才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0126話

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 ローザの口から出た、相応の賠償金という言葉。
 それを聞いたグラストは、難しい表情を浮かべる。
 自分たちに非がある以上、何の条件もなしで和平を結びたいというのは難しいと思っていた。
 これがあるいは黎明の覇者のようなランクA傭兵団ではなく、もっと格下の傭兵団であればグラストもそこまで気を遣う必要はない。
 だが、この場合は相手が悪い。
 黎明の覇者だけでも厄介な相手なのは間違いないが、それにプラスして流星魔法を使うイオもいるのだ。
 そのような相手と敵対したままというのは、ドレミナにとって非常に不味い。
 なあなあといった感じで自然に戦いを終わらせるという形にすることも可能だが、ドレミナの領主ダーロットからは、どうにかして正式に敵対関係を終わらせて手打ちにするようにと言われていた。
 もし正式に敵対関係を終わらせない場合、それこそいつ隕石がドレミナに降ってきてもおかしくはない。
 普通ならそのようなことはやらないが、それはつまり普通ではない状況でならドレミナに隕石を降らせるといった真似をしてもおかしくはないということになるのだ。
 その辺りの状況を考えると、ここはどうにかして手打ちにするべきだった。
 それこそ、ローザが口にしたように賠償金を支払うといった真似をしても。

「賠償金を目的にしているということだが、どれだけの金額を希望するのだ?」

 グラストは率直に尋ねる。
 元々グラストは騎士であって役人ではない。
 交渉の類は決して得意なものではないのだ。
 であれば、率直に賠償金を支払えばいいのかと、そう聞くのは当然だった。
 ダーロットからは、確実に和平を結ぶようにと言われていたのも大きい。
 多少の資金的な損失はこの際仕方がないと考えるのは当然の話だろう。

「賠償金という名前だけど、実際には金ではなくてもいいと思うけど?」
「……それでは、一体何を欲する?」
「私がダーロッド様と話したとき、面白い話を聞いたわ」

 普段はダーロットと呼び捨てにしてるローザだが、さすがにダーロットに使えているグラストの前では呼び捨てに出来なかったのだろう。

「面白い話……?」

 ローザの口から出た言葉に、グラストは嫌な予感を覚える。
 ダーロットが女を口説くときに、一体どのような態度なのかは十分に知っているのだから。
 そしてグラストの嫌な予感は、次にローザが口を開いたときには当たってしまう。

「何でもダーロット様はマジックバッグを持っているとか。それもそれなりに高性能な物を複数。何も、私もその全てを寄越せとは言いません。ただ。三つ……いえ、二つほど貰えれば、それで十分です」
「ぐ……」

 ローザの要求にグラストは何も言えなくなる。
 マジックバッグは非常に希少なマジックアイテムなのは間違いない。
 それこそランクA傭兵団の黎明の覇者であっても、持てる数は限られているくらいに。
 そして貴族のダーロットもまた、当然ながらマジックバッグは使い道がいくらでもある。
 戦争のときに予備の武器や防具、薬、食料……それらを入れて移動すれば、重量や場所をとらずにすむのだから、輸送にこれほど便利なものもないだろう。
 生憎と中に入っている物は時間の流れがないといったような、本当にダンジョンから見つかるマジックバッグの中でも最上級の……アーティファクト級と呼ばれるような代物ではないにしろ、重量や収納場所を気にしないですむというだけで、便利極まりない代物だ。
 だからこそ、黎明の覇者としてはマジックバッグの類はいくらあってもいい。
 それこそ、今この場にはベヒモスの素材をどうにか処分しないといけないといったような理由もあるのだから、全てではないにしろそれを持ち運ぶことが出来るというのは非常に大きい。
 だが、グラストもその言葉には素直に頷けない。
 マジックバッグの効果を考えれば、騎士団として活動するときに重宝するのは間違いない。
 それこそ何らかの理由……それこそモンスターや盗賊の討伐、あるいはダーロットが治める領地と隣接する領主が攻めて来たとき、もしくは貴族同士の戦いではなく国同士の戦いで出撃しなければいけないとき。
 簡単に考えただけで、マジックバッグを使う機会というのはそれなりに多いのだ。
 小規模な戦いのときであればまだしも、大規模な戦いにおいてはマジックバッグの数が一つあるのかないのかでは大きく違ってくる。
 場合によっては、それによって生きるか死ぬかが決まるのだから。
 グラストは騎士であっても騎士団長という訳ではない。
 それでもマジックバッグの大切さは十分に理解していた。
 そんなマジックバッグを賠償金として寄越せと言われて、素直に頷くのは難しい。
 一応、賠償金の交渉にかんしてはグラストが大きな権限を持たされているものの、グラストに交渉をするように命令した上司が想定しているのは、賠償金という名目通り金での解決だ。
 まさかマジックバッグを要求してくるとは、思いも寄らなかっただろう。

