「先生! 良かった……」
 「ごめんなさい、私達のために……」
 「僕が大きくなったら、院長先生とみんなを守る!」

 院長先生は、子供達を守る為に傷を負った。そんな院長先生を、子供達は本気で心配していた。

 「心配かけて、すまなかった……」

 院長先生は子供達を抱きしめ、子供達も院長先生を抱きしめている。なんだか、羨ましい。

 「行きましょう」

 ダナドア公爵はそう言うと、そっと院長室から出て行く。私も、彼の後に続いた。

 「私は、あなたの力を過小評価していたようです」

 孤児院を出て馬車に乗り込むと、ダナドア公爵は私を真っ直ぐ見てそう言った。

 「あなたを正式に雇いたい。
 もちろん、報酬も払いますし、衣食住全てを私が面倒を見ます。ですから、私の……いいえ、オスカー様の力になって頂けませんか?」

 私がオスカー王子様のお力に!?


 「この国は一見平和ですが、貧しさのあまり、子を捨てる親が後をたちません。
 領主である貴族達が高い税金を貧しい民から搾り取っているこの現状を、オスカー様は変えようとなさっているのです」

 そんなオスカー様だから、第二王子のベントン様と仲が悪いのだろう。私の婚約者だったオルガ様のお父上、セイバン公爵は領民に高い税金を払わせている。
 セイバン公爵邸に治療に行っていた時、税を払えない領民が、何度もセイバン公爵の邸の前で泣き叫んで訴えていた所を見かけた。セイバン公爵にくっついていた、スコフィールド伯爵もセイバン公爵と同じだった。
 いや、ほとんどの貴族がそうだろう。自分達の事しか考えていない。
 それなのに、ダナドア公爵は違うというのだろうか。

 「それで、どうして私が必要なのですか?」

 王族や貴族同士の争いに、私が出来ることなんて何もない。そんな私が、何の役に立つというのか。

 「先程の話は、オスカー様を知っていただきたくて話したまでです。オスカー様は明日、魔物に襲撃された国境の町へと赴く事になっています。
 あなたにはオスカー様を魔物から守り、町の住民達を治療していただきたいのです」

 そういう事だったら、お断りする理由はない。私には、お金も行くところもないのだから。
 衣食住の心配もいらないし、報酬まで貰えるなんて、こんなにいい条件はない。

 「お受けします」

 こうして私は、ダナドア公爵に雇われる事になり、ダナドア公爵邸に住むことになった。といっても、明日には国境の町へと出発するのだけれど。


 「着替えなどは、出発するまでに揃えておきます。今日はゆっくり休んでください」

 案内された部屋はとても豪華で、スコフィールド伯爵邸とは比べ物にならなかった。
 スコフィールド伯爵の養子といっても、部屋は物置部屋だったけれど。
 
 「この部屋は、豪華すぎます。私は雇われの身ですので、使用人扱いで結構です」

 あまりに豪華な部屋で、なんだか落ち着かない。

 「そうはいきません。あなたにはオスカー様をお守りしていただかなくてはならないのだから、少しでも疲れを取っていただく為にこの部屋で生活していただきます」

 ダナドア公爵は、頑固な方だった。
 私の為じゃなく、オスカー様の為だと言われたら断る事なんて出来なくなる。
 言うだけ言って、さっさと部屋から出て行ってしまい、豪華で広い部屋で一人きりになった。
 大きいベッドに横になりながら、これまでのダナドア公爵の行動や言動を思い出す。
 あんな人が部下だなんて、オスカー様も大変でしょうね。……待って。まさかオスカー様も、感じ悪くて無愛想で性格悪くて頑固なのかな?
 
 そう思っていたのだけれど……


 「君が聖女様か。ディーンが君の事を褒めていたんだ。女性を褒めるなんて初めての事だったからびっくりしたよ。マディソン、これからよろしくね」

 予想と違い、明るくて親しみやすい方だった。
 ダナドア公爵とは正反対のオスカー様に、私は笑顔で「よろしくお願いします」と言った。

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