才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0125輪

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 グラストと名乗った男に、イオも頭を下げる。

「イオです。よろしくお願いします」

 本来ならここで黎明の覇者に所属しているといったように言ってもよかったのかもしれないが、取りあえずそれは止めておく。
 現在のイオの立場は、あくまでも黎明の覇者の客人なのだ。
 そのような状況で黎明の覇者に所属するというのは、どうかと思ったのが大きい。
 かといって、正直に客人であるといったようなことを口にすれば、それはそれで面倒なことになるだろう。
 客人ということは、黎明の覇者と近しい関係にあると示しているようなものだが、実際にはそのような簡単な話ではない。
 場合によっては、それこそ問答無用で連れ去られる……といったようなことになってもおかしくはないのだ。
 だからこそ、イオが口にしたのは名前のみで黎明の覇者とどのような関係であるのかということには触れない。
 当然だがグラストもイオが名前だけしか名乗らず、黎明の覇者に所属するといったようなことを口にしていないのを疑問に思いはしたものの、今はまだその辺りに突っ込むようなことはしない方がいいと判断したのか、特に何も言わない。

「レックスです。イオさんの護衛を任されています」

 イオの挨拶が終わると、続けてレックスも挨拶をする。
 イオに習ってか、黎明の覇者に所属する傭兵であるとは口にしない。
 グラストはそんな二人を見て、口を開く。

「人は見た目に寄らないものだな」

 グラストにしてみればイオやレックスはそこまで強そうには思えない。
 もちろん、外見だけで全てを決める訳にはいかないものの、それでもイオが流星魔法を使えるような強力な魔法使いとは思えないのだ。
 ……もっとも、現在のイオが特化してるのはあくまでも流星魔法だけでしかないのだが。
 それ以外の魔法となれば、それこそ少しの水を出すだけと、地面に穴を開ける……いや、より正確には地面を少しへこませる程度のことしか出来ない。
 そういう意味では、グラストの認識は決して間違っていないのだ。

「よく言われます。ただ、だからこそこっちを侮る相手がいるんですよね」

 自分の外見がとても強そうに見えないのは、イオも知っている。
 そんなイオにしてみれば、自分を侮ってくれる相手はむしろ戦いやすい相手なのは間違いなかった。
 しかし、グラストの様子からは自分を見て驚く様子はあれども、侮る様子がない。
 それはグラストだけではなく、他の騎士たちも同様だった。
 もちろん、中にはイオに訝しげな視線を向ける者もいるが、それでも侮りの視線は存在しない。

「さて、自己紹介はこれでいいわね。それで……交渉に来たという話だけど」

 イオやレックスの自己紹介が終わったと判断したのだろう。
 ソフィアがグラストを含めた騎士たちにそう告げる。
 だが、イオはそんなソフィアの様子を見てふと疑問を抱く。
 あれだけのことがあったのに、何故ソフィアの口調に敵意の類がないのだ。
 ドレミナの領主がやったことを思えば、敵意を抱かないという選択肢はないはずだ。
 なのに、何故かソフィアは普段通り……というのは少し大袈裟かもしれないが、特に怒ったりしている様子はない。
 何故だ?
 そんな疑問を抱き、ローザやギュンターといったこの場にいる面々に視線を向けるイオだったが、そちらも特に怒った様子はない。
 もちろん、交渉の中で怒るといった真似をすれば相手に付け入られることになる。
 そういう意味では、ここで怒った様子を見せないというのは、ある意味で当然のことなのかもしれないが……それでも今の状況を思えば、やはり疑問が残る。
 そんなイオの疑問は、次の瞬間には解決した。

「先程も言ったが、イオたちが来たので改めて言おう。ドレミナの領主ダーロット様は、黎明の覇者に対して敵対する意思はない。私たちは、誤解を解くための使者だ」

 誤解? とイオは疑問を抱く。
 英雄の宴亭から出たイオたち……より正確には黎明の覇者に対して、あそこまで強硬な手段に出たのだ。
 結果的に力の差を思い知らせたことで、大規模な衝突こそなかったものの……黎明の覇者に敵対していたのは明らかだった。
 ましてや、戦いが中途半端な状態で終わってドレミナから出た黎明の覇者を、追撃……いや、攻撃をしてこなかったので、正確には追跡してくるといったような真似すらした。
 そのような相手から敵対する意思がないと言われて、それで納得しろという方が無理だろう。
 イオはそう思ったのだが……

(あれ? そうでもないのか?)

