お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 招待された当日。
 約束の時間よりほんの少し遅れて私は王妃の部屋を訪れた。
 本当なら約束通りに行かなければいけないじゃない?
 でもこの国ではこうすることが正しいらしくて。

 時間通りに物事を運ぶというのは余裕がないとみなされるそう。
 何事も時間厳守で予定通りに物事を進めなければ認められなかった母国と違い、王国のこんなのんびりしたところは、意外にも私にとってありがたいものだった。

「……時間通りに来るかと思ったのに」
「少しばかり遅れて行くようにと、習いましたので」
「ああ、そう」

 つまらなさそうに王妃様はそう言われた。
 敵なのか味方なのかよくわからない。
 もし、時間通りに来ていたら、礼儀も知らない無作法者として、王宮のなかで笑いの種にされたのは間違いないだろうと思う。
 そんな風にして貶めないと、第一夫人としての格というか。
 正妻と愛人との区別、差別を誇示することで、王国は公国を重要視していると周りに見せることができる。
 私としてはそんなつまらない事よりもっと仲良くしたいのだけれど。
 まあ、それにはしばらく時間がかかるようだった。

「陛下がお戻りになられたのはご存知?」
「あ。いいえ」
「まあ知らなくても無理はないわ。お忍びで出かけておられたから」
「お忍び、ですか」

 それはつまり、他に女性がいるということだろうか。
 王様なのだから、それは自由にされていいと思うのだけれど。
 嫁いで来た身としては、ちゃんと成すことをして欲しいという思いもある。
 このままでは、私がやってきた意味がないままに、国に戻されてしまうではないですか。

「女じゃないと思うの。でもなんだかよくわからない」
「はあ」
「私には警戒して話してくれないのよ」
「王妃様は陛下とその――」
「そういった中になることもよくあるけど。訊かなくてもわかるでしょ」

 まだ彼女たちの間に子供が出来ていない。
 あちらはあちらでそれなりの焦りがあるようで。
 本日呼び出された要件。
 それは、私に陛下がお忍びでどこに出かけていたのかを、調べろとそういう命令。
 もう少し噛み砕いて言うと、数日内には‥‥‥陛下が私の寝所を訪れることを暗に示していた。

「王妃様の御命令を、帝国から来たこの女に命じる、と?」
「どっちでもいいじゃない。王国も、帝国も、公国も。私には関係ないわ」
「は‥‥‥?」

 この返事には面食らってしまった。
 だって彼女、母国のことをあれだけ意識しているような発言と雰囲気を醸し出していたのに。
 突然の発言に、なにごと? と頭のなかが靄に包まれたようになる。

「ここに来て何年も時間が経過したら、愛だって冷めるわよ。あなたも覚悟することね」
「いえ、覚悟って。王妃様?」

 こちらとしては敵視されているから用心しようと思っていたのに。
 こうもあっさりと警戒を解かれた上に、気にしてないって発現されてもねえ。
 それはそれでとても困るのですよ。
 あと一年の間に子供が出来なかったら私は、次に選ばれてくる女性に彼女のように冷たく当たるのかと思うと、なんだかとても虚しくなってしまった。 

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