不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

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こわれたはなよめ

こわいしらないおうち、こわいひとたち

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「アルジェント、これは一体どういうことなのです?」
 異常事態にヴィオレは困り果てた表情を浮かべていた。
「……申し訳ございません、ヴィオレ様。私にもわからないのです」
 アルジェントはいつもの無表情ではなく酷く深刻そうな顔で答えた。
「おかあさん、どこぉ? おうちかえりたいよぉ」
 ルリは幼子のような口調のままなきじゃくってべっどの上から動かない。
「あーあ、壊れちまった」
 グリースがいつものような口調だが、怒りのこもった声でいいながら姿を現した。
「グリース!! 今はお前の相手をしてる場合ではないのです」
「ヴィオレ様、いけません」
 ヴィオレが戦闘態勢に入るが、アルジェントが止めるように言う。
「ルリちゃん――」
 ルリはグリースの声に顔を上げるが、顔が真っ青になる。
「やだ、こわい、おにいちゃんこわい!!」
 ルリは再び逃げようとした。
 それにグリースは近づくのを止め引きつった顔になる。
「マジかよ……俺も恐怖対象になってたのかよ……」
 アルジェントが無理やりルリが逃げないようにする。
「ルリ様、ここがルリ様のお家です。ご理解を」
 語尾を強めて言えば、ルリは怯えて逃げようとするのを止めた。
 ベッドの上でルリはぬいぐるみを抱えて震えている。
「あー畜生、こんなことならさっさとこんなところから連れ出しとけばよかったぜ」
 グリースは頭をバリバリとかきながら、後悔の言葉を吐き出す。
「グリース、お前ルリ様がこうなった原因に心当たりがあるのでは?!」
 ヴィオレがグリースに問う。
 グリースは怒りのこもった声色で答えた。
「精神が耐えれる限度を、昨日の真祖との行為で超えちまったのさ、ガラスの器に重しを入れていけばどうなる? 限界を超えたらひびが入って砕けちまう。 ルリちゃんは自分を守れなくなったから、幼児退行しちまったんだよ」
「そんな……!!」
「正直連れて帰ってやりたいけど、俺が近寄って何か起きたら俺は責任を取れない。正直ルリちゃんにこれ以上怯えられたくない」
 グリースは両手を上げる。
「俺は毎日来るが、ルリちゃんがやばそうならすぐ帰る、じゃあな」
 グリースはそう言って姿を消した。
「……一体どうしたらよいのでしょう……私が近づいても怯えられてしまう……」
 ヴィオレは嘆くように言う、彼女は幼子の様に怯えるルリの対応に困っているようだった。
 怯えさせたくないのだろう、ヴィオレはルリの前ではそんな風に見せないが非常にルリを心配し、心から仕えている。
「……私がお世話をします」
「アルジェント? お前も怯えられてるではありませんか」
「ヴィオレ様がお世話ができないというのであれば、私がするしかありません」
「……お前ばかりに任せて……」
「構いません」
 ヴィオレはルリの事をアルジェントに任せて部屋をでていった。

 アルジェントは部屋に鍵をかけ、ルリが出て行かない様に術も施す。
「おかあさん、おかあさん」
 ルリはぬいぐるみを抱いたまま泣いている。
「ルリ様、先ほども申しましたが、ここが貴方様の今の『お家』です」
「おかあさんは」
「おりません、ルリ様はこの城の城主――真祖様の花嫁となられたのです」
「やだよぅ、おうちかえりたいよぉ」
「……」
 ルリ幼子のような状態のまま泣きじゃくっている。
 アルジェントは一度主に報告するべく、ルリの部屋から姿を消した。
 真祖の部屋の前に来る、目の前は一見すると壁だが、術で扉が隠されている。
「真祖様、奥方様のご様子が――」
『分かっている』
 重々しい声がアルジェントの耳に届く。
『……先ほど、人間どもの政府から連絡があった』
「どのような?」
『不死人の女が新たに見つかったから、その壊れた不死人と交換してはどうかとだ』
 アルジェントの心に憎悪と殺意が噴き出す。

