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偽りの忘却
私は作られた存在 ~貴方はそのままでいて~
しおりを挟むルリは、グリースも何だかんだ言って思い出してほしくなさそうに思っているのを感じ取った。
どうやら記憶喪失前の自分は相当病んでいたらしい。
だが、ルリは何とか思い出したかった、頭痛が発生する以外で何かないかと思い、あることを思いつき、ルリはベッドから起き上がり、扉へと向かった。
「ルリちゃん?」
「ルリ様、どこかへ――」
ガツン!!
渾身の力を込めて、思いっきり扉に向かって頭突きをした。
ルリはそのまま卒倒した。
「ルリちゃん?!」
「ルリ様?!」
二人は卒倒したルリに駆け寄る。
アルジェントが抱き起した。
「ルリ様!! ルリ様!!」
「ルリちゃん、頭に衝撃与えれば戻るかもって思ってやったな? ああもう!!」
グリースは頭を抱えた。
「ベッドに寝かせて、頭冷やせ!! 血は出てない!!」
「貴様に言われずとも!!」
アルジェントはルリをベッドまで運び、寝かせると、氷嚢をぶつけた箇所に乗せた。
「……ルリ様」
アルジェントはルリの手を掴んでいる、その手はかすかに震えていた。
「……」
ルリの記憶が戻るのを特に恐れているのはヴァイスとアルジェントだ。
この二人はルリに相当な傷をつけたのを今は自覚しているからだ。
今は割と気さくに接しているルリが、以前の様に、虚ろな目で自分を見ているのに全く見ていないという状態は非常に堪えるのだ。
どのルリの記憶が表に出るのかわからない。
だからなるべくルリが頭痛で苦しむ状況を止めたい。
思い出さないでほしい、忘れていてほしい、もう一度関係を一からやり直させてほしい、それが二人の願いだろう。
そうして叶うなら自分を「愛して」くれることを望むのだろう。
何て身勝手だ。
けれども自分も身勝手なのはグリースは分かっていた。
ルリに記憶喪失だと教えなければよかったとも思った、そうすればルリは何も知らずに入れただろう。
けれども――それは必ずばれてしまう。
それが分かっていたからこそ、真実を教えた。
予想以上に、ルリが記憶を思い出そうとするのがグリースには怖くて仕方なかった。
彼女がまた傷つくんじゃないかと怖いのだ。
笑顔が失われるのが恐ろしい。
『どうしてそこまでして思い出したがるの?』
ルリは咎めるような声で目を覚ました。
夢の中のいつもの光景だ。
女性が幼子を抱いて、ルリを咎めるような眼をして言っている。
「どうしてって、思い出したいからだよ!」
『……辛い記憶ばかりよ』
「……まぁ、そうだろうと思ったよ、でも、いい記憶もないわけではないよね」
『ないわ』
「マジかよ……」
女性の言葉にルリは頭を抱えた。
『貴方はそのまま思い出さないままが幸せなの、それが一番よ』
「みんな何でそういうわけ?!」
『……』
女性が幼子を抱いたまま、柵をすり抜けてルリの元に近づいた。
女性がルリの胸元に手を当てた。
「っ……?!」
ルリはうずくまった。
苦しい、辛い、悲しい、何故自分が、色んな感情が吹き上がる。
汗をかき、地面に膝をついたままひゅーひゅーと呼吸を繰り返した。
『思い出すというのはこういうのをずっと抱えて過ごすということなの』
女性は再び幼子を抱えたまま、柵をすり抜け向こうへと戻った。
『貴方は何も思い出さなくていい』
女性はきっぱりと言った。
「っ……?!」
ルリは汗をぐっしょりかいて、起き上がる。
窓の外は日が暮れていた。
ルリは着ていた服を脱ぎ、タンスからネグリジェを取り出し、袖を通す。
額を抑え、裸足で部屋をうろつく。
「……気分悪い……」
夢の中で、酷い苦痛を感じたのが今だ残っていた。
気分転換に歩いてみたが、余計体が辛くなって、ルリはベッドに戻って横になる。
闇がずるっと出現したのに気づかなかった。
ヴァイスはベッドに横になっているルリを見る。
顔色が悪い、土気色のあまり良くない色だ。
「ルリ」
そっと頬を手で撫で、名前を呼ぶ。
「ん……」
ルリは呼びかけに答えるように視線をこちらに向けてきた。
「……ヴァイス?」
「顔色が悪い、どうした?」
「……ちょっと、夢でね……」
ヴァイスはその言葉に口を閉ざし、ルリの頬を撫でていたが、しばらく何かを考えていたのか口を開いた。
「ルリ、もうよい、忘れたことはそのままにして置け」
「でも……」
ヴァイスはルリの髪をすくように撫でる。
「辛い記憶を思い出して苦しむのはお前だ、今の様に苦しんでいるお前を見ていたくはない」
「……でも、思い出さなきゃ……」
「良いのだ、今のままで」
疑問の視線を投げかけるルリに、ヴァイスは慈しむような眼と表情で、彼女の頬を撫でた。
――ああ、ヴァイスは、こんなに優しい人なのか……――
――いや、おかしい、違う、何かが、違う、違う、違う、違う!!――
「あああああああああああああああああ!!」
ルリは叫び声をあげて頭を抱えてもがき始めた。
ヴァイスは舌打ちし、ルリの手を掴んで頭から引きはがす。
ルリの頭を掴み叫ぶ。
「思い出さなくてもよい!! 否、思い出すな!!」
ルリは荒い呼吸をして、ヴァイスを見る。
「な、なんで……?」
ルリは困惑の表情を浮かべている。
「……頼む、思い出さぬままでいてくれ」
ヴァイスは膝をつき、ルリの手を握り懇願するように言った。
ルリはまだ痛みがうっすらと残る頭で考えた。
何故皆、記憶を戻らないことを願うのだろうと。
『思い出したら、今の平穏は壊れるから』
頭の中で声がした。
意識を保っているのが辛い。
ルリは意識を手放した。
『だから思い出さないほうがいいの』
女性の声が聞こえるが、今日のルリは花畑に倒れて動けなかった。
女性が近づいてきたのが分かる。
『苦しかったでしょう、辛かったでしょう、アレがずっと続くのよ思い出すと、だから――』
『永遠に、思い出さないで』
ルリが目を覚ますと朝になっていた。
ルリははぁとため息をつく。
「……永遠に思い出さないで、か」
女性の言葉を反芻する。
「……本当、無くした記憶相当厄介なものみたいだ……でも……」
ルリは自分の手を見ながら呟く。
「――記憶喪失で生まれた私が幸せなだけであって、本来の私は不幸せなままじゃ意味ないでしょうが、だから――」
「――苦しくてもいい、辛くてもいい、その結果私がおかしくなってもいい、戻らなきゃ、元に。作り物の私じゃなくて本当の私に」
ルリは理解したのだ。
自分は記憶喪失という設定のルリなのだと。
頭に受けた衝撃は単なるきっかけに過ぎない。
生きるのが辛くて苦しくなった本当の自分が、それを無くすために記憶喪失の状態の自分を作ってそれと出したのだ。
だた、その出来が良すぎたので、ルリは本来のルリが持っている記憶を隠れた状態で保持してしまっているのだ。
だから違和感が生まれる、本来のルリはそれを防ぐために激しい頭痛を引き起こすように仕掛け、また頭痛が消されると蘇るのも消えるようにもした。
いつまでも、このままでは傷を負って引きこもって苦しんでいる自分が可哀そうだ。
何が何でも記憶を取り戻して、彼女の一部に戻らないと。
――それが茨の道であっても――
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