才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
115 / 178
異世界へ

0115話

しおりを挟む
 馬車は順調に進み、やがてベヒモスの骨のある場所に到着する。
 そのとき、イオが驚いたのは以前ここから出発した……数日前と比べて、明らかにおかしな状況となっていた。
 それはベヒモスの骨の周囲には多数のテントが張られており、間違いなく以前イオたち出発したときよりも人の数が増えていたのだ。

「これって……一体、何でこんなことになてるんだ?」

 イオは自分の見ている光景を見て、そう呟く。
 もしかして、ここは自分の知ってるベヒモスの骨のあった場所ではないのか? とも思ったものの、それは視線の先に存在しているベヒモスの骨がそれを否定している。

「本当にそうですね。これは一体何がどうなってそうったんでしょう?」

 イオの言葉に同意するように、レックスも呟く。
 当然だが、目の前の光景を見て驚いているのはイオとレックスだけではない。
 同じ馬車に乗っていた他の傭兵たちも、その光景を見て驚いている。
 ただし、その驚きはイオやレックスよりも少ない。
 これはイオやレックスがこの場所を出発するときにどういう場所だったのかを理解しているからこそ、ここまで驚いているのだ。
 ドレミナで待機していた者たちにしてみれば、この光景に驚くことは間違いないが、最初からこういうものだったと言われれば納得してしまう一面もある。
 この辺がイオやレックスと男たちの間にある驚きの差だろう。

(多分、ソフィアさんたちも驚いてるんだろうな)

 ここを出発するときに見た景色とは全く違う。
 イオやレックスがこうして驚いているのだから、ソフィアを始めとしたここを出発するときの光景を知っている者も驚いて当然だろうというのがイオの予想だった。

「それにしても、一体この数日で何でこんなことになったんでしょうね」

 レックスのその言葉には、イオも完全に同意だ。
 一体何があればたった数日でここまで変わるのかと、そんな風に疑問に思う。

「考えられるとすれば……向こうの山から来た連中とか?」

 ドレミナに続く街道は、イオたちが通ってきた。
 そうである以上、これだけの人数が移動していれば嫌でも分かるはずだった。
 しかし、実際にはそんなことはない。
 だとすれば、ここにいる者たちはドレミナの街道以外のどこか別の場所から来たことになる。
 そうして考えられる場所が、ベヒモスのいた山、餓狼の牙という盗賊団が拠点を構えていた山だった。

「でも……ベヒモスの件は知らなかったにしても、餓狼の牙のことは知っていたはずですよね? それに、こんなに一気に人数が増えてる理由も分かりませんし」

 レックスのその疑問、イオにとっても同様だった。
 きちんと数えた訳ではないが、大雑把に見た感じだとイオたちがここから出たときと比べると、倍くらいに人数が増えているように思える。
 正確に数えた訳ではないので、実際には違う可能性も大きいのだが。

「あ」

 と、そんな中で不意にイオやレックスと同じ馬車に乗っていた者の一人がそう呟く。
 一体何があったんだ?
 そんな疑問を視線の先に向けると、そこには馬車を降りてテントを張っている場所に向かうソフィアの姿。
 手には氷の魔槍を持ってはいるものの、その姿には特に緊張した様子はない。
 ソフィアにしてみれば、自分の部下がいる場所に向かっているだけなのだから、当然かもしれないが。
 そして……そんなソフィアの考えが決して間違っていなかったというのは、すぐに証明される。
 テント側からも、すぐに黎明の覇者の傭兵たちがやって来たのだ。
 ふぅ、と。
 そんな姿を見て、馬車に乗っていた傭兵が安堵した声がイオの耳には聞こえてきた。
 もしかしたら、何か不味いことになるかもしれないと、そう思っていたのだろう。
 だが、実際にはこうして特に問題がなかったので、安堵したらしい。
  特に表に出すようなことはしていないが、当然ながらこの場にいる者のほぼ全員がソフィアを尊敬している。
 中には尊敬どころか信奉といったようなことになっている者もいた。
 そういう者たちにしてみれば、黎明の覇者に所属している訳でもなく、あくまでも客人といった存在でしかないのに、ソフィアと普通に話しているイオの存在は妬ましいものがあったのだが……幸いなことに、イオの乗る馬車にそのような者はいない。
 いや、それは幸いという訳ではなく、ローザがその辺の事情を考えてイオとレックスをこの馬車に乗せた……というのが正しいのだが。
 そんな馬車に残った面々の思いをよそに、ソフィアは自分に向かって来た部下に対して特に緊張した様子もなく声をかける。

「どうやら問題はなかったみたいね。……いえ、これが問題と言えば問題かもしれないけど」
「すいません、団長。色々とありまして」
「でしょうね。たった数日でこんな状況になってるのは……向こうの山の方から来た人たちでしょう?」
「はい。あのベヒモスによって被害を受けて、それを討伐するために集まった人たちや、隕石が降ってきたのを見てそれを調べにきた人たちや、ドレミナに向かう商隊がベヒモスの骨を見て、それを売って欲しいという交渉にきたりとか……本当に色々とありまして」
「ああ、なるほど。少し多すぎるとは思っていたけど、一つの集団という訳じゃなかったのね。これはちょっと驚いたわ」

