才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
156 / 178
グルタス伯爵との戦い

0156話

しおりを挟む
 黎明の覇者は街道を進む。
 そして数度の野営を行ってグルタス伯爵との領地が近付く頃に、一つの村を見つける。
 グルタス伯爵が先遣隊としてダーロットの領地に既に人を派遣している場合、その相手を捜すのに必要な道案内。
 具体的には傭兵がどこかの山や森、林といった場所に隠れ家を用意している場合、まずはそれを見つける必要があった。
 そのための案内人を、ここで雇おうとソフィアは判断した。
 ここに来るまでにもいくつかの村や街はあったのだが、そんな中でソフィアが決めたのがこの村だった。

「ローザ、ギュンター、あの村で案内人を雇いましょう。グルタス伯爵の領地が近いから、色々と情報を知っている可能性が高いわ」

 ソフィアの言葉に名前を呼ばれたローザとギュンター、そして名前は呼ばれなかったが同じ馬車に乗っている傭兵たちがそれぞれ頷く。
 そうして黎明の覇者は村に進んだのだが……当然ながら、村の方ではいきなりやって来た傭兵団を見て緊張する。
 傭兵団の中には質の悪い者もおり、横暴な態度の者も少なくない。
 それ以外にも、グルタス伯爵の領地が近くにあるので、戦いになると巻き込まれることが多かったというのもあるのだろう。
 ……実はそれ以外にも、ソフィアの乗っている馬車を牽いてたのが普通の馬ではなく虎のモンスターだったというのも大きい。
 戦闘に慣れている傭兵ならともかく、普通の村人にしてみればこの辺りで遭遇するモンスターというのはそこまで強力なモンスターではない。
 そんな中で虎のモンスターと遭遇したのだから、それに怯えるなという方が無理だった。

「あ、あの……何か私たちに用でしょうか?」

 村の代表……村長と思しき初老の男が馬車から降りてきたギュンターに尋ねる。
 村長の様子に、ギュンターは少し困ったといった表情を浮かべた。
 ここは自分ではなく、補給を担当しているローザが話をするべきなのでは?
 そう思って馬車に視線を向けると、ちょうどそこではローザが馬車から降りてくるところだった。
 最初にギュンターが降りたのは、もしかしたら村の中にグルタス伯爵と内通している者がいるかもしれなかったからだ。
 もしここでそのような相手がいたら、馬車から降りてきたばかりのギュンターたちはこれ以上ないほどに狙いやすい相手となる。
 だからこそ、最初に相手が妙な行動をしても対処出来るようにギュンターが最初に馬車を降りたのだが、幸いにも特に攻撃されるようなことはなかったが。

「話は私がするわ」

 ギュンターに代わって馬車から降りたローザがそう告げる。
 すると馬車から降りてきたローザを見た村長は驚く。
 ローザのような美人がここにいることに驚いたというのが大きいのだろう。
 ソフィアほどではないにしろ、ローザも十分に美女と呼ぶに相応しい美貌を持つ。
 そんなローザが現れたことで、間近にその美貌を見た長が驚くのは当然だった。
 また、長以外の村人……特に若い男は、驚く。
 そんな中の何人かは意味ありげな視線を交わしている。
 ピクリ、と。ローザはそんな何人かの様子に気が付くが、それに対して何かを口に出したりはしない。
 ただし、表情には出さなかったものの、内心では獰猛な笑みを浮かべていたが。
 ローザの内心に気が付いた様子もないまま、村長は口を開く。

「それで、その……お話というのは具体的にどのようなことなのでしょう?」
「私達はグルタス伯爵軍と戦う為にダーロット様に雇われた傭兵よ」

 そう告げるも、そのことには最初から予想していたのか、村長が驚く様子はない。
 ただし、村人の中には黎明の覇者の正体について理解していなかった者もいるのだろう。
 驚いている者もいた。

「グルタス伯爵領側からやってきた訳ではないので、そうだと思いましたが……それについては分かりました。しかし、それが一体どうしたのでしょう? この村には、見ての通り敵兵はいませんが」
「そうだといいけどね」

 そう言うローザ。
 実際に敵が村にいても、それを村ぐるみで匿っている可能性もある。
 そうなると、ちょっと見ただけでそれを見破るのは難しい。
 もっとも、そうなったらそうなったで幾らでも対処のしようはあるのだが。
 ただ、こうして村にやって来たのはもっと違う理由からだ。

「その件に多少かかわってくるのだけど、実はグルタス伯爵領側からすでに先発隊としてある程度の戦力がこちらに入ってきたという情報があるの」

 実際にはそうかもしれないから、念のために黎明の覇者に先発してそれを見つけ出して欲しいという要望だったのだが、この場合はそういう情報があった方が事態を進めやすいとローザが判断したのだろう。

「そのようなことが……」

 言葉では驚く村長だったが、実際には本気で驚いていないというのは明らかだ。
 領土境の近くにある村なのだから、今まで戦いがあるごとに同じようなことがあってもおかしくはなかったのだろう。
 黎明の覇者として、同じような場所で何度も戦いを見てきたローザにしてみれば、そんな光景は日常茶飯事……とまではいかずとも、珍しい話ではなかった。

