モノマニア

田原摩耶

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人の心も二週間

短気と呑気のお食事会

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 ヒズミが抜け出した。
 放課後、聞かされたその言葉は数時間経っても俺の頭にこびり付いて離れなかった。
 そして、夜。

「てめえは風紀をなんだと思ってんだ、便利屋か?!ああ?!」
「……うー、だから悪かったって言ってるじゃん」
「言ってねえよ!」

 あれ、そうだっけ?と思いながら、俺は目の前で憤怒するなっちゃんから目を逸らす。
 あの後、全て俺のハッタリだったことを知ったなっちゃんに捕まってしまって現在に至るわけだけど。
 腹を満たせば少しはなっちゃんの怒りも収まるかな?と思って食堂までやってきたのに、なっちゃんの怒りは収まるどころかなんかでかくなってるような気がしてならない。

「唯でさえ評判が悪くなってるっつーのに、冤罪押し付けてしまったら更に悪くなるだろうが!」
「大丈夫大丈夫、あの二人絶対真っ黒だから」
「てめえが言うな!」
「ほら、なっちゃんフルーツポンチあげるから落ち着いて~」
「いらねえ!」

 えー、美味しいのに。もったいない。まあ最初からあげるつもりはなかったからいいか。
 なんて思いながらデザートを一口食べた時だ、どこからか携帯の着信音が聞こえてくる。
 人は多くない食堂内、誰の携帯かはすぐにわかった。

「はあ?もしもし?」

 そういって携帯を取り出したなっちゃん。すげー電話でも喧嘩腰。

「ああ?それくらいそっちでなんとかしろ!こっちは子守で忙しいんだよ!」

 携帯に向かって怒鳴りつけたと思えば、いきなり通話を終了させるなっちゃん。
 携帯から微かに聞こえた慌てたような声に同情しつつも、なっちゃんの口から出たとある単語に引っかかる。

「ねえ、もしかして子守って俺のこと?」
「てめえ以外誰がいるんだよ」
「何それひどーい」

 なんて言い合いしてる内にまたなっちゃんの携帯電話が鳴り始める。矢先、出もせずなっちゃんは電話を切った。

「っくそ!」

 苛ついた様子で携帯端末をテーブルの上に叩きつける勢いで置くなっちゃん。相当苛ついてるらしい。少しは心の広い俺を見習って大人になれないのだろうか。

「…………忙しいんなら行ってきてもいいんだよ?」
「もうその手には乗らねえからな」
「チッ」
「この野郎…」

 すると、また電話が鳴り始める。しかし、テーブルの上に置かれたなっちゃんの携帯は反応していない。
 ………ということは。

「はいは~い」

 制服のポケットに突っ込んだままになってた携帯を取り出し、そのまま電話に出ると、端末から懐かしい声が聞こえてきた。

『京。俺だ』
「マコちゃん?」

 聞きたかったその声に、マイナス値に行きそうになっていた俺のテンションが一気に上がるのがわかった。
 それと同時に、向かい側に座るなっちゃんの顔が更に不機嫌そうなものになっていた。

『なんだよ、また確認せずに電話に出たのか?』
「えへへ、なんとなくマコちゃんだと思ったからさぁ」
『嘘だな』
「バレたか…………」
『……全く。相変わらず元気そうだな。今電話して大丈夫だったか?』
「うん、全然いいよー!」

 マコちゃんの声を聞くだけで、自然と背筋が伸びた。
 目の前にいないとわかっててもつい満面の笑みで返してしまう俺に、小さく舌打ちをしたなっちゃん
 お、ヤキモチか。なんて思った矢先、箸を手に取ったなっちゃんはそのまま俺の皿の肉をあろうことか取り上げやがった。そして、そのままぱくりと一口で頬張るなっちゃん。

「あっ、ちょっとなに食べてんの?」
「うるせえ、子守代ぐらい寄越せ!」

 なんだとコノヤロウと、持ってた携帯端末をその顔面に投げつけてやろうかと思った矢先。

『千夏もそこにいるのか?』

 聞こえてきたマコちゃんの声にハッとする。

「聞いてよマコちゃん、今なっちゃんが俺の肉食ったんだよー」

「マコちゃんからも怒ってよ」と続けようとしたとき、伸びてきた手に携帯ごと取り上げられる。
 あっと顔を上げればごくりと喉を鳴らし、肉を飲み込んだなっちゃんがそこにはいた。

「委員長。俺もう嫌っすよ、こいつの面倒見るの。すぐ逃げ出すわ風紀騙すわ手に負えません」
「マコちゃんに適当なこと言うなっつーの!馬鹿なっちゃん!金髪アホ毛~!」
「うるせえお前もだろうが!!」

 叩かれた。痛い。
 そのまま頭掴まれ無理矢理引き離された俺。
 くそう、少しでかいからといって人をひょいひょい扱いやがってくそう……。

「え?あー、よく聞こえねえ。今外出るんで」

 乱れた髪を撫で付けていると、携帯を手にしたままなっちゃんはバルコニーの方へ歩いていく。どうやら俺はお呼びではないということらしい。
 俺宛の電話なのに、と不満を覚えずにはいられないが、今がチャンスなのは確かだ。
 なっちゃんの背中が見えなくなったのを確認して、俺はなっちゃんの皿に乗ってる肉を二切れ口に放り込んだ。
 そして、数分してなっちゃんは戻ってきた。

「本当、あいつどんだけ心配性なんだよ…こんな図太そうなやつ放っとけばいいのに…っておい!なに食ってんだ!」
「ふっへはいへほー?はひははっへひふほひはんはほー」
「とぼけんな!しっかり口に入ってんだろうが!!」

 くそ、ついでに三切れ目と欲張ったのが仇となったらしい。
 怒り狂うなっちゃんから皿の肉を守りつつ相手の皿から肉を奪うという戦いが幕を開いた。
 数分後駆け付けた他の風紀たちに止められすぐに幕引きとなったのは言うまでもない。
 悪鬼となったなっちゃんから引き離されるようにして他の風紀委員に付添われ(連行とも言う)自室へと戻ってきた俺。
 一人の部屋はやはり広い。それ以上に、冷たく感じた。
 風紀委員はヒズミが抜け出したこと知らないみたいだった。ユッキーといい、純といい、二人の情報網は信頼出来るしヒズミが抜け出したことも事実なのだろう。
 それなのにヒズミの脱走が伏せられている理由は、なんとなくだが考え付いた。
 ヒズミが抜け出したと知ったら、風紀はなんとしてでも探し出そうとするだろう。学校全体が不穏な空気に包まれている今、学校側は下手に事を荒立てたくないのだ。
 もし、謹慎中のマコちゃんの耳に入ってみろ。そうならないと思っていても、やはり、もしマコちゃんがなんとしてでもヒズミを見つけ出そうとしたらと考えると血の気が引いた。
 出来ることなら、マコちゃんにはヒズミと関わってほしくない。
 マコちゃんには普通の人で、俺の憧れのままでいてもらいたかった。
 真面目で、頭がよくて、真っ直ぐで。一生掛けても俺にはなれない、追いつくことが出来ないとわかっているからこそ、誰にも傷付けられず汚れずにいてもらいたかった。
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