才能は流星魔法

神無月 紅

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グルタス伯爵との戦い

0151話

「助かるわ。イオに言うのもなんだけど、今は馬車の荷台は少しでも開けておきたいのよ」

 そう言い、ローザは笑みを浮かべる。
 黎明の覇者の補給を担当しているローザにしてみれば、水や食料、武器、防具、薬……それ以外にも色々と物資を持っていきたい。
 何かあったときのことを考えると、物資というのは多ければ多いほどにいいのだから。
 もちろん、武器や防具はともかく食料の類は多すぎると腐らせてしまう。
 そう考えれば、多すぎるのは少し問題となるが。

「いえ、いつまでも俺が使う杖を自分で持つんじゃなくて、預けておくってのもどうかと思いますし」

 自分の使う武器なら、自分で持っておくのは当然。
 そう告げるイオの言葉にローザは頷く。

「そうね。そういう風に考えられるのは悪いことじゃないわ。ただ、自分で持つことが出来ない武器を……いえ、武器に限らないけど、何でも馬車に預けるというのは悪い話じゃないのよ。それに頼りすぎるのはどうかと思うけど」

 困ったような表情を浮かべるローザ。
 そんなローザの様子を見ると、恐らくイオの杖以上に色々と馬車に荷物を預けている者がいるのだろう。

(とはいえ、そんな風になるのは当然か)

 イオが聞いた話によると、黎明の覇者には特に拠点となるような場所はないらしい。
 正確には隠れ家やいざというときのためのセーフティーハウスはあるものの、明確に住居と呼ぶべき場所はない。
 もちろん、それはあくまでも黎明の覇者としての話で、個人で何らかの拠点を持っている者はいるのだが。
 それだけに、自分の荷物は常に持ち運ぶ必要があるのも事実だった。
 だからこそ、馬車に預ける荷物が多くなってしまうのだろう。
 黎明の覇者はマジックバッグを結構持っているが、もしそれがなかった場合はもっと馬車の数が増えていてもおかしくはない。

「じゃあ、こっちに来てちょうだい。イオから預かっていた杖を返すから」

 ローザの案内に従い、一台の馬車に向かう。
 イオが驚いたのは、その馬車の位置だ。
 てっきり自分の杖なので、それこそ端の馬車に置かれていてもおかしくはないと、そう思っていたのだ。
 だが、イオが案内された馬車は中央……とまではいかずとも、それなりに中央に近い場所にある。
 それはつまり、イオから預かっている荷物を重要視していたということを意味していた。
 ……実際には、ゴブリンの軍勢から入手した杖である以上、本来ならそこまで重要視するようなものではないのだが。
 それでもこうした場所にあるということは、それだけイオを重要視しているということの証だろう。

「ちょっと入って」

 そう言い、馬車の中に入るローザ。
 イオもまたそんなローザと共に馬車の中に入るのだが、その馬車に多くの木箱が入っている。

「これ、結構凄い木箱の数ですね」
「色々と大事な物が入っていたりするから、迂闊に触ったりはしないでね」

 ローザの言葉に、イオは伸ばそうとしていた手を止める。
 その木箱を盗もうとした訳ではなく、ただ何となく触れてみたいと思っただけなのだ。
 しかし、何でもないつもりで木箱に触れたときに一体どうなるか。
 それがかなり心配だったのだ。
 大丈夫だとは思うが、もし何らかの罠があった場合、木箱に触れた瞬間に爆発するといったようなことになったらどうなるか。
 黎明の覇者の客人という立場の自分であっても、面倒なことになるのは間違いないと思えたのだ。

「はい、これと……こっちもだね。この木箱二つがイオの杖よ」

 そう言い、ローザは木箱を取り出してイオに渡し……

「ぐ……」

 ローザがあっさりと持っていたので、そんなに重くはないのだろうと思っていたイオだったが、渡された瞬間に手にかかった重量は……そう、木箱一つで三十キロくらいはある。
 米の収穫をしていた者なら馴染みのある重さだろう。
 イオの家は趣味程度の農家で米作りはしなかったものの、親戚には米作りをしている者がいる。
 秋になると米を運ぶバイトで雇われることがあり、そのバイト代はイオの趣味である漫画の購入資金となっていた。
 そういう意味では三十キロくらいの重量には馴染みのあるイオだったが、しかしそれはきちんと心構えが出来ていればの話だ。
 ローザが軽く持っていたのでそこまで重くはないと油断していたところで三十キロの木箱だ。
 その場で落としたり、尻餅をつかなかったのは反射的にそれを持つという行動が出来たためだろう。
 何とかその状況で堪えると、馬車から降ろす。
 二つある木箱のうち、片方はイオではなくローザが持っているのだが、イオのように重そうにはしていない。
 それどころか、ちょっと重い物を持つと言いたげな様子にすら見えた。

(もしかして、俺が持ってる木箱の方に杖が大量に入ってるとか?)

