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8、反撃開始
しおりを挟むシンシアさんはすぐに邸に連れ戻され、離れに軟禁された。それ以来、シンシアさんを見ることもカーラを見ることもなくなった。
そして1ヶ月ほど経ったある日、ジュラン様が赤ちゃんを抱いて私の部屋を訪れた。
「俺達の子だ。可愛いだろう?」
確かに可愛い。だけど、あなたの子であっても私の子ではない。
赤ちゃんを見たことで、結婚式の時の気持ちを思い出してしまった。あの日は、愛する人の子供を生んで、幸せになれると夢見ていた。
「シンシアさんは、どうされたのですか?」
外出をしたと聞いた日から、シンシアさんを1度も見ていない。
「あいつは、言いつけを守らなかったからな。邸から追い出した」
ジュラン様は、平然とそう言った。
子供を生んだばかりの母親を、追い出したとはどういうことだろうか……
「シンシアさんは、その子の母親ですよ!?」
「そんなことは、お前に言われなくても分かっている。あの程度の女など、いくらでもいるからな。子供を生んだなら、用済みだ」
シンシアさんの心配をしているわけではないけど、お腹を痛めて我が子を生んだ女性に対してあまりにも酷い言い草だ。女性を何だと思っているのだろうか……
怒りが込み上げて来たが、あともう少しの間は、大人しくしていなくてはならない。怒りを抑えて、平静を装う。
「その子の面倒は、私が見ましょうか?」
赤ちゃんが心配になった。ジュラン様が子供を愛しているとは思えず、赤ちゃんを放っておくことが出来なかった。
「この子の面倒は、ハイリーが見る。お前は、今まで通りで居ればいい」
「ハイリーって?」
「俺の愛する人だ。とても美しい女性で、俺は幸せだ」
呆れて言葉が出ない。
新しい愛人を、いつの間にか連れ込んで居たようだ。本邸に姿を現していたら、ベロニカが気付くだろうから、離れからは出ていないのだろう。
「俺は、この子の出生届を出しに行ってくる。父上もお喜びになるぞ!」
ジュラン様は、子が出来たこともノーグル侯爵に話していなかった。シンシアさんのお腹の中にいる時に、邸に会いに来られたら困るからだ。
医者も買収していた。だが、その医者はレイバンが買収した。ジュラン様が役所に出かけた時、行動開始だ。ようやく、待ちに待ったこの日が来た。
「行ってらっしゃいませ」
ジュラン様はハイリーさんに赤ちゃんを預けて、役所に出かけて行った。ハイリーさんを、メイドとして雇ったようだ。メイドなら、一緒に居ても不自然ではない。
だけど、もうそんなことどうでもいい。もうすぐ、ジュラン様から自由になれるのだから。
「ベロニカ、行くわよ!」
「はい!」
何も持たずに邸を出る。
この邸で手に入れた物は、何一ついらない。
ベロニカと一緒に馬車に乗り込み、ノーグル侯爵邸へと出発した。
久しぶりに外に出た。邸の中に閉じ込められ、部屋から出ることも許されずに何ヶ月も過ごして来た。永遠にも感じていた日々が、やっと終わる。
ノーグル侯爵邸に到着し、馬車から降りる。
「ベロニカは、このままレイバンに知らせに行ってくれる? 」
「おひとりで、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。もう、演技する必要はないのだから」
そう。ジュラン様の言いなりのローレンは、もう居ない。女性を甘く見たジュラン様に、思い知らせてやるわ。
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