才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
171 / 178
グルタス伯爵との戦い

0171話

しおりを挟む
 新たな案内人を雇って村を出発したソフィアたちは、案内人の示す道を進む。
 途中で特に何かトラブルの類もなく移動し……

「ソフィア、無事だったのね」

 無事に本隊に合流すると、真っ先にローザが馬車から降りてソフィアに近寄り、そう声をかける。
 ローザにしてみれば、ソフィアのような腕利きが兵士を相手に負けるとは思っていない。
 思ってはいないが、それでも万が一のことを考えると、やはりこうして無事な姿を見て嬉しかったのだろう。

「ローザの方も問題はなかったようね。……で、人数が減ってるのは、私たちのように途中で何人かで別行動をしたからと思ってもいのかしら?」

 ソフィアの言葉に、ローザはすぐに頷く。

「全員が一緒になって動くのは非効率的でしょう?」

 その言葉には誰も異論はない。
 実際、ソフィアたちが本隊から離れて行動したのも、それが最大の理由だったのだから。
 ……黎明の覇者を率いる団長のソフィアが本隊から離れるのは、普通とは違ったが。
 もっとも、その普通とは違うのが黎明の覇者の特徴でもある。
 そのようなことがあっても、黎明の覇者の本隊はしっかりと自分たちの仕事をこなしている。

「それで、いくつの拠点を潰せたの?」
「三つね。他にも二つあるけど、そちらに派遣した戦力はまだ戻ってきてないわ。手こずってるのかしらね?」

 ローザが冗談っぽくそう言う。
 実際には、ローザもそのように言いつつ、本気でそのようなことになっているとは思っていないのだろう。
 敵の領土内に侵入してくる兵士たちだけに、相応の……標準以上の実力を持っているのは間違いなかったが、それでも言ってみればその程度だ。
 黎明の覇者に所属する傭兵の実力は一流と呼ぶに相応しく、標準以上の実力を持つ兵士程度では対処出来るはずもない。

「あら、私の率いる黎明の覇者よ? この程度の相手に手こずるとは思えないわね」

 冗談っぽく言ってきたローザに対し、ソフィアもまた冗談っぽく返す。
 そんな二人の話を聞いていた他の傭兵たちも、どこかリラックスした様子を見せていた。
 領地に侵入してきた兵士を見つけて排除するというのは、ある意味上からの無茶振りに等しい命令だった。
 広い領土の中で、どこに潜んでいるのかを分からない兵士を見つけて排除する必要があるのだから。
 しかし、村で案内人を雇ったおかげもあってか、そちらは思いの他上手くいった。
 ……もちろん、領内に侵入してきた敵の兵士を全て見つけたとは思っていない。
 中には案内人も気が付かない場所に潜んでいる者がいる可能性は否定出来ないのだから。
 そちらはどうすることも出来ないだろう。
 もちろん、ソフィアとしてはそのような相手をどうにかしたいという思いがある。
 その兵士たちが破壊工作を行った場合、それを防げなかったという意味で黎明の覇者の評価にとってはマイナスとなるのだから。
 それは面白くないが、だからといって今の状況でその全てをどうにか出来るかと言われれば、その答えは否だ。
 とてもではないが、今のこの状況で侵入してきた兵士の全てを倒すような真似は出来ない。
 どこにいるのかが分かれば、どうにかなったかもしれないが……

「尋問はしたの?」
「ええ。ただ、基本的には他の兵士たちが潜んでいる場所については、お互いに知らされていなかったみたいね」
「こういうときのことを予想して?」

 ソフィアの言葉に、ローザは頷く。
 ローザにしてみれば、今回のように侵入した兵士が狩られることは向こうにとってもある程度予想していたのだろう。
 だからこそ、お互いにどこに潜むかといった情報は秘密にしていた。
 最初にイオたちが行った洞窟のように、他の場所に食料や武器、防具……場合によっては情報も提供するための拠点となっていた場所であれば、話は別だったが。

「そうでしょうね。それぞれに散らばった兵士たちは、独自に行動するのを許可されているのか、それともある程度の大雑把な計画はあって、それに従ってるのか。生憎とその辺りは私には分からないけど」
「だとすれば、私たちが襲撃した洞窟はそれなりに重要拠点だったということになるわね」
「そうなの?」

 ソフィアの言葉にローザがそう尋ねる。
 ソフィアはそんなローザに対し、洞窟に武器や防具、食料がかなり貯め込まれていたことを説明する。

「なるほど。だとすれば、ソフィアの予想が間違ってるとは思えないわね。けど……それがソフィアが洞窟に行く必要があったという勘なのかしら?」

 黎明の覇者を率いる立場にいるソフィアは、本来なら別働隊と一緒に行動するといったことはない。
 しかし、それでもソフィアが洞窟での戦いに参加した理由……それは、純粋にソフィアの勘からの行動だった。
 黎明の覇者は今まで何度もソフィアの勘によって窮地を逃れている。
 言ってみれば、黎明の覇者がここまで大きく、そしてランクA冒険者になったのは、ソフィアの勘に助けられた部分が大きいというのは、決して言いすぎではないだろう。
 そんなソフィアの勘が、洞窟に武器や防具があるからという理由だけで自分も洞窟に行った方がいいと思ったのか。
 だが、そんな理由でソフィアの勘が働くとは思えないローザとしては、疑問でしかない。

