ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ

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2.婚約者の豹変

 レナルドの卒業の日、私は浮足立つ気持ちを抑え、なんとか淑女としてふさわしい表情を作り彼を出迎えた。

 久しぶりの対面だ。当然レナルドも喜んでくれるものだと思っていたのだが。

 

 彼の口から出たのは思いもよらない言葉だった。

 

「裏であんなことしておいて、よく僕の前に顔を出せたね。バレてないとでも思ったの?」



 彼が何を言っているのか、よくわからなかった。

 あんなこと? 全く心当たりがない。

 

「なんのことでしょうか……? よく、わからないのですが……」



 困惑して聞きかえすと、彼は笑みを浮かべて答えた。

 あの頃の温かさ等欠片もない、冷たい笑みだった。

 

「あくまでシラを切るんだね」



 そして彼は私の「悪行」を教えてくれた。

 

 私は彼が居ない間、他の令嬢たちをいじめてやりたい放題振る舞っていたらしい。

 中には辛さのあまり自殺未遂をしてしまった令嬢までいたようだ。

 また、あちこちで節操なく男性と遊んでいて、とっくに乙女では無くなっているらしい。

 

「学園で、何人もの令嬢が君に酷い目に遭わされたと訴えかけてきたよ。君と寝たって男も大勢いる。……ミュリエルがそんな女だと見抜いていたら、婚約などしなかったのに」



 私の知らない「私」の話をするレナルドは、冷めた目線をこちらに向ける。

 私は努めて冷静に言い返した。

 

「誤解があるようですわ。一度、話し合いをする必要がありそうです」

「僕を言いくるめる気だろう? 何が正しいかは僕が判断する」



 そう言って彼は自室へと帰った。

 その冷たい目が、忘れられなかった。

 

 

 それから彼とまともに話をすることはできなかった。あちこちで遊び歩いているらしい。

 苦言を呈せば、「よく人のことが言えるね? 君の行いに比べれば可愛いものじゃない?」と冷笑される。

 リュカは勿論のこと、使用人たちも私を庇ってくれたがレナルドは聞く耳を持たなかった。



「ミュリエル様はレナルド様の言うような御令嬢ではございません! 何かの間違いです!」



 そう言って私を庇ってくれた庭師は、しかし翌日レナルドに屋敷を追い出された。

 それ以来、彼らに私を庇わないようお願いした。職を失わせる訳にはいかない。



「人を騙すのが随分うまいんだね。体でも使ったの?」



 レナルドはそう言って嘲笑した。

 何が彼をこんなに変えてしまったのだろう。

 人から聞いた噂を頭から信じ込むような人ではなかった筈だ。

 何か、私が気に障るようなことをしてしまったのかもしれない。

 もう婚約を解消してラグランジュから出ていこうかとも思ったが、そこまでは踏み切れずにいた。

 

 私はまだ、レナルドを愛することを辞められないでいたのだ。

 

 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。

 朝起きたら、レナルドが元に戻ってますように。または、レナルドを嫌いになれていますように。

 

 毎晩そう願いながら眠りについたが、その願いはどちらも叶うことは無かった。
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