――いつ知った?――
――否、ルリ様をそのように――

「……真祖様はなんと」
『貴様らの首と胴体がくっついていたいなら今の言葉を撤回しろ、ルリは私の妻だ、他の不死人の女など不要だ、貴様らがやりたい実験にでも使っていろ、と伝えた。警告に言い出した者を一人殺してな』
「……」
『慌てて謝罪して撤回をした、最初から言わねばいいものを愚か者どもが』
 真祖が人間政府を侮蔑するような言葉にアルジェントは内心安堵した。
「それで、奥方様は――」
『帰さぬ』
 真祖の声ははっきりと一言、だが強い口調で発せられた。
「……ではどうなされるのです」
『育てなおせ』
「……と、申しますと」
『お前が仕込め、今まで禁じていた行為全て許す』
「かしこまりました」
『私はいつも通り日が落ちてから部屋に向かう、それまではお前が好きにするがよい』
「はっ」
 声が消える、圧も、消えた。
 アルジェントはその場から姿を消し、自分の部屋へと転移した。
 アルジェントは口を覆った。
 それでも歪んだ笑みを隠せなかった。

――壊れてしまった可哀そうなルリ様――
――何もしらない可哀そうなルリ様――
――心は無垢で、体だけ開発されてしまっているルリ様――
――それを汚していいなんて――

「ああ、何て幸せなんだ……!!」
 アルジェントは歪んだ幸せに歓喜の言葉を口にした。


 アルジェントは興奮を沈めてから、ルリの部屋へと転移する。

 ルリは「怖い人」が居なくなって少し落ち着いたのかベッドの上のぬいぐるみたちで無邪気に遊んでいた。
 だが「怖い人」が来たので途端に怯えだし、ぬいぐるみを抱きしめてベッドの隅で震える。

 アルジェントは怯えているルリに近づいていく。
 ぬいぐるみを取り上げた。
「かえして、かえして」
 怯えた声のまま、ルリはぬいぐるみを返してもらおうと手を伸ばす。
 しかし、アルジェントとの身長差から手が届かなかった。
「ルリ様、お遊びの時間は終わりです」
 アルジェントはいつもと変わらぬ冷たい声色でルリに言う。
 ぬいぐるみを棚の上に転移させる。
 ぬいぐるみがなくなり、困惑しているルリを抱きかかえると、転移魔法を発動させ、部屋から姿を消した。

 ルリはひんやりと何処か冷たい空気の部屋に連れてこられ、顔を真っ青にする。
 何かがルリに言っているのだ、「ここは怖いことをする場所だ、恐ろしい目にあわされる場所だ」と。

 腕の中から逃げ出そうとしているルリを見て、此処の部屋での行為の事は完全に忘却していないのを認識する。

 ここで散々グリースに体を許したことへの罰と称した開発行為を行ったのだから。

 アルジェントはルリを逃がさないように抱えたまま、部屋の奥へ行く。
 壁のようだが、それは認識で開く自動扉だった。
 更に奥の部屋にはベッドと、黒い台が置いてあった。
 扉が閉まるのを確認するとアルジェントは腕の中で逃げようとするルリをベッドの上に座らせる。
 出口がなくなったのかルリは怖がり始めた。
「おうちかえして、こここわい」
「ルリ様のお家はあの城です、そしてここはルリ様がお勉強をする場所です」
「こわいよぉ……なにするの……」
 ルリはべそをかき始めた。
 アルジェントは加虐欲を抑えるのに必死だった、今は目隠しも何もしてない、それを表に出してしまいそうな程興奮していた。

――嗚呼、なんて可哀そうで可愛らしいルリ様!!――

「夜伽で真祖様を満足させるためのお勉強ですよ」
 興奮を抑えながら、アルジェントは言う。
 ルリの顔がまた恐怖に変わる。
 どうやら、幼児退行はしているが、幼児退行前に覚えていた知識などの一部が「怖いこと」と結びついているようだ。
 今のルリは「夜伽」は何かわからない、でも「怖いこと、恐ろしいこと、痛いこと、苦しいこと」そういった恐怖するものと結びついている状態なのだ。
 ルリは逃げようとするが、アルジェントはベッドの上に座った状態で彼女の体を掴む。
 痛めつければきっとルリはより怯えるようになるだろう、そしていう事を聞くようになるだろう。
 不死人のルリを痛めつけたところで傷跡一つ残らない。
 だが、アルジェントはそれをしない。
 頬をはたいたりするだけでも今のルリには十分効果があるのは予想がついた、だがそれはしない。
「ルリ様、怖いかどうかはルリ様の行い次第です」
 ルリはカタカタと体を震わせている。
「グリースという輩がいます」
「……だれ?」
「ルリ様がこわいとおっしゃられた、白い髪の――」
「……しろいかみのおにいちゃん?」
 男でも女でもないが、ここは訂正しないでおくことにした。
「はい、その者にだけは近寄ってはなりません」
「……こわいからちかよらない……」
「それでいいのです。もし近寄ったり、これからするような行為をその者にしたら――」

「私がルリ様を罰します、痛くします」

 アルジェントの冷徹な声と表情にルリは怯えてうなづいた。




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