笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第八章 冒険編 血の繋がり

ゴルガ VS ジョージ

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 エレットがマクラノと戦っている中、リーマとフォルスの方ではゴルガとジョージが対峙していた。



 「ゴルガさん……」



 「どうして助けた?」



 「マオウサマニメイジラレタ。ナカマヲ、マモリキレト……ソレニキサマラノコトハ、キライジャナイ」



 「そうか……何はともあれ助かった。礼を言うぞ」



 「キニスルナ」



 助けられた二人がゴルガに感謝している一方で、ジョージは突然目の前に巨大なゴーレムが現れた事に驚きを隠せない様子だった。



 「…………“ウインド”」



 が、直ぐ様落ち着きを取り戻し、魔法を唱えた。そして間髪入れずにゴルガ目掛けて口から鋭い風の刃を飛ばした。



 しかし先程と結果は同じ。飛ばされた刃は“カツンカツン”と、硬い物に当たった時の様な音を立てるだけで終わった。ゴルガの硬い体を傷付ける事は出来なかった。



 「ムダダ」



 「……まぁ、そうだよね。僅かな望みに賭けたけど、私の魔力じゃ擦り傷一つ当てられない」



 「ナラオトナシク、コウサンスルンダナ」



 ゴルガの言葉に腕組みしながら考え込むジョージ。首を上下させながら、必死に悩んでいる様子だった。



 するとその時、突然ゴルガがリーマとフォルスに覆い被さる様に両手を広げて来た。



 「ゴルガさん!?」



 「な、何してるんだ!!?」



 「ウゴクナ……」



 突然の奇行に困惑する二人。だが次の瞬間、ゴルガの体から“カツンカツンカツン”と、ついさっき聞いた刃が硬い物に当たった時の音と全く同じ音が聞こえて来た。



 「い、今のってまさか……」



 「ドウヤラ、ショウネガクサッテイルヨウダナ」



 「失敗か……どうやら反射神経は良いみたいだね」



 そう、ジョージは悩む振りをして首が下を向いた時に魔法を唱え、上を向いた時に放っていた。空中に放たれた風の刃はある程度進んだ後、重力に従って放物線を描く様に落下した。そしてその落下地点には丁度リーマとフォルスがいたのだ。



 つまりゴルガに勝てないと悟ったジョージは、後ろの二人に狙いを定めたのだ。



 「前々から不思議でならなかった。何故魔法使いはわざわざ大声で魔法を唱えるんだ? 別に威力が上がる訳じゃあるまい。寧ろ、相手にこれから魔法を放つぞと教えている様な物だ。それなら聞こえない様に小声で唱えた方が利口だ」



