才能は流星魔法

神無月 紅

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グルタス伯爵との戦い

0150話

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「ありがとうございます!」

 ローザからベヒモスの素材を受け取った男は、嬉しそうにそう告げる。
 男一人の分だけではなく、男が所属する傭兵団全員分なので、ベヒモスの素材は結構な量となっている。
 その素材は骨だけではなく、ベヒモスの肉や毛、皮膚といった部分も多い。
 それこそもしその素材をドレミナ……あるいはそれ以外の場所できちんとした値段で売り捌いた場合、その金額は一生を遊んで暮らせるほど……とまではいかないが、数年は遊んで暮らせるだけの金額になるだろう。
 遊ぶのではなく質素な生活をするのなら、働かずにすむ期間はさらに延びる。
 ……もっとも、傭兵として普段から派手に飲む、打つ、買うといった生活をしているのだ。
 大金を手に入れたとしても、思う存分豪遊してしまい、すぐに使い果たしてしまう者が多いのかもしれないが。
 とはいえ、それは報酬としてベヒモスの素材を渡しているローザにも、そして離れた場所で様子を見ているソフィアにも関係はない。
 きちんと事前の約束通り……いや、それ以上の報酬を支払っているのだから。
 そもそもの話、今こうしてベヒモスの素材を貰っている者たちは、黎明の覇者を襲撃してきた者たちだ。
 本来なら、ソフィアたちに殺されていてもおかしくはないし、降伏してきたとしても命を助けただけで温情のある措置と言われるだろう。
 そのような状況で命を助け、その上でこうしてベヒモスの素材すら渡しているのだ。
 傭兵としての常識で見た場合、ここにいる者たちを呆れの視線で見る者も多いはずだった。
 それは当然傭兵たちも気が付いているだろうが、他の者たちが今の自分たちと同じ状況になれば、恐らく同じように行動するだろうと思える。
 実際、降伏するのを潔くないと判断して徹底的に黎明の覇者と戦った傭兵団は壊滅している。
 その壊滅は文字通りの意味の壊滅で、それこそ生き残りが誰もいなくなってもおかしくはない、そんな状況だ。
 あるいは戦っても負けるだけだと判断し、かといって降伏するのはみっともなかったり、もしかしたら降伏したことによって殺されてしまうと考えた者は戦場から逃げ出した。
 こちらは結果としては徹底抗戦した者たちと比べて全滅しなかったという点で優れているとはいえ、大きな損害を受けただけで終わってしまった。
 場合によっては、ドレミナに続く街道で盗賊となった者もいたが、その場合はいつ討伐されるのかといったことに怯えなければならえない。
 それに比べると、大人しく降伏した者たちは命が保証され、その上でこうしてベヒモスの素材すらも多少ではあるが貰えたのだ。
 まさに勝ち組だろう。
 ……黎明の覇者に負けた時点で勝ち組とは呼べないのだが。
 それでも負けた者たちの中では一番マシな負け方だったのは間違いない。
 そうして全員に報酬を渡し終えると、特別に声をかけられていた者たち以外はすぐにいなくなる。
 ……中にはこの場に残された者たちのことが気になる様子の者もいたが、だからといって自分がここに残っていてもこのあとの話に噛ませて貰えるとは思っていない。
 それどころか、話を盗み聞きしようとすれば、怪しい相手ということで殺される可能性すらあった。
 そのようにならないようにするためには、やはりさっさとこの場から立ち去った方がいいのは間違いない。
 そうしてそれなりに実力があり、性格的にもそこまで問題はないということで、この場に残らされた者たち……その者たちは、当然だが大なり小なり傭兵を率いている者たちだ。
 何故自分たちがこの場に残されたのかというのは、聞かされていない。
 しかし、残るように言われたときの状況を考えると、悪い話ではないように思えた。
 そう思っていた者は多く、だからだろう。もしかしたらこの場に残されて殺されるのでは? といったような恐ろしさの類は感じていない。
 そして……事実、その考えは間違っていなかった。

「もう少し延長でベヒモスの骨の護衛を、ですか?」
「ええ。ドレミナから兵士たちが来てくれたけど、それでも貴方たちの方が護衛には慣れているでしょう?」
「慣れていると言われても、基本的にはただ骨を守るように立っていただけですけど」

 ソフィアに残された理由を聞かされたうちの一人が、少し困ったように言う。

「それでいいのよ。兵士たちはまだベヒモスの骨の護衛に慣れていないでしょうし……何より、山の向こうから来た討伐隊の中に馬鹿なことを考えている人たちがいるらしいから」
「……本当ですか……?」

 心の底から信じられないといった表情を浮かべる男。
 実際に声に出したのはその男一人だったが、話を聞いていたそれ以外の面々も男と同様の表情を浮かべている。
 黎明の覇者の強さを、そして何よりイオの使う流星魔法の恐ろしさを知っている者にとって、ベヒモスの骨にちょっかいをかけるというのは自殺行為にしか思えない。

