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3.最悪の夜
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しばらくして王家主催の夜会に招待された。
勿論レナルドには同伴を断られてしまった。
「君をパートナーにするなんて御免だね。その日は家で大人しくしてると良い」
そう言われたが、王家直々に招待されたものを欠席するわけにはいかない。
出席するつもりはあるのかと問うたが、「何故君に答えなければならない? どこで何をしようが僕の勝手だろう」と吐き捨てられてしまった。
仮にレナルドが欠席するつもりなら、ラグランジュ家として誰かが参加する必要があるだろう。
そして、夜会当日。
「ミュリエルのパートナーだなんて光栄です」
がやがやと騒がしい会場の中、レナルドより少し濃い青色の瞳を細めてリュカは笑う。
学園で私の悪い噂が流れている、というレナルドの話は本当のようで、同じ年頃の貴族達からはひそひそと遠巻きにされていた。
リュカがいなければ、この場を耐えることは出来なかっただろう。
「申し訳ございません。婚約者がいないからといって、私に付き合わせてしまい……」
そう言って謝ると、リュカは笑みを深めた。
「謝らないでください。――ミュリエル、なんで僕にまだ婚約者がいないか、考えたことはありますか?」
「勿論、ありますよ。リュカはどこを取っても申し分ない素晴らしい男性なのに、なんで婚約しないんだろうって。実際、打診はたくさん来ているのではなくて?」
「ふふ。こんなに素敵な女性が近くにいたら、どんな女性も見劣りしてしまうんですよ」
「あら、リュカったら、お上手ですね」
リュカの冗談に思わず笑みが溢れる。
しかし、それはすぐに凍りつくことになった。
レナルドが入場してきたのだ。私ではない女を侍らせて。
レナルドにしなだれかかる薄い金髪の可憐な美少女は、アルエット・カルネ男爵令嬢だ。
確か、彼女も学園に通っていた筈。
……吐き気がこみ上げてくるのを感じた。
どうしてなの。なんで、私以外の女とそんなに親しそうにしているの。
そう叫びだしたい気持ちを抑え、努めて冷静に振る舞う。
ただでさえ、レナルドが婚約者以外の女をパートナーとして伴っていることで会場がざわざわとしているのだ。
これ以上周りの人間から好奇の目で見られたくなかった。
「兄さん……何を考えているんだ……」
隣でリュカが低い声で呟く。
そして震えている私の手を強く握り、優しく私に囁いた。
「……目立たない所へ行きましょう。今は関わらないのが一番です。家に帰ってから問い詰めれば良い」
「ええ、そうですね……」
そうして彼らに背を向け、息を整えて歩きだしたその時。
背後から鈴を転がすような声が響いた。
「あら? ミュリエル様ではございませんか!」
そう言ってぱたぱたと走ってくる音がする。
――アルエットの声だ。
私は聞こえなかったフリをしてそのまま歩みを進めた。
「おい、アルエットが話しかけているだろう。わざとらしく無視するなんて、本当に嫌味な女だな」
レナルドの声に、私は思わず足を止めた。
「ミュリエル?」
そう言って心配そうにリュカが私の顔を覗き込む。
「……大丈夫です」
そう答え、私は彼らの方を振り向いた。
「御機嫌よう。レナルド、アルエット様。レナルドはてっきり欠席するものだと思っていました」
そう言うと、レナルドは眉をひそめた。
「僕は欠席するなどと一言も言っていないが? 君のパートナーになることは断ったけどね。ふん、わざわざリュカにお願いしてまで夜会に出席するなんて。そこまでして男漁りがしたかったのか?」
「違います! 私は、ラグランジュ家として――」
「君はまだラグランジュじゃないだろう? それなのに、これ見よがしに屋敷を仕切って。挙句の果てにはリュカや使用人たちまで誑かすなんてね。少しは控えめで可愛らしいアルエットを見習ったらどうだ?」
私は唇を噛み締めた。
言い返したかったが、これ以上何かを言えばはしたなく叫んでしまいそうだった。
公衆の面前で淑女らしからぬ振る舞いをする訳にはいかない。
震えている私をリュカが抱き寄せた。
「申し訳ありませんが、ミュリエルの調子が良くないようです。僕たちはここで退室させていただきます」
そう言って私の肩を抱いたまま、王城を後にした。
レナルドが出席するのなら、私達が帰っても問題はないだろう。
