お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 それから四日後のことだった。
 陛下が私の自室を訪れたのは。
 ‥‥‥と、いうよりは与えらえている王宮の離れの一角。
 そこに用意された離宮が私と帝国からついてきた家臣たち、王国で雇い入れた貴族や商人の娘たちが侍女として住み込んで働く屋敷がそこにある。
 西の方角にある三階建ての古風な佇まい。
 帝国の紋章である水竜を象った意匠が入り口に施されており、水央宮なんて陰気臭い名前で呼ばれるそこに、私の私室は用意されていた。

「……いきなり今から来るなんて何考えてるの」
「奥様、そのような発言」
「ああ、もう。お前はいちいちうるさいの。それより――」

 つい二時間ほど前。
 味は薄味だけど素材と調理方法は悪くない、王国風の食事を食べるのが、ここ最近の息抜きになっていたのに。
 朝食を食べている最中に陛下の使者が訪れた。
 昼前にこちらにお起こしになると言う。
 寝所に来るなら夜でしょう? と、使者を問いただしたくなったけどそれはやめた。
 この後、うつらうつらしながら与えられた公務に挑まなければならないのに。
 帝国と違い、王国では側妃ともなれば公式行事だの、その身分に与えられた領地や国内の祭事に関して、あれやこれやと学ぶことが多い。
 身分のあるものはのんびりするのが仕事ではなくて。
 この王国においては誰しもが働かなければならないと言う。

「帝国だったら、皇族であることが仕事だったのに。まあ、いいわ。この隈を何とかしてちょうだい」
「最近、不眠でしたからね。どうしましょうか」

 と、イリヤとは別の侍女があらあら、と声を上げる。
 あの年下の侍女はこういった時に使い物にならない。やっぱり、身の回りに置く者は、少しでも年上の人が好いのかもしれない。

「どうにかしなさい。もう、陛下は気分屋過ぎるのよ!」

 私はここ数日間、あの問題をずっと抱えたまま悶々と寝れない夜を過ごしていた。


「何? 妻にそう言えと言われたか」
「ええ。そうです、ね。どうお伝えすれば良いかと」

 この数日間、そのことで悩み疲続けて、眠れない夜を過ごしました。
 ‥‥‥なんて言葉、口が裂けても言えるわけがない。
 なるべく当たり障りのない言葉を選んでそう伝えると、初めて二人で顔を合わせたヴィルス様は豪快に笑っていらした。

「気にすることはない。あれは嫉妬深い。妬いているだけだ」
「ですが、その。大変、ご心配為されておりました」

 心配なってしているわけがない。
 あの食事会での会話。
 二時間ぐらい続いたその間、王妃様はずっと愚痴ばかりを並べておられたのだから。
 延々をそれを聞かせれる身にもなって欲しい。

「うん。そうだな‥‥‥あれの身のまわりを世話する者は、よく辞める」
「辞める? 病んでいたたまれなくなるの間違いではございませんか」

 食事会から四日間。
 その間、心の中に積もりに積もった不満を口にしたのは、我ながら迂闊だったと思う。
 陛下は目を丸くされていたし、後ろに立つ近衛騎士の方々は微妙な笑顔をこちらに見せていた。
 帝都の城の中では、いろんなことに遠慮する必要なんかなくて。
 竜たちと気ままに過ごしていた日々が懐かしい。

 この王宮の中は、のんびりと生きてきた私にとってまるで牢獄に近い場所。
 陛下とお姫様の間をいったりきたりさされる伝令のように遣われるなんてまだ、心を病んだら職を辞せる小間使い達の方が自由があっていいな、と思ってしまうほどだ。
 

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