「ええ、本当よ。どうやらベヒモスの骨を見てもその力を脅威には感じていないみたい。残念だけど」
「馬鹿ですね」

 即座にそう告げる男。
 男にしてみれば、それは自殺行為としか思えない。

「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるわ。ただ、そういう風に理解出来ない相手がいるのも事実なのよ」

 自分だけは大丈夫。
 何故かそのように思っている者はそれなりにいて、そのような相手はその根拠のない自信から無謀な――本人にしてみれば英断と思い込む――行動をする。

「だから、そういう相手の行動を兵士たちと一緒に止めて欲しいのよ」

 もし兵士たちがもっと早く……それこそドレミナとの和解の交渉のときにやって来ていたら、ドレミナに向かっていたソフィアはともかく、ローザを始めとした面々は信用出来る相手と認識されており、全面的に今回の件を任せることも出来ただろう。
 しかし、実際にはそのようなことにはならなかった。
 そうである以上、ここは信用出来る者たちを残す必要があった。
 ドレミナとの……ダーロットとのやり取りを思えば、兵士たちが妙なことをするとは思えない。
 思えないが、それはしかし絶対ではないのだ。
 そうである以上、ここは念には念を入れる必要があるのも事実。

「どう? 別途報酬は出すけど」

 そう告げるソフィアの言葉に、この場に残った者たちは全員揃って頷くのだった。





「おい、そっちのテントは置いていくことになったから、撤去しなくてもいい!」
「え? いいんですか? これ、まだそんなに古くないですよ?」
「これも報酬代わりとして置いていくとのことだ」
「ああ、なるほど。なら仕方がないですね」

 野営地において、撤収の準備は急速に進んでいた。
 元々傭兵というのは野営地を作り、撤退してといったことは珍しくない。
 その上、今回はソフィアたちが前もってグルタス伯爵との戦いに参加するので、ベヒモスの骨を護衛する兵士たちがやって来たら出来るだけすぐに移動するといったことを言っておいたので、前もって準備出来ていたのも大きい。

「その割には、俺がやるべきことはあまりないんだけど」

 研究者の女から雷を放つ魔剣を貰ったイオは、特にやるべきことはないので、細々とした手伝いをしていた。
 元々野営とかに慣れている訳ではないし、黎明の覇者という集団ならではの暗黙の了解といったものについてもそこまで詳しい訳ではない。
 そうである以上、イオが出来るのは何かやるべきことはないかと聞いて、それを行うといったくらいだったが……それでも、そう仕事は多くはない。
 現に今も、特に何もやるべき仕事はなかったのだから。

「あ、そう言えばマジックバッグに杖を入れたらどうです?」

 護衛ということで、イオの側にいたレックスが、そう声をかける。
 ダーロットとの取引によって黎明の覇者が得たマジックバッグのうち、一つ……最近ダーロットが入手して自慢していたマジックバッグではなく、騎士団が使っていたマジックバッグはイオに渡された。
 そのマジックバッグは、容量もソフィアが貰ったマジックバッグと比べるとかなり小さい。
 それでもイオが個人で使う分には、特に問題はない。
 イオはそこまで多くの持ち物がある訳でもないのだから。
 ……実際には、イオが流星魔法で落下させた隕石はイオの所有物なので、本来ならメテオを使って落下した隕石を収納出来ればいいのだが……生憎と、イオの持つマジックバッグの容量を考えるとそれは無理だ。
 ゴブリンの軍勢を倒して入手した素材や魔石、武器、防具の類は既に黎明の覇者に売ってあるので、そちらについてはイオがわざわざ考える必要はない。
 そういう訳で、イオの現在の所持品となれば、それはゴブリンの軍勢を倒したときに拾った杖となる。
 武器や防具の類は全て黎明の覇者に売ったが、杖だけは流星魔法を使うイオにとって重要なので売らず、全て預かって貰っていた。
 何しろ、今のところではあるがイオがメテオを使うと杖が砕けてしまうのだ。
 ミニメテオの場合は砕けないのは、イオにとって幸いだったのかもしれないが。
 それでも今回のように大きな戦いに出向く場合、メテオを使う機会があるかもしれない。
 それを抜きにしても、マジックバッグを入手した以上は自分の杖は自分で管理すべきだった。

「そうだな。杖はあればあっただけいいし。もっとも、ゴブリンの杖じゃなくて、普通に杖を買えばメテオで壊れる心配はないのかもしれないけど」

 そう言いながらも、イオは一体自分はいつ杖を買えるのだろうか? と少しだけ疑問に思う。
 金という点ではそれなりに持っているし、黎明の覇者の補給を担当しているローザに言えばゴブリンの素材を売却した金額を渡してくれる。
 条件としては、特に問題なく杖は購入出来るのだが。
 それでも何故か今のイオは杖を購入出来る気がしなかった。

「ドレミナに向かうんですから、そこで杖を買うというのも……いえ、そんな時間があるかどうか、微妙なところですね」
「だろうな。今回ドレミナに行くのは、あくまでもグルタス伯爵との戦いに向かドレミナ軍と合流するためだし。悠長に街中で買い物をしてる暇はないと思う」

 そう言いながら、イオは杖を受け取るべく馬車の集まっている場所に向かうのだった。
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