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4、聖女マディソンの力
しおりを挟む国境の町、ビザントへと出発。
ダナドア公爵と私は護衛の為に、オスカー様と同じ馬車に乗り込んだ。
護衛の兵士が五十人以上もいるのだから、私の出番はなさそう。けれど報酬を頂くのだから、しっかり仕事をしなくてはと気を引きしめる。
「マディソンは、スコフィールド伯爵の養子だったんだよね? だけど、今は違う。もし良かったら、どうしてそうなったのか、経緯を教えてくれないかな?」
別に隠すような事でもない。そう思った私は、全てお話することにした。
「私は三年前まで、母と暮らしていました。父に捨てられ、食べる物にも困り果てていた時、スコフィールド伯爵が聖女の力を持つ私を見つけました。そして、銀貨一枚を母に渡し『この娘を買う』と告げたのです。母は涙を流しながら、喜んで私を売り渡しました。私はそのままスコフィールド伯爵の養子になり、セイバン公爵家のご子息のオルガ様の治療をする事になったのです。
オルガ様のケガを治療するうちに、セイバン公爵から息子の婚約者になって欲しいと言われました。スコフィールド伯爵は最初からそれが狙いだったので、喜んで承諾していました。
ですが、オルガ様から婚約を破棄されて、必要なくなった私はスコフィールド伯爵家も追い出されたというわけです」
なんだか全てを話したら、気が楽になった。
父にも母にもオルガ様にもスコフィールド伯爵にも必要ないと言われ、仕事さえ見つからなかった。自分は誰にも必要とされない存在なのだと、そう感じていた。そんな私を、この二人は必要としてくれている。私が聖女だから、その力を必要としているのは分かっている。けれど、彼らは私に相応の対価を与えてくれた。利用され続けて来た私には、自分が認められたような気がして嬉しかった。
「人を、物のように扱うなんて……許せないな」
オスカー様は、心が綺麗な方だ。出会ったばかりだけれど、そう感じる。
「私は平気です! オルガ様の妻には絶対になりたくなかったので、自由になれた今は幸せです!」
オスカー様が、私の為に怒ってくれているのが分かる。そんなオスカー様に、私は本当に大丈夫なのだと伝えたくて力説する。
オルガ様なんかと結婚したら、毎日暴力を振るわれて、浮気されて、お前なんかいらないと売られてしまいそうだ(イメージ)。
「マディソンは強いね。珍しく、ディーンも怒っているようだ」
ダナドア公爵が?
……ないない。公爵が私の為に怒るなんて、天地がひっくり返ってもありえない。
「そんなはずないです」
そう答えると、オスカー様は耳元で、
「ディーンは無愛想に見えるけど、とても優しいんだ。君にもそのうち分かるよ」
と、小声で囁いた。
いつか、分かるのだろうか。
私も、貴族という色眼鏡で見ていたのは確かだし、少しは歩み寄ってもいいのかもしれないと思った。
国境の町まで一ヶ月程かかったけれど、何事もなく無事に目的地に到着した。
魔物に襲撃されたその町は、建物の半分以上が半壊状態。
家を奪われた人達は行き場をなくし、道端にシーツを敷いて寝ていた。教会の中にはケガをした人達が、大勢横たわっている。
「酷い……」
「マディソン、ケガをした人達を頼めるかい?」
オスカー様は、家を失った人達に食料を配り始めた。
私に出来ることをしよう。
教会に入り、治療を施していく。
両手を組んで、祈りを捧げる。
「あの光は……?」
私の身体を光が包み込み、教会全体を包み込んでいき、ケガをした人達を次々に癒していく。そして、光は徐々に弱まり消えていった。
「何が起きたんだ?」
「俺達は、助かったのか?」
「傷口が……塞がってる……」
たった数分で、教会にいる全ての人達のケガを治していた。
まさかこんなに沢山の人達をいっせいに治療出来るなんて、思っていなかった。今までは、一人に対してしか力を使ったことがなかったからか、自分の力がこんなにすごいとは知らなかった。
「まさか、聖女様……!?」
「神の御業だ!」
「どこも痛くない……奇跡だ!!」
町の人達は、一瞬でケガが治った事に驚き、そして喜んでいる。
「……すごいな。ここまでとは、思っていなかった」
オスカー様は、目を輝かせながらそう呟いた。
「実は、私も驚いています。大勢の人を、治療した事がなかったので……」
「あははっ。自分でも知らなかった力か。
スコフィールド伯爵は、見る目がなさすぎたようだ。
かなりの力を使ったのだから、君は休んでいなさい」
オスカー様は笑いながら、また食料を配り出した。
王子様が働いているのに、私が休んでいるわけにはいかない。
そう思い、オスカー様に駆け寄ろうとすると、
「休んでください。
自分でも知らなかった力なのでしょう?
