お飾りの側妃となりまして

秋津冴

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 私のことを引き合いに出さず、ただ黙ってそこに立ち。
 今回の一件が落着するまで静かにしてるなら、失態の数々も見過ごしてあげようと思ったのに。

「愚かな男ね、竜騎士ガルド。あなたは私を利用して、この港を竜から解放した、という手柄を持ち、そのまま帝国に戻るべきなのよ。そんなことも考えが及ばないなんて」
「王妃様、どういたしますか。話は帝国の中でつけていただければと思うのですが、彼らを偽物と断定して捕まえますか」
「そうね。どうしようかしら。でもその前に……」

 怒りで顔面が紅潮し、どす黒くなりかけている竜騎士の指南役に背を向ける。
 彼より竜だ。

 船主からそう遠くない距離に竜がいる。三頭。いや四頭。
 生まれたばかりの小さなオチビちゃんが、母親の背中に必死にしがみついているのが見える。

「竜の子供がいるみたい。ヘタに近づいたら、炎でこの船なんか燃やし尽くされてしまう」
「子供! そんなバカな!」
「本当よ、ガルド。あなたも竜騎士を名乗るなら、それはどういう意味か理解できるでしょう。見てみますか?」

 彼に望遠鏡を譲る。
 ガルドは食い入るようにして、そのあぶらぎった顔を、淵にぴったりと押し付けていた。

 あとから消毒して貰おう。……次に使う船員さんが気の毒だ。

「ありえん! こんなことはありえない! あんな小さな幼竜を母親が連れて旅をするなど!」

 がばっと、彼は勢いよく望遠鏡から顔を外すと、わたしに詰め寄ってくる。

「どういうことですか!」
「それをわたしが知っていれば、こんなところまで来たりしませんよ」
「それは――そう、か。大変失礼いたしました、王妃様。つい取り乱してしまい」
「いいのよ。あなたが取り乱す理由もよくわかるから。あの子供がいる限り、竜たちは神経質になっていることでしょう」

 竜は生まれて半年程度の子供を連れて飛んだりはしない。
 巣から近ければ話は別だけど、こんな遠い土地まで飛んできたりはしない。

 ここは竜たちの土地がある西の果てからも、十分、遠い。
 レジーとフィンの間に生まれた子供たちもそう。翌年の冬まで一年近くは帝国ですごし、そして西へと向かうのがいつものこと。

「困りましたな。それではしばらくこの港閉鎖しなければならなくなる」
「いいえ、船長。その必要はないかと」
「王妃様? 何か、御考えでもございますか?」

 ございますか、とまで言われたらちょっと心苦しい。
 このまま進んでくださいとも言えないし。
 私はそばにいた竜騎士ガルドをじっと見やる。

「……何か?」
「あなたも竜騎士として名を挙げたいはず」
「は?」
「船長、ボート降ろしていただきますか。十人乗りぐらいのものがいいです」
「漕ぎ手はどうします。船のものでよろしいですか」
「そうですね。竜騎士たちと、ガルド。あとは水兵の方たちにお力添えをいただければと」

 途端、ガルドは恐怖に顔を歪める。
 彼は怒りに猛り狂った竜の暴れ方を知っているようだ。
 我を忘れた彼らの暴れっぷりは凄まじく、ひとつの白でも壊滅させてしまう程だ。

 ぶるぶると震えながら、それでも彼の心の中で、功名心が勝ったらしい。

「お、お供いたします!」
「俺たちもです、王妃様!」
「俺達も行きますよ、竜騎士だけにいい目を見せたんじゃ、水夫の名が廃る!」

 操舵室は彼らのやる気に満ちた叫び声で、一気に賑やかになった。


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