 そう言いつつも、ソフィアは言葉とは違ってそこまで驚いた様子はない。
 恐らくは何となく予想していたのだろう。

「多数の集団がいるのは分かったけど、それなら一体何故皆がここで野営をしているの?」
「商隊はベヒモスの素材を売って欲しいという交渉をするためですね。あと、隕石を調べに来た者たちも隕石を欲しがってます。ただ、ベヒモスの素材は団長……というか、ローザさんに聞かないとどうしようもないですし、隕石は……」

 そこで一旦言葉を止めた男は、馬車の方に視線を向ける。
 どの馬車にイオが乗ってるのかは分からないものの、ともあれ馬車にいるだろうイオが隕石の持ち主なのだ。そうである以上、ベヒモスの素材とは違って隕石の交渉はイオがやる必要がある。
 ここで問題になるのは、イオが黎明の覇者に所属する傭兵ではなく、客人であるということだろう。
 もし黎明の覇者に所属する傭兵であれば、隕石をどうするのかということの交渉はローザに任せるといった真似も出来るのだが……生憎と、今の状況ではそのような真似は無条件で出来ない。
 いや、イオとソフィア、そして実際に交渉をするローザという三者の同意があれば問題はないのだが、残念ながらこの場に残っていた傭兵たちがその辺について決められる訳もなかった。
 だからこそ、どうすればいいのかといったような困った視線をソフィアに向けるのだろう。
 ソフィアも目の前の男が何を言いたいのかは分かっていたので、素直に頷く。

「分かったわ。そっちの方はこっちでどうにかするから。私は問題ないし、ローザは……むしろ喜んで交渉をするでしょうね。そうなると残る問題はイオだけど……」

 ソフィアが見る限り、イオはそこまで交渉が得意なようには思えない。
 もしローザが自分の代わりに交渉をしてくれるのなら、それこそ望んで……多少の手数料が取られても問題はないと判断して、自分の代わりに交渉を任せるだろう。
 だからこそ、イオにもこの話は喜ばれるとソフィアは予想する。

「どうします?」

 返事を促してくる男に、ソフィアは口を開く。

「一応イオにも確認を取るけど、恐らくはイオはこっちに任せてくれるはずよ。本人はそういう交渉を決して得意としているようには見えなかったし」
「そうですね」

 男はイオのことを詳しく知っている訳ではない。
 しかし、それでも多少なりともイオと接したことのある者であれば、イオが交渉を得意としている訳ではないというのは、すぐに理解出来るだろう。
 だからこそ、男はソフィアの言葉にあっさりと頷いたのだ。

「分かって貰えたようで何よりね。それにベヒモスの素材も、私たちもそうだけど、イオにも大きな交渉権があるのは間違いないわ」

 もちろん、イオの使う流星魔法だけでベヒモスを倒したとは言わない。
 黎明の覇者に所属する傭兵たちが協力したからこそ、ベヒモスを倒せたのは事実だろう。
 だが……その辺りの状況を含めて考えても、イオがいなければベヒモスを倒すことが出来なかったというのは、間違いのない事実なのだ。
 もしイオの流星魔法がなければ、盗賊の討伐に来ていた者たちは大きな被害を受けていただろう。
 場合によっては、全滅といったことがあってもおかしくはないくらいに。
 だからこそ、ベヒモスの素材について商隊との交渉をする際にはイオからの許可も必要となる。
 ……これでソフィアがイオを利用しているような場合は、交渉にイオを関与させるような真似はしないだろう。
 しかし、イオにとっては幸運なことに、ソフィアはイオを尊重している。
 イオを……というか、イオの力を利用する気があるのは、事実だ。
 しかし、それはあくまでもイオが了承した上での話。
 もしイオが黎明の覇者と……そしてソフィアと一緒にいたくないと言えば、ソフィアは残念がりながらも別れるだろう。
 もっとも、見るからに常識に疎いイオだ。
 もし黎明の覇者と別れて一人で行動しようとしても、間違いなく騙されるか、何らかの騒動に巻き込まれたりするだろう。
 そういう意味では、やはりイオは黎明の覇者と行動を共にした方がいいのは間違いない。
 イオがこの世界の常識を学ぶまでは。
 ……そうしてイオが常識を学べば、そのときはもうイオも黎明の覇者と共に行動するのに慣れているのは間違いない。

「分かりました。その辺については団長……というか、ローザさんにお任せします。イオと話をするにも、そちらの方がいいでしょうし」

 自分が話すよりも、ソフィアやローザが話した方がイオも素直に納得出来るだろう。
 そう判断して、傭兵がそう告げる。
 ソフィアもまた、そんな傭兵の言葉は正しいだろうと判断していたので、特に反対するようなこともなく素直にその言葉に納得する。

「そちらの方は私たちに任せておいて。……それよりも、この場所をどうするのかが問題よね」

 ソフィアは多数のテントが張られている場所を見て、そう呟くのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...