「そちらが悪いと自分の非を認めているのなら、そのくらいはいいと思いますが?」

 ぐ、と。
 グラストはローザの言葉に反論出来なくなる。
 自分たちのミスであると認めて、こうして和平交渉をしに来たのだ。
 その上、上司から向こうの要望は可能な限り聞くようにと言われている。
 そのような状況である以上、マジックバッグを欲しいという向こうの要望には応えるべきだと分かっているのだが、それを決断出来ない。
 それはグラストだけではなく、一緒にこの交渉の席にいる他の騎士たちも同様だ。
 何としても交渉を成功させる必要があるのだが、それでも素直に頷くのは難しい。

「どうしたの? 私たちはそちらのミスで大きな被害を受けるところだったのよ? そうである以上、そのくらいの妥協をしてもいいんじゃない?」

 グラストに決断を促すように、ローザは言う。
 このような場所でなければ、ローザのような美人に言い寄られるというのは決して悪い話ではない。
 いや、むしろそのようなことになるのならどのような努力も厭うことはないだろう。
 しかし、それはあくまでもこのような場所でなければの話だ。

(どうする? この場合は、どうするのが最善なのだ? いっそ、このまま……いや、だが……)

 グラストは迷った様子を見せ……すると、そんなローザに対してソフィアが声をかける。

「ローザ、そのくらいにしておきなさい」
「ソフィア……けど、私たちが受けた行為のことを思えば、このくらいは必要でしょう?」
「ちょっと待ってくれ。黎明の覇者に敵対したのはこちらだが、だからといってそちらにそこまで被害はなかったと聞いている」

 ソフィアの口調を天の助けと、グラストは言う。
 何とかして向こうの要望を引き下げる必要があると、そう思っての言葉。
 だが、ローザはそんなグラストに呆れの視線を向ける。

「直接的な被害というだけなら、そうでしょうね。けど、忘れていない? 貴方たちはドレミナの騎士団なのよ? これが傭兵団同士での戦い……いえ、喧嘩騒ぎなら、そこまで大きな事態にはならない。けど、騎士団が直接出て来て私たちと敵対したの。その意味を理解出来る?」
「ぐ……」

 グラストはローザの言葉に何も言えなくなる。
 それはローザの言葉が間違いのない事実だったためだ。
 傭兵団同士の喧嘩なら、現在多数の傭兵が集まっているドレミナであってもそう珍しい話ではない。
 しかし、それが領主直属の騎士団を相手に正面からぶつかったのだ。
 ……せめてもの救い、あるいは不幸中の幸いだったのは、実際にはソフィアの力に驚き、本格的な戦いにはならなかったということか。
 もしこれで本格的にぶつかり、双方に多数の死者が出ていたら、理屈では和平するべきだと理解していても感情で無理だと判断した者が多かっただろう。
 そのような状況になっていないのは、ソフィアのお陰だった。
 もっともだからこそこうして交渉でマジックバッグを要求されるといったようなことになっているのだが。

「場合によっては、私たちは騎士団に……ひいてはドレミナの領主のダーロット様に敵対したと思われるのよ? 事情の説明をきちんとするのなら……ダーロット様の過失について大々的に知らせて、私たちに罪はないといったように示してくれるのなら、多少はこっちも退いてもいいけど。出来る?」
「無理だ」

 そのような真似が出来るかと聞かれ、グラストは即座にそう告げる。
 これは持って帰って相談をするといったようなことをせずとも、すぐに分かることだ。
 もしそのような真似をした場合、間違いなくダーロットの名声は地に落ちる。
 部下に利用され、それに気が付かずに傭兵団を……それもランクA傭兵団の黎明の覇者に攻撃した馬鹿と。
 それどころか、名声が地に落ちるだけではなく他の貴族から攻撃される格好の材料にもなるだろう。
 ダーロットの立場としては、当然だがそのような真似は出来ない。
 結果として、今回の一件で和平を結んだとしても、泥を被るのは黎明の覇者側となる。
 もちろん、少し聡い者であれば……あるいは事情を知っている者であれば、表向きの情報はとにかくとして真実がどのようなものなのかは理解出来ているだろう。
 しかし、それはあくまでもそのような諸々を理解出来たり、予想出来たりする者たちに限る。
 そのような事情を何も知らない者、あるいは噂で聞いた者といった者たちは表向きの発表を信じる者は多いのは明らかだった。
 そうである以上、黎明の覇者の評判に多少なりとも傷を付けるのだ。
 ただの金ではなく、マジックバッグ……それも簡単に入手出来ない高性能な物を報酬として貰いたいと思うのは、黎明の覇者の補給を担当しており、実質的な副団長であるローザとしては当然の話だった。

「どうするの? 言っておくけど、こちらは一歩も退く気はないわ」
「……それは……」
「ローザ、一歩も退く気がないというのはどうかと思うわよ? 少しは退いてあげてもいいと思うけど」
「ソフィア……?」
「そうね。マジックバッグは高性能な物を一つに、汎用的な物を一つ。それでどうかしら?」

 そう告げるソフィアに、本当にこれ以上はどうしようもないのだと判断し……グラストはソフィアの提案を受け入れるのだった。
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