ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ

文字の大きさ
2 / 6

2.婚約者の豹変

しおりを挟む
 レナルドの卒業の日、私は浮足立つ気持ちを抑え、なんとか淑女としてふさわしい表情を作り彼を出迎えた。

 久しぶりの対面だ。当然レナルドも喜んでくれるものだと思っていたのだが。

 

 彼の口から出たのは思いもよらない言葉だった。

 

「裏であんなことしておいて、よく僕の前に顔を出せたね。バレてないとでも思ったの?」



 彼が何を言っているのか、よくわからなかった。

 あんなこと? 全く心当たりがない。

 

「なんのことでしょうか……? よく、わからないのですが……」



 困惑して聞きかえすと、彼は笑みを浮かべて答えた。

 あの頃の温かさ等欠片もない、冷たい笑みだった。

 

「あくまでシラを切るんだね」



 そして彼は私の「悪行」を教えてくれた。

 

 私は彼が居ない間、他の令嬢たちをいじめてやりたい放題振る舞っていたらしい。

 中には辛さのあまり自殺未遂をしてしまった令嬢までいたようだ。

 また、あちこちで節操なく男性と遊んでいて、とっくに乙女では無くなっているらしい。

 

「学園で、何人もの令嬢が君に酷い目に遭わされたと訴えかけてきたよ。君と寝たって男も大勢いる。……ミュリエルがそんな女だと見抜いていたら、婚約などしなかったのに」



 私の知らない「私」の話をするレナルドは、冷めた目線をこちらに向ける。

 私は努めて冷静に言い返した。

 

「誤解があるようですわ。一度、話し合いをする必要がありそうです」

「僕を言いくるめる気だろう? 何が正しいかは僕が判断する」



 そう言って彼は自室へと帰った。

 その冷たい目が、忘れられなかった。

 

 

 それから彼とまともに話をすることはできなかった。あちこちで遊び歩いているらしい。

 苦言を呈せば、「よく人のことが言えるね? 君の行いに比べれば可愛いものじゃない?」と冷笑される。

 リュカは勿論のこと、使用人たちも私を庇ってくれたがレナルドは聞く耳を持たなかった。



「ミュリエル様はレナルド様の言うような御令嬢ではございません! 何かの間違いです!」



 そう言って私を庇ってくれた庭師は、しかし翌日レナルドに屋敷を追い出された。

 それ以来、彼らに私を庇わないようお願いした。職を失わせる訳にはいかない。



「人を騙すのが随分うまいんだね。体でも使ったの?」



 レナルドはそう言って嘲笑した。

 何が彼をこんなに変えてしまったのだろう。

 人から聞いた噂を頭から信じ込むような人ではなかった筈だ。

 何か、私が気に障るようなことをしてしまったのかもしれない。

 もう婚約を解消してラグランジュから出ていこうかとも思ったが、そこまでは踏み切れずにいた。

 

 私はまだ、レナルドを愛することを辞められないでいたのだ。

 

 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。

 朝起きたら、レナルドが元に戻ってますように。または、レナルドを嫌いになれていますように。

 

 毎晩そう願いながら眠りについたが、その願いはどちらも叶うことは無かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】私の大好きな人は、親友と結婚しました

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
伯爵令嬢マリアンヌには物心ついた時からずっと大好きな人がいる。 その名は、伯爵令息のロベルト・バミール。 学園卒業を控え、成績優秀で隣国への留学を許可されたマリアンヌは、その報告のために ロベルトの元をこっそり訪れると・・・。 そこでは、同じく幼馴染で、親友のオリビアとベットで抱き合う二人がいた。 傷ついたマリアンヌは、何も告げぬまま隣国へ留学するがーーー。 2年後、ロベルトが突然隣国を訪れてきて?? 1話完結です 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです

睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。

諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。 どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。 だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。 短編。全6話。 ※女性たちの心情描写はありません。 彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう? と、考えていただくようなお話になっております。 ※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。 (投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております) ※1/14 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

処理中です...