 ソフィアたちは、そんな騎士の言葉を聞いても特に憤りを覚えたり、納得出来ないといった表情を浮かべている様子はない。
 イオの側にいるレックスはソフィアたちとは違い、騎士たちの言葉に納得出来ないといった表情を浮かべていたが。

「そう、誤解ね。私たちは傭兵団。昨日の敵は今日の友、今日の敵は明日の友であってもおかしくはないわ」

 傭兵団というのは、敵対した相手と味方になったり、味方だった相手と敵対するというのは珍しい話ではない。
 そういう意味では、仕事は仕事ときっちり切り分けられる。
 しかし……中にはそれ理解出来ず、あるいは理解出来ても納得出来ない者もいる。
 たとえば、とある戦場で自分の指を切断したり、眼球を傷付けられて片目が見えなくなった傭兵が、それをやった相手とすぐにでも同じ陣営で戦えるのかと言われれば、難しいだろう。
 中には私怨から味方になったはずの相手を攻撃するといったような真似をしてもおかしくはない。
 とはいえ、幸いなことに黎明の覇者にそのような傭兵はいなかったし、何よりも騎士団との戦いでそのような被害を受けたりはしていない。
 ……むしろ、騎士団側の方がイオのメテオによって多かれ少なかれ被害を受けたのだ。
 それを考えれば、向こうの方から今のように誤解だったと言ってくるのはソフィアにとっては悪い話ではない。

「そう言って貰えると助かる。……さて、本題に入るが、ドレミナで騎士団が黎明の覇者を襲った件について、ダーロット様は何も関与していない。ダーロット様の部下の一人が他の貴族と繋がりがあり、その者がダーロット様に情報を報告していなかったのが原因だ」
「……それを信じろと?」

 グラストの言葉を聞いたソフィアは、あからさまにその言葉を信じていないといった様子で告げる。
 ダーロットの性格を知っているソフィアにしてみれば、あのような真似をして実はダーロットは何も知らず、部下の暴走でしたと言われて素直に信じるような真似が出来るはずもない。
 それはソフィアと同じくダーロットに口説かれた……というよりも言い寄られた経験のあるローザにしても同じことだ。
 グラストはそんな二人の様子を見て、自分の主の普段の行動を呪う。

(ダーロット様は優秀だ。それは間違いないが、普段の行いに問題がある)

 もちろん、無能で普段の行いに問題のある貴族よりはダーロットの方が主としては相応しい。
 それは事実だが、それでもこうして何か問題があったときにその普段の行いの影響で面倒なことになるというのは……実際に交渉をする者にしてみれば、嬉しいことではないのは間違いなかった。

「ダーロット様の行動に思うところがあるのは分かる。しかし、今回の件にかんしては誓ってダーロット様が裏で糸を引いているといったことはない。これは間違いのない事実だ」

 そう断言するグラストの様子を見れば、もしかしたらそれが本当なのではないか? と思わないでもない。

「もしその話が本当だったとして……部下のそんな行動に気が付かなかったのは、上の責任でもあるでしょう?」

 ソフィアが冷静な……いっそ冷たいと評してもおかしくはない口調で、そう告げる。
 傭兵同士が昨日の敵は今日の友、昨日の友は今日の敵といったようなことがあるとはいえ、グラストたちは傭兵ではない。
 騎士である以上、傭兵の流儀は通用しない。
 それだけではなく、部下が自分勝手に動いていたことに全く気が付かなかったというのも、ソフィアたちを呆れさせる一因になっているのは間違いない。

「それは間違いない。だが、ダーロット様にとっても、まさか今回のような一件を部下が起こすとは、予想外だったのだ。それはどうか理解して欲しい」

 グスタフもこの点は必死だ。
 何しろもしここで話が決裂し、ドレミナが完全に黎明の覇者の敵になった場合、いつ隕石が落とされるか分からないのだ。
 ここに来る途中……正確にはドレミナからそう離れていない場所で、グスタフはイオがメテオを使った場所を見てきた。
 地面が破壊され、巨大な隕石が埋まっている光景を見れば、その隕石が落ちてきた時にどれだけの衝撃があったのかは、考えるまでもなく明らかだ。
 もしメテオがドレミナに使われた、どうなるか。
 それを想像するのは考えるまでもないし、想像しただけで背筋が冷たくなる。
 だからこそ、今の状況で何とかしてここの状況を打破する必要があった。

「それを理解したいとして、私たちに一体何を望むのかしら?」
「和平を」

 端的な言葉ではあるが、グスタフがそれを心から望んでいるのは明らかだ。
 しかし黎明の覇者が受けた対応を思えば、素直にその言葉を信じることが出来ないのも事実。
 ソフィアの頭の中では、ドレミナの領主のダーロットが実は本気で部下を暴走を見逃していた……といったようには考えていない。
 もしちょっかいを出して、上手い具合にイオやソフィア、ローザといった目当ての者たちを捕らえることが出来れば、それはそれで問題ないと考えていたのではないかとすら思う。
 実際にはそれはダーロットの能力を買い被ってそのように思っているのだが。
 下手にダーロットが領主として有能であり……それとプラスしてソフィアやローザに言い寄るといった真似をしていたので、悪感情を抱いていたのがソフィアの判断に関係していたのは間違いない。

「和平、ね。……こっちは一方的にそちらに襲われたのよ? それを考えると、和平と言われてもそのまま何もなしに和平というのは少し難しいわね」
「そうね。少なくても相応の賠償金の類は必要でしょうね」

 ソフィアの言葉に、ローザはそう同意するのだった。
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