 「ゴタクハイイ、コンドハコチラカラ、イカセテモラウゾ」



 そう言うとゴルガは両拳を振り上げ、そのまま勢い良く地面に向かって振り下ろした。



 巨大な拳が地面に叩き付けられた事で周囲に地響きが起こる。やがて叩いた部分にヒビが入った。するとゴルガはヒビの間に指を突っ込み、地面をまるごと抉り取った。



 「ま、まさか……」



 「ウォオオオオオ!!!」



 「っ!!!」



 ジョージがこれから起こる事に危惧していると、ゴルガは抉り取った地面をそのままジョージ目掛けて投げ飛ばした。



 迫り来る土の塊を見て避けられないと考えたジョージは、魔法を唱えると口から今までの中で一番威力のある風属性魔法を放った。



 ぶつかり合う土の塊と魔法。少しずつ塊の勢いが弱まり、遂にはジョージの目の前で地面に落下した。



 「はぁ……はぁ……はぁ……」



 何とかぶつからずには済んだが、大量にMPを消費してしまった為、疲労は計り知れない物だった。自然と息が荒くなってしまう。



 「……地面を投げるとは……常識の無い人ですね……」



 「キサマニイワレタクナイ。ドクナドトイウ、ジョウシキカラハズレタテヲツカウ、キサマニハナ」



 「ははは、毒は私のアイデンティティーだからね。それに地面を投げ付ける奴より常識はあると思うけど……な!!」



 「!!!」



 笑って誤魔化すジョージ。その話の途中で懐からナイフを取り出すと、再びリーマとフォルス目掛けて投げ付ける。



 「サセルカ!!」



 しかし、咄嗟にゴルガが間に割り込んだ事でリーマとフォルスにはナイフが刺さらずに済んだ。



 「ゴルガさん、ありがとうございます」



 「こう何度も助けられては、面目丸潰れだな」



 「ドクデウゴケナインダ。シカタガナイ。ソレヨリモ……ズイブント、ナサケナイタタカイヲスルンダナ」



 「な、何だと!?」



 情けないというゴルガの挑発に、初めて感情を剥き出しにするジョージ。



 「(落ち着け……冷静になるんだ……あんなゴーレムの言う事をまともに聞くなんて、どうかしている。落ち着け……落ち着け……)」



 しかしそこをグッと抑え、冷静さを取り戻す。そして懐から毒の小瓶とはまた違う形の小瓶を取り出した。



 「確かに君はゴーレムで、毒なんかは効かないだろうね。つまり毒を扱う私にとっては最大の天敵とも言える……けど……」



 するとジョージは、目の前に落ちていた土の塊を蹴り飛ばし、その一部である土塊をゴルガ目掛けて飛び散らせる。



 当然、ゴルガは当たる前に片腕を振るい、難なく消し飛ばした。



 「これならどうかな!!?」



 「ッ!!?」



 が、その巨大な腕の影に隠れて移動していたジョージが持っていた小瓶の中の液体をゴルガに掛けた。



 「それは鉱物を溶かす特別な液体さ!! 毒を扱うんだ、これ位の用意は当然だろう?」



 「これは不味いぞ……」



 「そんな……ゴルガさん!!」



 「…………」



 ジョージの言う通り、液体が掛かった部分から鉱物が溶ける音が聞こえ始めた。



 「私はきっと負けるだろう。だが、只では負けない!! 君も一緒に道連れだ!! 仲間に最後の別れでも言うんだな!! あはっ、ははははは!!!」



 「……」



 「ははははっ…………!!!」



 予告通り、ジョージは負けた。高笑いしている最中、ゴルガの巨大な腕がジョージ目掛けて振るわれ、まるで紙屑を飛ばすかの如く、勢い良く吹き飛ばされた。



 吹き飛ばされた先を見ると、体はボロボロ、歯も何本か折れてしまっていた。しかし奇跡的に息はしており、死んではいなかった。



 「ゴルガさん!! 大丈夫ですか!!?」



 「ムゥ……マサカ、アノヨウナモノニ、オクレヲトッテシマウトハ……マダマダシュギョウガタリナイカ……」



 「そんな事を言ってる場合か!! 早くその液体を拭き取らないと……」



 自分達が助かった事より、尚も溶け続けているゴルガの事を心配するリーマとフォルス。すると……。



          ボゴッ!!



 ゴルガは自身の液体が掛かった部分を無理矢理取り外し、遠くへと投げ捨てた。それにより、溶ける現象は止まった。



 「コレデダイジョウブダ」



 「「…………」」



 ゴーレムだからこそ出来る荒業に、リーマとフォルスは開いた口が塞がらない思いであった。



 「な、何はともかく助けてくれてありがとうございます」



 「ブジデナニヨリダ」



 「助かったは良いが……このまま動けないのは不味いぞ……」



 「あっ……そうですね……いったいどうしたら……」



 二人の心配を他所に、ゴルガは吹き飛ばされたジョージの下に歩み寄る。そして持ち上げると、二人の前まで持って来た。



 「ドクヲアツカウンダ。ゲドクノクスリクライ、モッテイルダロウ」



 「た、確かに!!」



 「凄いですゴルガさん!! 本当にゴルガさんなんですか!?」



 あまりの知的ぶりに、もしかして偽物ではないかと疑われてしまう程であった。



 「ココニクルマエニ、エレットニイワレテナ」



 「あっ、エレットさんに……やっぱりそうですよね……」



 「まぁ、そんな事だろうとは思ってはいたがな」



 エレットによる入れ知恵だと分かり、何故かホッとするリーマとフォルス



 「よし、早い所探してマオ達と合流しよう」



 「そうですね」



 そうしてリーマとフォルスは、ジョージの体から解毒薬を見つけ出し、真緒達の下へと向かうのであった。







***







 「……う、うーん……」



 「やっと目が覚めた様だね」



 気が付くと、体をロープできつく縛られていたマクラノ。隣では同じ様にロープできつく縛られているジョージがいた。どうやら先に気が付いていたらしい。



 「……何だい、あんたも負けちまったのか?」



 「あはは、やっぱりゴーレムは強いね。私の毒がまるで歯が立たなかったよ」



 「それで? どうしてあたし達は生きてるんだい?」



 負けた筈の自分達がまだ生きている事に疑問を抱くマクラノ。だが、その答えはすぐ目の前にあった。目の前には、自由に動ける様になった真緒達四人とエレット、ゴルガがいた。