馬車の中で私を慰めてくれるリュカの言葉を聞きながら、「大丈夫」「ありがとう」と繰り返すことしかできなかった。
勿論レナルドには同伴を断られてしまった。
「君をパートナーにするなんて御免だね。その日は家で大人しくしてると良い」
そう言われたが、王家直々に招待されたものを欠席するわけにはいかない。
出席するつもりはあるのかと問うたが、「何故君に答えなければならない? どこで何をしようが僕の勝手だろう」と吐き捨てられてしまった。
仮にレナルドが欠席するつもりなら、ラグランジュ家として誰かが参加する必要があるだろう。
そして、夜会当日。
「ミュリエルのパートナーだなんて光栄です」
がやがやと騒がしい会場の中、レナルドより少し濃い青色の瞳を細めてリュカは笑う。
学園で私の悪い噂が流れている、というレナルドの話は本当のようで、同じ年頃の貴族達からはひそひそと遠巻きにされていた。
リュカがいなければ、この場を耐えることは出来なかっただろう。
「申し訳ございません。婚約者がいないからといって、私に付き合わせてしまい……」
そう言って謝ると、リュカは笑みを深めた。
「謝らないでください。――ミュリエル、なんで僕にまだ婚約者がいないか、考えたことはありますか?」
「勿論、ありますよ。リュカはどこを取っても申し分ない素晴らしい男性なのに、なんで婚約しないんだろうって。実際、打診はたくさん来ているのではなくて?」
「ふふ。こんなに素敵な女性が近くにいたら、どんな女性も見劣りしてしまうんですよ」
「あら、リュカったら、お上手ですね」
リュカの冗談に思わず笑みが溢れる。
しかし、それはすぐに凍りつくことになった。
レナルドが入場してきたのだ。私ではない女を侍らせて。
レナルドにしなだれかかる薄い金髪の可憐な美少女は、アルエット・カルネ男爵令嬢だ。
確か、彼女も学園に通っていた筈。
……吐き気がこみ上げてくるのを感じた。
どうしてなの。なんで、私以外の女とそんなに親しそうにしているの。
そう叫びだしたい気持ちを抑え、努めて冷静に振る舞う。
ただでさえ、レナルドが婚約者以外の女をパートナーとして伴っていることで会場がざわざわとしているのだ。
これ以上周りの人間から好奇の目で見られたくなかった。
「兄さん……何を考えているんだ……」
隣でリュカが低い声で呟く。
そして震えている私の手を強く握り、優しく私に囁いた。
「……目立たない所へ行きましょう。今は関わらないのが一番です。家に帰ってから問い詰めれば良い」
「ええ、そうですね……」
そうして彼らに背を向け、息を整えて歩きだしたその時。
背後から鈴を転がすような声が響いた。
「あら? ミュリエル様ではございませんか!」
そう言ってぱたぱたと走ってくる音がする。
――アルエットの声だ。
私は聞こえなかったフリをしてそのまま歩みを進めた。
「おい、アルエットが話しかけているだろう。わざとらしく無視するなんて、本当に嫌味な女だな」
レナルドの声に、私は思わず足を止めた。
「ミュリエル?」
そう言って心配そうにリュカが私の顔を覗き込む。
「……大丈夫です」
そう答え、私は彼らの方を振り向いた。
「御機嫌よう。レナルド、アルエット様。レナルドはてっきり欠席するものだと思っていました」
そう言うと、レナルドは眉をひそめた。
「僕は欠席するなどと一言も言っていないが? 君のパートナーになることは断ったけどね。ふん、わざわざリュカにお願いしてまで夜会に出席するなんて。そこまでして男漁りがしたかったのか?」
「違います! 私は、ラグランジュ家として――」
「君はまだラグランジュじゃないだろう? それなのに、これ見よがしに屋敷を仕切って。挙句の果てにはリュカや使用人たちまで誑かすなんてね。少しは控えめで可愛らしいアルエットを見習ったらどうだ?」
私は唇を噛み締めた。
言い返したかったが、これ以上何かを言えばはしたなく叫んでしまいそうだった。
公衆の面前で淑女らしからぬ振る舞いをする訳にはいかない。
震えている私をリュカが抱き寄せた。
「申し訳ありませんが、ミュリエルの調子が良くないようです。僕たちはここで退室させていただきます」
そう言って私の肩を抱いたまま、王城を後にした。
レナルドが出席するのなら、私達が帰っても問題はないだろう。
馬車の中で私を慰めてくれるリュカの言葉を聞きながら、「大丈夫」「ありがとう」と繰り返すことしかできなかった。
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