笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

文字の大きさ
67 / 300
第六章 冒険編 出来損ないの小鳥

温泉 男性編

しおりを挟む
 遡る事一時間前、真緒達が女湯で一悶着あった同時刻。男湯の方でもちょっとした事が起こっていた。




***




 「はぁ~、嫌ですね~」


 エジタスは現在、男湯へと向かっていた。真緒達の気分転換として温泉に入る事になったが、エジタスはあまり気乗りしていなかった。


 「私はどちらかと言うと、大人数で入るよりも一人で入る方が好きなんですけどね~」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら、男湯の脱衣場に到着した。


 「さて、いったいどうしたものか…………おや?」


 「ん?ああ、あなたは確か真緒さんの所の……」


 扉を開けるとそこには、温泉から出たばかりなのかズボンだけ履いて、上半身裸のまま体の熱を冷ましている聖一がいた。


 「おお~、何処かで会った事があると思ったら……勇者パーティーのキサラギ セイイチさんじゃあ、ありませんか?」


 「覚えてくれていたんですか。そう言うあなたは、真緒さんの師匠…………申し訳ありません。そう言えばまだお名前をお聞きしていませんでした。宜しければ、教えて頂けますか?」


 聖一の名前は、いつも側でわめき散らしていた愛子、舞子から知っていたのと、“鑑定”のスキルによって予め確認していた。しかし、聖一の方はエジタスの事を真緒の師匠という情報しか知らなかった。また、“鑑定”のスキルもエジタスの持つ“偽装”のスキルによって知る事は出来ずにいた。


 「これは失礼しました~。それでは改めまして…………ど~も初めまして“道楽の道化師”エジタスと申しま~す」


 エジタスはいつも通り、両手を広げ顔の横にやり、小刻みに振る自己紹介をして見せた。


 「エジタスさん……はい、教えて頂きありがとうございます。その名前を忘れないよう、記憶に刻み込みましょう」


 「そこまで仰って下さるとは、感激の極みですね~」


 名前を教えただけでお礼を言われるのは、エジタスにとって初めての経験である。


 「ところで、エジタスさんがここにいらっしゃるという事は、真緒さんもこの宿屋にいるのですか?」


 「ええ、勿論ですよ」


 「そうですか……それは、良い事を聞きました」


 聖一は、爽やかな笑みを浮かべた。


 「また、マオさんを勧誘するつもりですか~?」


 「当然ですよ。真緒さん程の素晴らしい女性は、僕の様な完璧な男と一緒にいるべきなんですよ」


 一度断られたにも関わらず、再び勧誘宣言をする聖一。ましてや、その仲間の目の前で言い放った。


 「随分と自意識過剰ですね~」


 「自分で言うのも何ですが、僕は完璧な人間だと思っているのです。身体、頭脳、心の全てにおいて完璧を志し、常にそれを実行してきました。この事を含め、真緒さんの様な優秀な人材は、僕みたいな完璧な者との方が釣り合いが取れると思います」


 自分の事を完璧と名乗る聖一は、自意識過剰の他ならないと思うが、不思議な事に納得してしまうのだ。


 「そうだ、この際ですから真緒さんの師匠であるエジタスさんに、聞きたい事があります」


 「何ですか~?」


 「エジタスさんにとって、真緒さんとはどういう存在ですか?」


 突然の質問。更にその内容は、どういう存在かという何とも答えにくい物だった。


 「う~ん、難しい質問ですね~………………そうですね真緒さんは私にとって、最も重要な役割を持つ存在でしょうか……」


 「!!、へぇ……」


 意外な回答だった。聖一はこの質問を元いた世界で、何人かにした事があった。親しい男女がお互いどう思っているのか、するとほとんどの人が同じ返答をした。かけがえのない存在、無くてはならない存在など、相手を大切に思う返答ばかりだった。しかし、エジタスの返答はそのどれにも当てはまらない。


 「ありがとうございます。あなたの事が少し分かった気がします」


 「いえいえ、私は自分の正直な気持ちを述べただけですよ~。その代わりと言っては何ですが、私からも質問していいですか?」


 「勿論、いいですよ」


 「では…………あなたのその完璧を求める行為は、誰の為にやっていますか?」


 「………………」


 エジタスの質問に、何の反応も示さない聖一はゆっくりと口を開いた。


 「何を言っているんですかエジタスさん…………誰の為も何も……僕自身の為に求めてるだけですよ」


 「んん~、成る程」


 当然の返答をする聖一に対して、エジタスは納得の意思を示した。そして、この意味の無い質問は終わったのであった。


 「それじゃあ、僕はこの辺で失礼させて頂きますね」


 そう言うと聖一は、シャツを着てそのまま脱衣場を出ようとし、出入り口の所でエジタスに向かって一言声を掛けた。


 「ああ、そうそう…………ここの温泉、最高ですよ」


 そう聖一は教えると、そのまま脱衣場を後にした。そして、自分の部屋に戻る途中でボソリと呟いた。


 「……恐ろしい人だ」


 聖一の言葉は誰にも聞こえる事は無かった。そして、一方のエジタスは……。


 「…………さて、私も入るとしましょうかね~」




***




 「ここですね、男湯の脱衣場は……」


 現在真緒達は、覗き目的で男湯の前まで来ていた。


 「ねぇ、やっぱり止めようよ」


 「ここまで来て何言っているんですか、もう後戻りは出来ないんですよ」


 リーマは静かに脱衣場の扉を開ける。するとそこには誰もおらず、あるのは見覚えのある服が丁寧に折り畳まれていた。


 「こ、これって、師匠の服……」


 「思った通りです。つまり、この先にエジタスさんがいる訳ですね」


          ゴクリ

 生唾を飲み込む三人は、温泉の扉に手を掛ける。


 「開けますよ。覚悟はいいですね?」


 リーマの言葉に真緒とハナコは、大きく頷いた。


 「では、行きます…………」


 ゆっくりと扉を開ける。するとそこには…………。


 「~~♪~~~♪~~♪~~~~♪」


 エジタスは鼻歌混じりに体を洗っていた。しかし、肝心の全身は泡で覆い隠され、肌は一切見えていなかった。また、顔は仮面を着けたままだった。


 「さてと、次は…………ん?」


 「「「あっ…………」」」


 エジタスが視線を感じ、ふと振り返って見ると、団子三兄弟の様に顔を乗せて覗く女子三人の姿があった。


 「キャーー!!マオさん達のエッチーー!!!」


 「「「うわぁぁあああ!!」」」


 エジタスは咄嗟に温泉のお湯を、真緒達に向かって掛けた。その勢いに真達達は、ずぶ濡れになりながら後ろへと吹き飛ばされた。そして直ぐ様扉が閉められた。


 「「「………………」」」


 三人はしばらくの間、仰向けのままで呆然としていた。


 「…………まさか、入浴中でも仮面を着けているだなんて……」


 「…………全身がモコモコで、羊みだいだっだなぁ……」


 「…………皆、後で師匠にちゃんと謝ろうね……」


 「「はい……」」


 こうして、真緒達による覗き作戦は見事、失敗に終わったのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム) 目を覚ますとそこは石畳の町だった 異世界の中世ヨーロッパの街並み 僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた 案の定この世界はステータスのある世界 村スキルというもの以外は平凡なステータス 終わったと思ったら村スキルがスタートする

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界で一番の紳士たれ!

だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。 リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。 リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。 異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...