不死人になった私~壊れゆく不老不死の花嫁~

琴葉悠

文字の大きさ
25 / 96
こわれたはなよめ

「こわいこと」はしない?

しおりを挟む



 アルジェントは花畑でルリが飽きるまで遊びの相手をした。
 疲れたルリが部屋に戻りたいと強請るまで。
 そのころにはルリ服が草まみれになっていた肌が出ている部分にも草がついている。
「ルリ様お風呂に入りましょう」
「うん」
 怯えの色はない、素直にルリは言う事を聞いてくれた。
 抱きかかえて浴室に転移し、一瞬で浴槽にお湯で満たす。
「わぁ」
 ルリが驚きの声を上げる。
「では、お洋服と下着を脱ぎましょう」
 その言葉に、ルリがびくっと強張った。
「……こわいことしない?」
「しません」
 苦笑して返すと、ルリは少し安心したようだ。
 床に下ろすと、服を自分から脱ぎ、下着も脱いだ。
 中身が子どもだからたたむという考えはない、その場に脱ぎっぱなしだ。
 アルジェントは脱いだ服と下着を拾い、洗濯の所へ転移させる。
 ルリはなにかを探しているようだ。
「なにか、お探しですか」
「おゆくむのは?」
「……もしかして桶のことですか?」
「うん、おふろはいるまえによごれおとさなきゃ」
「……桶がないのでシャワーで我慢してください」
 アルジェントはそう言ってシャワーヘッドを掴み、お湯を出し、ルリの体を洗うのを補助しはじめた。
 ルリは石鹸を受け取り、それを泡立てながら体を洗っていく。
 体が泡を纏うような状態になったところでアルジェントはお湯をかけた。
 汚れが落ちたのを確認すると、ルリは浴槽に浸かった。
「ぷにちゃんは」
「こちらで洗いますので……」
「おふろじゃだめ?」
「だめです」
「……わかった」
 ルリは少ししょんぼりした雰囲気をだした、アルジェントはぬいぐるみの花冠を取り、転移で洗濯の所へと転移させる、使い魔たちがもっともよい方法で汚れを落としてくれているだろう。
 暫くお湯に浸かってからルリは浴槽から上がった。
 濡れているルリの体をタオルで拭いてやる、ルリは大人しく拭かれていた。
 拭き終わると、ルリの体をタオルでくるんで部屋へと転移する。
 花冠をルリの机の上に置くと、ルリをベッドに座らせ、タオルを取る。
 そして肌の露出が少ないネグリジェと、しっかりしたショーツを棚から出し、身に着けさせた。
 ルリが不安そうな顔をしている。
 アルジェントはルリの頭を優しく撫で、微笑む。
「ルリ様、今は少しお休みください」
 そう言って、アルジェントはルリをベッドに寝かせて毛布を掛ける。
「……こわいよ……」
「大丈夫ですから……」
 優しく頬なでて微笑み、立ち上がり、その場から姿を消した。
 いったん自分の部屋に戻り花冠に枯れない腐らないよう術をかけて、机の上に置く。
 そして主の部屋の前へと移動する。

 扉の前で膝をつき頭を垂れる。
「真祖様、お休みの所失礼します」
『わかっている』
 重々しい声がアルジェントの耳に届く。
「……奥方様の御心が元に戻るまで情事を控えてはいただけないでしょうか」
『……グリースが行動したら私は手が出せぬ、仕方ないそうしよう』
 主の言葉に安堵した、自分が何もしなくても主が今のルリにとって「怖いこと」をしてしまえば、ルリの精神はどんどん軋んでいってしまうだろう。
 危うくなったら、グリースが連れ去るだろう、そうすれば人間政府も、こちらも手が出せない。

 グリースの力は強大なのだ。
 普段は風の力を使っているが主から聞かされた話では彼の最も得意とするのは風ではない、世界も星々をも焼く程の炎だ。
 多くの吸血鬼、人間が、グリースの炎で一瞬で灰と化した、骨さえも、主ですら、白木の杭も効果がない主でさえ、灰になりかける程の炎だ。
 不死人の存在はこちらも把握しているが、誰一人としてグリースの足元にも及ばない。
 術でさえも、主は抵抗できなくなる、それなのに自分が抵抗できるのが不思議なくらいだ。
 強力な術、身体能力、そして不死性、いまだに世界の脅威として認識され、発言力が強い。
 主よりも、だ。

 グリースの根っこにあるのは世界への怒りだ。
 未だこの世界に怒りを向け続けている。
 唯一怒りを向けていないのがルリだ。
 彼女にだけは愛情を向けている。
 ルリが本当に精神的にも肉体的にも追いつめられているのであれば確実に――グリースは再び世界を炎で焼き尽くすだろう。
 二千年前の業火の世界が再演される。