「ええ。そんな訳でこの辺を……具体的には敵が潜んでいそうな場所に案内をしてくれる案内人が欲しいのよ。無料でとは言わないわ。相応の報酬は出すわ」

 ざわり、と。
 ローザの言葉を聞いた村人たちがざわめく。
 傭兵団のことだから、無理矢理にでも人を奪っていくと思っていた者も多いのだろう。
 実際、傭兵団の中にはそのような真似をする者もいる。
 本来なら問題行動なのだが、傭兵として活動する上で必要だったと言われれば、それが問題になることはない。
 もちろん、それを悪用して若い女を無理矢理連れていくといったような真似をしていれば、罰則を受けることもあるが。
 なのに、ローザは報酬を支払うとまで口にしたのだ。
 そんな傭兵団の態度とは大きく違う。
 今のこの状況でそのような真似をされれば、村長としては悪い気はしない。
 ……ローザを見て目配せをしていた者たちも、報酬を支払うというローザの言葉は意外だったのか、驚きの表情を浮かべていた。

「どうするのかしら? 報酬を支払うと言っている今のうちに、素直に雇われてくれると私たちとしても助かるのだけど」
「お……俺がやる!」

 ローザの言葉に反応したように、一人の男が叫ぶ。
 まだ若い……十代後半から二十代前半といったくらいの年齢のその男の言葉に釣られるように、他の者たちもそれぞれ自分がやると口にする。

「俺がやります! この辺りは色々と複雑な地形の場所もあるので、是非任せて下さい!」
「ちょ……私がやろうと思ったのに。私は女ですから、男の人でも分からないような場所を知っています!」

 そんな風に多くの者が立候補する。
 このような村で、現金収入を得られるチャンスというのはそう多くはない。
 ましてや、募集をしたのがいかにも傭兵といった大男ではなく、ローザのような美人だ。
 男たちはもしかしたら……という淡い期待があるし、女の目から見ても美人なローザとお近づきになりたいと思う者は多いのだろう。

「どうする?」

 ギュンターがローザに尋ねる。
 ギュンターにしてみれば、ここまでやる気に満ちているのはローザが案内役を募集したからだ。
 そうである以上、ここで誰を雇うのかはローザが決めた方がいいのは間違いない。

「そうね。じゃあ……そこの人にお願いするわ」

 ギュンターの言葉に少し考え、ローザが示したのは最初に立候補した男だ。
 決断力があるという点を判断したのだろう。
 あとは若い男で自分たちを案内する際に体力的な問題を考えてか。
 自分を見て意味ありげな表情を浮かべていた者を雇ってみてもいいかもとは思ったのだが、今の状況を考えるとそんな真似をするよりも他のきちんとした相手に頼んだ方がいいと判断したのだ。
 もちろん、後から追ってきて妙なことを企むという可能性もあったが、ローザだけがここにいて一緒に行くように頼んでいるのならまだしも、黎明の覇者全てを敵に回して、ただの村人がどうこう出来るはずもない。
 もしそのような真似が出来るような相手がいるのなら、それこそ自分たちが捜しているような、グルタス伯爵の手の者という可能性が高い。
 そうなったらそうなったで、それなりに戦いやすいという意味で悪くないのは間違いなかった。

「え? 俺ですか!? 本当に俺でいいんですか!?」

 ローザに指示された男は、まさか本当に自分が選ばれるとは思っていなかったのだろう。
 嬉しそうに声を上げる。
 周囲にいる遅れて立候補した者たちからは羨ましそうな、あるいは嫉妬の視線を向けられていたが。

「ええ。貴方にお願いするわ。それで、準備はいい? 出発するまでにはどのくらいの時間が必要になるの?」

 ローザのその言葉に、男は慌てたようにしながら考える。
 準備そのものはそこまで必要な訳ではない。
 とにかくこの状況で必要となるのは野営をするための準備といざというときのための自衛の武器といったところだろう。

「すぐに準備してきます! それで、どのくらい村を離れることになるんでしょうか?」
「そうね。確実に何日とは言えないわ。ただ、あまり長くなるようなら一度村に戻るから、安心しなさい。体力的にそれ以上無理だと言うのなら、そのときに他の希望者と交代してもらうことになるわ」
「いえ、大丈夫です! すぐに準備してきますので!」

 そう叫ぶと、男は準備をするために家に向かう。
 割のいい仕事――報酬についてはまだ何も話していないのだが――を他人に渡してなるものかと、男はやる気に満ちていた。
 せっかく自分が仕事を出来るようになったのだから、ここで下手に時間を無駄にするような真似をして、相手の不況を買いたくはない。
 自分が雇われることになったのは、真っ先に立候補したからというのもあるが、それ以上に偶然からだと理解していたためだ。
 そうである以上、相手を失望させるようなことがあればすぐ別の者が雇われることになる。
 そうならないように、男は必死になって働く必要があった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

処理中です...