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9、婚姻無効
しおりを挟む「ローレン!? 1人で来たのか!?」
執事に応接室へと案内され、数分後にノーグル侯爵が慌ててやって来た。私が1人で来たことに、驚いている。
「お久しぶりです」
ソファーから立ち上がり、頭を下げる。
「まあ、座りなさい」
言われた通りソファーに腰を下ろすと、ノーグル侯爵も椅子に座った。
「急にお邪魔してしまい、申し訳ありません。今日は、大切なお話をする為に参りました」
「大切な話……とは?」
「ジュラン様に、子供が生まれました。ですが、その子は私の子ではありません」
ノーグル侯爵は、目を見開いて驚いている。
その時、ノックの音が聞こえ、メイドがお茶を運んで来た。
メイドがお茶を出している間、気まずい空気が流れる。
「失礼します」
メイドが応接室から出て行くと、ノーグル侯爵が口を開く。
「……愛人の子か。君には、すまないことをしたな」
辛そうな顔で、私の目を見て謝った。
「ノーグル侯爵が、謝る必要はありません。ジュラン様は今、出生届を出しに行っています。私との子だと、申告するでしょう」
辛そうな顔をしているノーグル侯爵に、こんな話をしなければならないのは、心が痛む。どんなにバカな息子でも、ノーグル侯爵にとっては大切な我が子に違いはない。それでも、こうすると決めたのは私自身だ。
「……虚偽の出生届か。そこまでバカなことをするとはな。
あいつは、女性にだらしなくてね。だが、君に出会ってからは、君の話ししかしなくなっていたんだ。君のおかげで、変わったと思っていたんだが……」
ノーグル侯爵は、ジュラン様の女癖の悪さを知っていたようだ。
「変わってはいませんでした。彼は、私と婚約している間も、何人もの女性と関係を持っていた。そのせいで、結婚式のあの日に、命を狙われたのです」
私の運命は、あの日全て変わった。だけど、ジュラン様が付き合っていた女性や、ノーグル侯爵にとっては、最初からそういう人だった。
やり直すことが出来たなら、二度と彼に惹かれたりなんかしない。
「1年近く、罵倒され、侮辱され、虐げられて来ました。結婚してすぐに、妊娠した愛人を離れに住まわせ、離婚することも拒絶され、ずっと邸に閉じ込められて来ました。私はジュラン様との婚姻を、無効にします」
「本当に、申し訳ない……。君の望む通りにしてくれ」
ノーグル侯爵に、謝って欲しいわけじゃない。ジュラン様の本性を見抜けなかったのは、私なのだから。
「ノーグル侯爵には、事実を知っていただきたかっただけです。ジュラン様のことを、どうなさるのかはお任せいたします」
ズルい言い方をした。私からは、何も望んでいないのだと……
ジュラン様が言った通り、ノーグル侯爵は次男のカーター様に爵位を譲るだろう。
レイバンの情報によると、ジュラン様と私が結婚していなかったら、カーター様に譲る気だったようだ。
ノーグル侯爵邸の前には、ベロニカと一緒に、レイバンが乗った馬車が待っていた。
「久しぶり、姉さん」
馬車から降りて、笑顔で手を差し伸べるレイバン。
「姉上と呼びなさい」
レイバンの手をとり、馬車に乗る。
レイバンは、私の弟とは思えないくらい優秀だ。騎士の試験にも最年少で合格して、近衛騎士団の小隊長を任されている。
馬車に乗り込むと、役所へと走り出す。婚姻無効の手続きをする為だ。
「使用人達からの証言もとってある。雇ったのはノーグル侯爵で、ジュランには何の義理もないそうだ。証言してくれたのは、ほとんどがメイドだ。ジュランの女性への扱いは、酷かったみたいだな」
女性を、容姿でしか見ていないジュラン様らしい。
「迷惑かけて、ごめんね」
「姉さんを苦しめたジュランを許せなかっただけだ。家族なんだから、そんな悲しいことを言うな」
「こんなにも姉思いの弟をもって、私は幸せね。でも、姉上と呼びなさい」
「姉上を思っているのは、俺だけじゃなかったけどな……」
「ん? それは、どういう……」
理由を聞こうとしたところで、役所に到着したのか、馬車が止まった。
レイバンが何を言いたかったのかは気になったけれど、一刻も早く自由になりたかった私は、早速役所に入った。
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