モノマニア

田原摩耶

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崩壊前夜

ようこそ虎穴へ

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「会長? ああ、そういうこと」
「……」
「いいですよ、会計様は通していいって言われてたし。案内しますね」
「あ、春日俺も――」
「アンタは駄目、煩いから」
「はあ?! なんだよそれ、なあキョウ一人で大丈夫か? てかキョウって由良と仲良かったのか?」
「あーもう煩いし着いてこようとすんな! 風紀、そいつ連れ帰って」

 花崗にヒズミを強引に押し付けられたなっちゃんは『なんで俺が』って顔してたけど、自分の役目をちゃんと思い出したようだ。
「テメェが指図すんなよ」とキレながらもそのままヒズミの腕を掴む。
 ヒズミは不満げだが病院を抜け出した自覚はあるらしい。
「やだ、俺まだキョウといたい」と不貞腐れるヒズミを無視し、「会計様はこっち」と花崗は俺の肩を掴む。

「君……」
「大丈夫ですよ、ちゃんと会長様の部屋までご案内しますので」
「……」

 指先から爪先まで信用ならない。
 けど今は花崗に従うしかないらしい。
 それに、一分一秒でもヒズミから離れたいというのは本音だった。
 俺は花崗に押されるがままかいちょー、玉城由良の自室へと通される。



 会長の部屋はこざっぱりしてる。
 けどなんとなく居心地が悪い。
 場違いな場所に来てるからというのもあるけど、なんか、すごい嫌だ。
 部屋の中にはかいちょーはいなかった。けど、すぐに部屋の奥の扉が開いた。

「春日、なんの騒ぎだ――……お前」
「会長、お届けものでーす」
「……お邪魔してまーす」

 かいちょーも俺が来ると思ってなかったのか少しだけ意外そうな顔して、それから「ああ、そういうことか」と一人で納得したような顔をする。

「春日、お前は帰れ」
「はーい、言われなくとも僕はこれで失礼します。……んじゃ、頑張ってくださいね」

 最後の一言は俺に向かって投げかけ、ひらひらと手を振りながら花崗はかいちょーの部屋から出ていく。
 バタンと扉が閉まる。これでこの部屋には俺とかいちょーの二人きりだ。
 ……二人きり?

「……純はどこ?」
「ああ? 開口一番それかよ」
「アンタんところにお邪魔してるって聞いて」
「日桷和真のことを聞きに来たんじゃねえのか」
「……」

 悪びれるどころか開き直るかいちょーはそのまま向かい側に腰をかける。
 生徒会室で見せる顔と変わらない、不遜な態度。
 余裕ぶってんのが余計気に入らない。

「純はどこ?」
「うるせえな、男のケツを追いかけてばっかだなテメェは。一人じゃなんも出来ねえのかよ」
「それはアンタもでしょ、かいちょー。……なにあれ。何考えてんの、アンタ。生徒会長の癖に、問題児と仲良ししてんの意味わかんないし」
「俺があいつと仲良くしてるように見えたのか? まあ、お前には敵わねえよ」

 話を逸らすな、と机の上に置かれていたグラスを手に取ったとき、伸びてきた手にそのまま手首を掴まれる。
 テーブルの上に叩きつけられる手のひら。突然のことに一瞬反応に遅れてしまう。それがまずかった。

「触るな……ッ!!」

 シャツの袖の下へと伸びる指に背筋が凍りつく。
 振り払おうとしても硬い指先はがっちりと蛇のように絡みついてきて、そのままインナーの袖口を捲るように手首を覗き込んだかいちょーは笑った。

「……っ」
「新しい傷が増えたな」
「……は、なせ……ッ!」

 力を振り絞り、かいちょーの手を振り払う。
 ほんの一瞬、それでもがっつりと隠していた部分をこの男に見られたことが不快で仕方なかった。
 ユッキーに拘束されたときの傷が残った体を。

 指先から熱が引いていく。
 かいちょーは笑ってた。

「敦賀――じゃ、ないな。あいつなら縛るような真似もしないだろ」

 黙れよ。
 黙れ。本当に、もう。
 土足でこの男は踏み荒らしてくる。
 偉そうな、ニヤついた顔で。

「――誰にヤられた?」
「黙れって言ってんだろ……ッ」

 その横っ面をぶん殴ってやろうとした瞬間、部屋の中に乾いた音が響く。
 かいちょーは、玉城由良は避けようとすらもしなかった。
 俺の拳を受け、そのまま首をゆっくりと動かしてこちらを見つめる。俺の手首を掴んだまま、そっと自分の頬に添えるように拳に手を重ねる。
 その指の感触が気持ち悪くて、大きくて覆い被さってくるようなそのゴツゴツとした感触が嫌で、嫌で、体が硬直する。
 逃げなければと思うのに、体の動かし方すら一瞬脳から引き剥がされたみたいに凍りついた。

「な、にしてんの、アンタ」
「それはこっちのセリフだ、会計。……分かってんのか? お前、これは立派な暴行だぞ」

 アンタだったら簡単に防げるし、避けれただろ。
 なのに、なんでそんなこともせずに真正面から受け止めたのか。
 熱を持ち始め、赤くなったかいちょーの頬を見て血が昇った脳が今度は急激に冷えていく。
 強い、目眩。最悪の予想が脳裏を瞬く間に広がっていく。

「ま、さか」

 ――俺を嵌めたのか?
 その先を言葉にすることはできなかった。
 かいちょーはただ笑っていた。腹立つほど、普段と変わらない偉そうな顔で。


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