無理をして、倒れられたら迷惑です」
と、ダナドア公爵に止められてしまった。
優しい人……なのだろうか? オスカー様が仰っていた意味が、少しだけ分かった気がした。言い方は優しくはないけれど、彼はいつも気遣ってくれていた。ほんの少しだけれど、公爵のことが分かってきた気がしていた。
二人が町の人達に食料を配っている間、私は座って休むことにした。
この方達は、私をドレイのようにこき使って来たスコフィールド伯爵とは違う。
町の人達のために、こんなにも一生懸命で、貴族の人気取りとも違うのが分かる。
報酬を貰っている私の方が、恥ずかしく思えるほどに、彼らは本気で民を想っている。
「聖女様、本当にありがとうございました!」
町の人達が感謝の言葉を伝えようと、私の周りに集まって来た。
「お礼を言う相手を間違えています。
私は報酬を貰って治療しただけです。オスカー様に感謝してください」
二人を見ながら、自分の事しか考えていなかったことを反省した。
食料を配り終えた頃、邪悪な空気を感じた。
これって、魔物の気配!? 今まで、こんな空気を感じたことはなかった。どうして急に、こんなにも魔物の気配が強くなったのか分からなかった。
「オスカー様!! ダナドア公爵!! 魔物の気配がします!!」
急いで二人に、魔物のことを伝える。
「何!?」「どこですか!?」
二人は一瞬だけ慌てたけれど、すぐに冷静さを取り戻し、町の人達を建物の中に避難させた。
この感じは……
「魔物は十体います! この町に真っ直ぐ向かって来る……」
どういう事!?
魔物の中に、人の気配……
いいえ、人が魔物をおびき寄せている!
「狙いはきっと、オスカー様です! ダナドア公爵、ここはおまかせします!」
「マディソン!?」
二人が呼び止める声が聞こえたけれど、そのまま魔物が向かって来ている方へ走り出した。この町に、二度と魔物は入れない!
どんどん魔物の気配が大きくなる……
私は足を止め、魔物が向かって来る方向に結界を張った!!
結界を張るのは初めてで、上手くいく自信はない。だから、私は祈り続けた!
何重にも結界を張り続けるために……
……魔物達の気配が、遠ざかって行く。成功したようだ。
「マディソン、無事か!?」
オスカー様とダナドア公爵、そして兵士達は私を追いかけて来たようだ。
「どうして着いてきたのですか!? 危険な場所に、自ら来たりしないでください!!」
そう言った私の頬を、ダナドア公爵はペチッと軽く叩いた。私はわけが分からず、ダナドア公爵の顔をじっと見つめた。
「危険な場所に、一人で行かないでください! あなたは、オスカー様と私の……私達の、大切な仲間なのですよ!?」
仲間……? 私が?
「先に言われてしまったようだ」
オスカー様まで……
この方達といると、調子が狂う。
けれど、初めて生きている喜びを実感しているような気がしていた。
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