モノマニア

田原摩耶

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人の心も二週間

吉か凶か

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 ――生徒会室内。
 半ば連行される形で戻ってきた俺はそのまま先程まで座っていたソファーにどかりと腰を掛けた。

「で、仕事ってなに?」

 そして、めんどくせーとか思いながらかいちょーを見上げた時「ほら」というかいちょーの声とともに目の前にバサバサと落ちるそれは敗れた紙を束ねたもののようだ。
 一枚を手にとれば、それは間違いなくここに来た時俺が破いて捨てたリコール願書で。

「お前の仕業だろ、これ」
「へえ、かいちょーってゴミ箱漁る趣味あるんだぁー。意外~」
「それ、全部繋げて元の形で俺に提出しろ」
「やだ」

 そうきっぱりと言い切れば、ニヤニヤ笑っていたかいちょーの表情が僅かに凍り付く。
 代わりに、隣に座ったちーちゃんが呆れたように笑った。

「全く、貴方もお馬鹿ですね、こういうものは残らないよう燃えカスにしないと。誰かさんのようなハイエナに見つかってしまうでしょう?」
「誰がハイエナだ」
「自覚なし、と」
「……………………」

 誂われ、面白くなさそうな顔をするかいちょーだったけど、わざとらしい咳払いでそれを紛らわした。

「とにかく、全部終わるまでここから出す気はねえ」
「…………」
「なんだ?その目は」
「別にぃ?かいちょーさんはこんな無駄な事する人なんだなーって思ってさ」
「無駄だと?」

 テーブルの上、破れた紙の束を手に取った俺は立ち上がり、そのまま窓を開いた。そして、更に小さく破いたそれを窓の外にぶん投げる。
 瞬間、空中で四散したそれらは紙吹雪のように風に飛ばされていく。
 おー、飛ぶ飛ぶ。なんて見送りつつ、どこかの誰かに見つかる前に窓を閉めた俺は驚いた顔をした二人に向き直る。

「俺は風紀委員長リコールは断固反対だよ。何があっても、委員長をリコールなんて許さないから」

 今まで、学校のために頑張ってきていたマコちゃんを見てきた。
 いくら誰が何を言おうと、それだけは確かな事実だ。
 呆れた顔をしたちーちゃんに「仙道」と嗜められる。それでも、今更撤回する気にもならない。する気もない。

「…………っく、くくく…っ」

 押し黙っていたかと思いきや、かいちょーは肩を揺らしていきなり笑い出した。
 そして、

「ははは!おもしれぇ。そうだよなぁ?そう来なくっちゃな。じゃねえとつまらねえ」
「全く、貴方と言う方は。…なぜこうも余計事をややこしくするのでしょうか」

 笑うかいちょーとは対照的に眉間を抑えるちーちゃんは本当に呆れているらようで。
 ちーちゃんには言われたくない。
 が、まあ、確かに面倒なことをしてしまったと思う。
 こういう時はまあ、あれだな。なんて思いながら、俺は小さく息を吸った。

「なっちゃーん!助けてー!ちーちゃんとかいちょーが二人がかかりで変なことしてくるー!」
「「?!?!」」

 そう、大きく声を張り上げた時だ。
 勢い良く生徒会室の扉が開き、数人の風紀委員をバックになっちゃんが飛び込んできた。

「うおるァ!!千春てめえ神聖な校内でなにしてんじゃぁああ!!」
「えっ、まだなにもしてないですよ!靴すら脱いでもないですから!」

 まさかのちーちゃんもなっちゃんを呼び出されると思っていなかったようだ。
 当たり前のように捕獲されるちーちゃんに俺は小声で呟いた。

「ごめんねちーちゃん、今度埋め合わせするから」
「生尺だけでは許しませんからね!」

 おお、ちーちゃんが言うと冗談に聞こえない。
 これは怒ってるな、と思いながら俺はどさくさに紛れて生徒会室を脱出した。


 ◆ ◆ ◆


 無事生徒会室から脱出した俺。
 ついなっちゃん置いてきてしまったけど、まあいいや、仕方ない仕方ない。
 今からどうしようかな、マコちゃんのお見舞い行こっかな、と考えている時だった。

「仙道さん!大変です!」

 血相を変えた純が駆けつけてくる。
 なんつータイミングのよさ。取り出しかけた携帯をポケットに仕舞い、俺は純を振り返る。

「なに?どしたの、そんなに慌てて…」
「そ、その…非常に言いにくいんですが………」
「仙道!」

 名前を呼ばれ、今度はなんだと振り返れば、そこには顔色を変えたユッキーがいる。
 なんだなんだ、次から次へと。普通に良い予感がしないんだけど。
 俺達の元までやってきたユッキーは、俺の横に居た純に少しだけ驚いたような顔をした。

「あれ、なんだ純、お前も来てたのか。なら、もう聞いたのか?ヒズミが病院から抜け出したって」
「へー…………って、は?」

 ん?抜け出した?誰が?…………ヒズミが?
 ……………………はい?

「お、おい、もっとオブラートに…」
「さっき病院から職員室の方に連絡が行ったらしい。検診に行ったら病室の窓が壊れてたって」

「そんで、ベッドは空」と肩を竦めるユッキーの言葉は最早頭に入ってこなかった。
 ヒズミが脱走した。その言葉を理解した瞬間、頭の中が真っ白になる。
 文字通り思考停止する脳味噌を無理矢理叩き起こし、俺はユッキーを見上げた。

「……ちょっと待ってよ…ヒズミが抜け出した?動けないくらいの重体なんじゃ……」
「だから、誰かが手伝ったんだろうって俺は踏んでる。じゃないとあの怪物野郎でも無理だ」
「でも、あいつを手伝うようなやついるのかよ!」

 その純の言葉に、脳裏に数人の顔が思い浮かんだ。
 生徒会室に入り浸り、かいちょーや双子庶務と愉しそうに騒いでいたヒズミの姿が蘇る。

「…………」
「でもまあ、いくら病室を抜け出したからといってあいつも本調子じゃないしな。寧ろ、俺は好機だと思ってるよ」

「なあ、純」と純の肩を叩くユッキーは笑う。
 いつもの人良さそうな笑みの裏、よからぬことを考えているのだろう、嫌なものを感じた。それは純も同じだったようだ。

「お、おい、あんたなに考えてんだよ。まさか…」
「潰すなら今だろ」
「……ユッキー」

 やられたら倍にしてやり返す。そんなユッキーを知っているだけに、引き止めたところで聞いてくれないというのはわかっている。
 だけど、出来ることならヒズミと関わってほしくない。
 そう思わずにはいられなかった。

「なんて顔してんだよ、仙道」

 どんな顔をしてたのだろうか。可笑しそうに笑ったユッキーはくしゃりと俺の頭を撫でた。

「もちろん見つけたらの話だぞ?他の奴らにも探させてるけどどこにいるかすらわからねえ。念のため、お前も気をつけておいてくれ。
 ……ヒズミが現れるとしたらあんたの前だからな」
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