『お前も対応に気をつけよ』
「勿論です」
 声と圧が無くなるとアルジェントはその場から姿を消し、自室へと戻った。

 自室に戻り、椅子に腰をかけ深いため息をつく。
 頭にルリを汚してしまいたいという欲がこびりついてしまっているのだ。
 その一方で、あの無垢で無邪気な笑顔を守りたいという感情もある。
 自分の汚れた欲を抑えなければと頭を抱える。
 ふともらった花冠が目に入る。
 はにかんだあの笑顔がよみがえる。
 同時に、それを穢そうとする自分の存在は目に映る。
 アルジェントは歯を食いしばり、氷の刃で自分の腕を刺した。
 だらだらと血が流れる。
 穢そうとする自分は消えた。

――そうだ、殺せ、自分を――
――あの笑顔を守るためなら、ルリ様の御傍にいるためなら――

 アルジェントは歪に笑った。


 夕暮れ時、ルリは目を覚ました。
 ルリはベッドから起き上がり窓から外を見る。
 空が赤い。
 「家」に帰りたい気持ちが強くなるが、ここの人達は帰してはくれないというのがわかった。
 何故帰してくれないのかルリには全くわからなかった。
 そして何より、夜になるのが怖かった。
 少しだけ怖くなくなった銀髪の人は「大丈夫」と言ったが、本当に「大丈夫」なのか分からない。
 だってこれから来る人は――「とてもこわいひと」だからだ。
 この「とてもこわいひと」も「こわいこと」をする人だからだ。
 ベッドに戻り、ベッドに座ると、周囲が少し暗くなる。

――「とてもこわいひと」がきた――

 ルリは怯えながら顔を上げる、黒い髪、赤い目、真っ白な肌、そして「おかあさん」よりも年をとっている姿の、真っ黒な服を着た、「とてもこわいひと」。
 体をこわばらせる、暴れたりしたらきっと「こわいこと」をしてくる。

 ヴァイスは怯えた表情をしている、ルリを見る。
 ヴァイスは寂しげな表情のまま、ルリを抱きかかえ、いつものようにルリの部屋から自分の部屋へと闇を使って転移する。
 ルリは真っ青な顔をしている、昨日と違って暴れることはしない。
 酷く怯えた彼女をベッドに寝かせ、自分も隣に横になり、マントを毛布変わりにかけてやる。
 昨日とは違うが、まだ何をされるか分からない恐怖心が抜けていないのか震えている。
 優しく抱き寄せる。
 怯えているルリの頬を撫でる。
 ルリの唇が動いている、でも声にはなっていない。
「……怒らぬ、申せ」
「――こわいこと、しない?」
 ルリは小さな、怯えている声でヴァイスに尋ねてきた。
 「怖いこと」とは情事の事だろう。
 グリースの発言もある上、自分に忠実な配下のアルジェントの言葉もある。
 自分がやぶって中身が幼子になっているルリを抱くのは問題だ。
「せぬ」
「――ほんとう?」
「勿論だ」
 それでようやく、ルリは怯えの色を薄めた。
 自分の腕の中で大人しくしている。
 ただ、まだ自分の事を恐れているのか、顔色をうかがうような仕草をしている。

 ルリは「とてもこわいひと」の腕の中で怯えたまま、「とてもこわいひと」の様子をうかがう。
 この「とてもこわいひと」は「こわいこと」はしないとは言った。
 でも、本当にそうかわからない。
 よくわからないが、気分一つで気が変わって「こわいこと」をするような気がするのだ。
 気分一つで「いたい」ことをするような気がするのだ。
 だから怖くて仕方がなかった。
「……どうしておうちにかえしてくれないの?」
 ルリは尋ねた、銀髪の人にも尋ねたが泣いてたからよく覚えていなかった。
 だたいやだと答えたことだけは覚えている。
 尋ねると「とてもこわいひと」はルリの頬を撫でた。
「お前は私の花嫁となったのだよ」
「……わたしよんさいだからけっこんできないよ」
 ルリは首を振りながら「とてもこわいひと」の言葉に、無理と答えた。
 ルリは「おかあさん」から十八歳にならないと結婚はできないと聞かされたことがあったのを覚えていた。


 ヴァイスはルリの発言に頭を抱えたくなった。

――四歳、四歳?――

 ここで、ルリがどこまで幼児退行したか理解した。
 発言が幼すぎると思ったが、まさか四歳の頃まで退行していたとは。
 発言によっては泣き出してまた逃亡を図りかねない。
 ルリの存在を知りたがる配下の吸血鬼は大勢いる。
 その中には不死人の「甘美な血」を欲する輩もいる。
 どうやって、城の外にださないよう、他の輩に気を付けるよう言えばよいのか、ヴァイスは頭が痛くなった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...