お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 最後に殻を破って出てきたおチビちゃんは、コロコロと自分から転がって、まるまると太っていて、羽毛はまだ生えているようで生えていない。
 まるで、大型犬の子供がそこにいるような感じで。
 とても愛くるしくてこれを愛でないというのは、本当にもったいないとしか、言いようがない。
 ただ一つ犬の子供と違う点は、母親の高温に達したドラゴンブレスを受けても平気なところ。
 金属のヤスリのようにザリザリとしたその舌先でなめられても、平然としているところだ。

 さすがにあの舌先で舐められたら、私の頬は、血で染まる事だろう。
 紅の体毛、緑の瞳。
 炎龍とも種族の端に連なるレジーは、大森林の緑を集めたようなその瞳で、じろっと私に視線を移す。
 もう触ってもいいよ、とそんな合図らしい。
 ゴロンゴロンと寝転がりながら、同じ場所をぐるぐる回っている子供に、そっと手を差し伸べる。
 気をつけないと、その口でパクンっと手を噛まれてしまうから、慎重に幼竜に触れてみた。
 
「暖かい‥‥‥。この子、珍しく青いのね」
「フっ」

 そうだ、と言うかのようにレジーが鼻を鳴らす。
 これまで彼女が産んできた幼竜たちは、どれもだいたいオレンジ色か朱色のまんなか。ときたま土色の羽毛で生まれてくる子供もいる。
 だけど、こんな空の青のように真っ青な子供を見たことはなかった。
 父親の血統が初めて色濃く出たということだろうか。
 私は、簡易的な柵で間仕切りのされた隣の房をそっと見やる。
 そこにはレジーの夫である、飛竜の雄がいた。
 彼の名をフィン、という。

 フィンはレジーがどこからか連れてきた夫で、彼のことを私たちはよく知らない。
 私たち‥‥‥竜を操り、大陸の他の国から新参者と呼ばれる、新興のフィラー帝国。
 それが、我が祖国にして、私の祖母が統治するこの国の名前。
 帝国はひい御爺様が興し、まだ歴史は百年少しと浅い。
 周囲には歴史の古いテイラー王国や、我が国と王国を呑み込んで大陸統一を目指すボッソ公国も存在する。
 そんなことを考えてしまったら、途端に現実に引き戻された。

「あーもう、お前たちは可愛いねえー。本当に可愛い」
「お嬢様。皇后陛下がお呼びです」
「……そう」

 声の抑揚が下がる。
 私の口調が変わったことにレジーが反応する。
 妻の反応を見て、夫のフィンもまた、こちらは心配そうに見下ろしていた。
 大丈夫だからね、と竜たちに返事をする。
 おばあ様からの呼び出し。
 それは私にとって分かっていたことだけれども、現実になって欲しくなかったこと。

 どうやら、レジーの子供たちに触れ合える機会は、今日で最後みたい。
 またね、と竜たちに声を掛けてから、竜舎を後にする。
 寂しそうに喉を鳴らす彼女たちには、もしかしたらこれが最後の別れになると分かっていたのかもしれなかった。
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