「ああ、その件ね。恐らく……本当に恐らくだけど、イオを勧誘するにはその方がよかったからだと思うわ」
「イオを……?」

 何故ソフィアと一緒に行くのがイオに関係するのか、首を傾げるローザ。
 ローザもイオが現在のように客人ではなく、正式に黎明の覇者に所属してくれるということになれば非常に助かると思う。
 イオの持つ流星魔法は、戦略級の威力を誇る。
 自分の目で直接それを見たのだから、ローザもイオが黎明の覇者に正式に所属してくれるというのなら不満はない。
 以前はイオの事情について詳しく知らない者が多かったので、そこまで露骨にイオを優遇するような真似は出来なかったが。
 ゴブリンの軍勢を壊滅させた隕石は、イオの持つマジックアイテムの仕業ということになっていたからだ。
 流星魔法について知られないためとはいえ、それによってイオを侮る者がいたのも事実。
 その代表格が、ドラインだろう。
 基本的に自分よりも弱い相手を見下す癖があるのだが、最初にイオがマジックアイテムを使って隕石を落とし、ゴブリンの軍団を滅ぼしたと認識したドラインは、イオが流星魔法を使えるようになった現在であっても、イオの存在を軽視していた。
 それでもイオにとって……いや、双方にとって幸運だったのは、お互いが自分と相手は合わないと判断したため、積極的に関わらないようにしていたことか。
 現在は半ば冷戦状態に近い。

「ええ。イオは今まで私たちの客人という扱いになっていたでしょう? けど、いつまでもそのままではいられない。……いえ、いない方がいいと思ったのよ」
「何故かしら? もちろん、イオが正式に黎明の覇者に所属してくれれば、私たちにとって悪い話じゃないわ。けど、今この状況で無理に話を進める必要があったの?」

 ローザはソフィアの言葉にそう疑問を投げかける。
 ローザにしてみれば、口にしたようにイオが黎明の覇者に正式に所属してくれるのは非常に嬉しい。
 嬉しいが、だからといって強引に話を進めた結果、相手に嫌がられては本末転倒だという認識を持っていた。
 これが普通の……あるいは少し腕の立つ魔法使いが相手なら、ローザもそこまで心配はしなかっただろう。
 しかし、イオという存在はとてもではないが少し腕の立つ魔法使いといった存在ではない。
 流星魔法という、圧倒的な力を持つ存在。
 そうであるからこそ、何としても自分たちが取り込みたい相手なのだ。
 そんなイオに無理に迫るような真似をして、それが理由でイオが黎明の覇者に所属したくないといったら、どうするのか。
 もちろん、ローザも黎明の覇者が非常に恵まれた傭兵団だというのは理解している。
 自分が所属し、ソフィアと共にここまで大きくしてきたのだ。
 そうである以上、それを自慢に思うのは当然のことだった。
 だが……それでも、だからといってイオに無理に迫っても絶対にイオが黎明の覇者に所属するのかと言われれば、ローザも否と答えるだろう。
 だからこそ、ソフィアの迂闊にも思える行動を責めたのだ。
 しかし、ローザにそのように責められてたソフィアは特に堪えた様子もなく、口を開く。

「ローザが言いたいことは分かるわ。普通に考えれば軽率だったかもしれないとは思う。何故そんなことをしたのかと言われれば、明確な理由は説明出来ないわ。ただ……私の勘がそうするべきだと言ったのよ」

 そう言われると、ローザも強く反対は出来なくなる。
 今まで何度となくソフィアの勘に救われてきたのだから。
 だからといって、その勘で全てを納得しろというのは難しいのだが。

「取りあえず私からはこれ以上、何も言わないわ。今回はそこまで切羽詰まった状況ではなかったしね」

 たとえば、これが生きるか死ぬか、黎明の覇者が全滅するかしないかと瀬戸際であった場合は、ソフィアの勘を信じているからとはいえ、それで本隊から離脱するような真似をしても許容出来るかと言われれば、その答えは否だ。
 しかし今回の一件はそこまで重要な出来事ではない。
 相手はそれなりに練度の高い兵士ではあるだろうが、言ってみればそれだけだ。
 純粋に練度ということであれば、黎明の覇者の傭兵の方が圧倒的に上となる。
 その上で数でも勝利しているのだから、相手はもう殲滅されるしかない。

「ありがとう。そう言って貰えると助かるわ。……ただ、無理だとは知ってるけど、出来ればこっちに侵入してきている兵士たちの中に鋼の刃の傭兵が一人か二人くらい入っていてくれたら、私としては助かったんだけど」
「それは私も否定しないわ。……ソフィアが言ってるように無理だけどね」

 黎明の覇者と同じランクA傭兵団の鋼の刃。
 正面から戦うことしか出来ない者たちだが、逆に言えばそのような戦い方しか出来ないのにランクA傭兵団となった実力を持つのだ。
 下手に正面から戦った場合、黎明の覇者の被害も大きくなる。
 だからこそ、出来れば一人でも二人でもこの機会に倒したかったのだが……生憎と、今の状況でそのようなことが出来るはずもなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

処理中です...