 「……成る程、あんたの仕業かい……マオ……」



 「マクラノおばさん……」



 「やめな!! あたしはあんたのおばさんなんかじゃない!! この一年間、ずっと騙して来たヘッラアーデの親衛隊だよ!! さぁ、殺すならさっさと殺しな!!」



 「まぁまぁ、そう邪険にしなくても……何か聞きたい事があって生かしているんだろう? 私達が答えられる事には何でも答えてやろう、言ってごらん?」



 真緒を目の前に敵対心を剥き出しに睨み付けるマクラノと、物腰を低くして興奮するマクラノを宥めるジョージ。



 「聞きたい事は只一つです。二人は……」



 何かを聞こうとする真緒。しかし途中で言葉が詰まってしまう。聞くべきか、聞かない方が良いのか、ここに来て悩んでしまっていた。



 「何だい!!? ハッキリ言いな!!」



 「落ち着いて落ち着いて。そう怒鳴ったら、言えるものも言えなくなってしまうよ。さぁ、マオ……ゆっくりで良い、言ってごらん?」



 ジョージに優しく後押しされた事で決心が付いた真緒は、今までずっと聞きたかった事を問い掛ける事が出来た。



 「二人は……私の事が……本当に嫌い……でしたか……?」



 「…………」



 「何言ってるんだいマオ、嫌いな訳が無いだろう? 本当はこんな事、したくは無かった!! でもヘッラアーデを裏切ったら、どんな事をされるか……だから仕方無く……」



 鼻をすすり、涙を流すジョージ。対してマクラノはじっと真緒の目を見つめていた。



 「マクラノおばさんは?」



 「…………」



 「勿論、マクラノもマオの事を愛しているよ!! じゃなかったら、一年間一緒に過ごせる訳が無いからね!!」



 「ジョージおじさんには聞いてません!!」



 「えっ、いや、でも……」



 「黙ってて下さい!!」



 「わ、分かったよ……」



 「おばさん……私はおばさんの本音が聞きたい……」



 黙るマクラノに代わってジョージが代弁するも、真緒に黙れと言われてしまった。仕方が無いので大人しく黙っていると、マクラノが静かに口を開いた。



 「…………嫌いだ」



 「!!?」



 「そっか……そうだよね……」



 マクラノが出した返答に驚きの表情を浮かべるジョージ。対して真緒はやっぱりという表情を浮かべていた。



 「毎日毎日……笑顔を振り撒いて……本当は涙脆い癖に……人間と魔族の友好関係を結ぶ為とはいえ、慣れない仕事を無理に引き受けたりして……そのせいで風邪を引いたり……要らないって言っているのに、日頃の感謝だと言って肩叩きして……そんなあんたの寝顔を見ると妙に愛おしくて……そんな一年、毎日が楽しくて楽しくて……気が休まる日なんて一日も無かった……だからあんたの事は嫌いだよ……マオ……」



 「マクラノおばさん……うぅ……」



 涙目になっている真緒。よく見ると、周りの仲間達も涙目になっていた。あのゴルガでさえ、少し涙ぐんでいた。



 「マオ……あたしは……がぁっ!!?」



 「マクラノおばさん!!?」



 「「「「「!!?」」」」」



 その時、突然マクラノの胸からナイフが突き出た。



 「あ、あんた……どうして……?」



 その背後にいたのは、ロープで縛られていた筈のジョージだった。



 「なっ、いつの間に!!?」



 「毒の入った瓶を全て取り除いて油断したな。実は奥歯の一部がロープや手錠等の拘束具を溶かす毒が仕込んであったんだよ」



 見ると、ジョージがいた場所には溶けたロープと取り外したであろう奥歯が一本転がっていた。



 「それにしても……マクラノ……君にはガッカリだよ……」



 「ぐふっ!!!」



 「私と同じ情に流す作戦で来てくれると思ったら……何で君の方が感情移入してる訳? 私はね、そう言うのが一番嫌いなんだよ!!」



 「あぁああああ!!!」



 そう言いながらジョージは、突き刺したナイフを更に深く突き刺した。



 「こいつ!!」



 エレットが素早く背後に回り、ジョージの顔面を殴り飛ばし、その場から無理矢理離れさせた。が、その拍子に突き刺していたナイフも抜けてしまい、勢い良く出血してしまう。



 「そんな!! 早く止血しないと!!」



 「あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」



 真緒達が必死に止血する中、殴り飛ばされたジョージは、可笑しくなったのか、気持ち悪い高笑いをし始めた。そして抜いたナイフを首筋に当てる。



 「どうせ死ぬんだ。マオ、君には一生のトラウマを植え付けて上げよう」



 そう言うとジョージは、当てていたナイフを突き刺し、そのまま絶命した。唯一の誤算は、その光景を真緒は一切見ていなかった。マクラノの止血に忙しかったのだ。



 「マクラノおばさん、死なないで!!」



 「……泣くんじゃ……ないよ……あたしはね……泣き虫は……大嫌いだ……昔の自分を見てるみたいで……だからお願いだよ……最後くらい、笑顔で送っておくれ……」



 「…………はい、分かりました」



 マクラノの最後の願い。真緒は精一杯の笑顔を見せた。涙で顔はぐちゃぐちゃだが、それでも満面の良い笑顔だった。



 「…………」



 「おやすみなさい……マクラノおばさん……」



 そしてマクラノは静かに息を引き取った。
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