 馬車から降りてくるローザを見てそんな風に思ったイオだったが、すぐにそれは違うと自分で否定する。
 イオが持っている木箱もローザから渡されたのだ。
 そのとき、ローザは決して重そうにはしていなかった。
 正確には少しは重いと思っていたのかもしれないが、イオが木箱を受け取ったときと比べると、それは明らかに違う。
 だからこそ、イオは自分が重いのを持ったというのを顔に出さないようにする。
 一種の見栄なのだが、そんな見栄であってもイオにとっては必要なものだった。
 幸いにも……あるいは見て見ぬ振りをしているだけかもしれないが、ローザがそんなイオの状況に気が付いた様子はない。
 そのことにイオは安堵しつつも、木箱の蓋を開ける。

(うわ)

 声には出さずともそう思ってしまったのは、二つの木箱に入っている杖の量がどちらも同じくらいだったためだ。
 それはつまり、ローザが普通に木箱を持っていたのはイオよりも力があるということを意味していた。

「イオさん? どうしました?」

 レックスがイオの様子に気が付いたのは、護衛を任されている関係上一緒にいるためだろう。
 そんなレックスに何でもないと首を横に振りながら、木箱に入っている杖を次々にマジックバッグに収納していく。

「面白いな、これ」

 触れた杖が次々と消える光景は、見ている……実際にそれを行っているイオにしてみれば、どこか面白い光景だった。

「あら、新鮮な意見ね」

 面白いと口にしたイオに、ローザが面白そうに告げる。
 普段からマジックバッグを使うことが多いローザにとって、マジックバッグを使うのが珍しいといった風には思わない。
 すでにマジックバッグの存在は日常なのだ。
 だからこそ、そのマジックバッグを使って驚いたイオの存在は少し珍しいと思えてしまう。

「いや、普通に考えてこういうのは驚くと思いますよ。なぁ?」

 え? そこで自分に振るんですかと、イオに話を向けられたレックスだったが、やがて素直に頷く。

「そうですね。マジックバッグは元々かなり希少ですし、高価ですから。黎明の覇者ではそれなりの数を持ってますけど、それはあくまでも黎明の覇者だからだと思いますよ?」

 レックスの言葉は間違っていない。
 実際に黎明の覇者……というか、高ランクの傭兵団ならともかく、ランクの低い傭兵団では資金的な問題でマジックバッグを購入することは出来ない。
 もしそのような傭兵団がマジックバッグを入手するのだとすれば、それこそダンジョンに潜ってどうにか入手するか、あるいは戦いの中で偶然マジックバッグを持っている傭兵団……具体的には高ランク傭兵団の可能性が高いが、そのような傭兵団が弱っているところに偶然攻撃する機会があるといった場合だろう。
 少なくても、レックスが以前所属していた傭兵団はマジックバッグなどという高価なマジックアイテムは持っていなかった。

「そう言われるとそうかもしれないわね。私たちにとってはあって普通のものという認識だったから。その辺ではちょっと感覚が違うのかもしれないわね」

 そんな言葉を交わしている間にも、杖をマジックバッグの中に収納していき……そして全ての杖がなくなる。

「あれだけの重さの杖が全部この中に入ってるんですよね。……いえまぁ、木の箱もそれだけでそれなりの重量だとは思いますけど」

 木の箱に入れるということは、中に入れてあるのがそれなりに大事な物であるということを意味している。
 つまり、何かあっても中にある物が壊れないようにする必要があり、それだけの頑丈さが木の箱には求められていた。
 そして木材で出来ている以上、簡単に頑丈さを上げるのは木の箱に使っている木材を厚くすればいい。
 もっとも木材を厚くするとそれだけ木箱に入れられる量は減るのだが。
 そしてイオが持って重かったように、木箱の重量も上がる。

「マジックバッグに収納したら、木箱は馬車に戻すわよ。この木箱もそれなりに高価なんだから」
「あ、はい。分かりました。……けど、やっぱりこの木箱も高いんですね」
「そうよ。きちんとした技術を持っている職人に作って貰ったんだもの。そうである以上、購入しようとすればそれなりの値段がするわ。けど、こういう木箱があればどこに何が入っているのかというのがすぐに分かるでしょう?」

 手を伸ばすローザに、イオは木箱を渡しながら頷く。

「そうですね。探すときは見つけやすいと思います。ただ……木箱の中にきちんと収納されていればですけど」

 例えば杖と書いてある木箱に短剣が入っていたり、干し肉と書かれている木箱に干した果実が入っていたり。
 そういう風に収納するべき場所に収納されていない場合、それだけに探すのが大変になるのでは? というのがイオの感想だった。

「そうね。中にはそういう風にする人もいるけど……そういう場合はお仕置きをするから、次からはしなくなるわ」

 お仕置き? とちょっと疑問に思ったイオだったが、その続きを聞くことは出来なかった。
 ローザの浮かべている笑みに奇妙な迫力を感じてしまったのだ。
 特に何がどう違うという訳ではない。
 訳ではないのだが、それでも何かを感じさせてしまうと思えるのた。
 ここで妙なことを聞けば、間違いなく大変なことになる。
 そう判断したイオは、結局それ以上深く追求するのは止めるのだった。
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