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8.なんで
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「そういえば、なんで部活入らないの?」
「入る必要性を感じないから」
ふと先週の話題を思い出す。理人は筆箱につけたばかりのキーホルダーを珍しそうにいじっていた。穂積がお土産でくれたものだ。
話半分で課題を取り出す。なにぶん教科が多すぎてなにからやればいいか分からない。プリントの束を理人が取り上げる。
「テニス部入ればいいじゃん。姫野いるんだし」
「姫野がいても関係ないよ。スオとの時間が優先」
「は?なんで俺?」
理人がプリントを並び替えていく。理系科目のプリントを優先的に並べ始めた。思わず顔を顰める。
「僕の部活はスオの家庭教師。ほら、やるよ」
ルーズリーフを取り出すと数式を書き出す。俺は切り替えられないのに理人はすでにスイッチが入ったらしい。高校受験の時を思い出す。
理人は推薦に合格し、早々に進路を決めていた。仮に一般入試でも余裕で合格していたと思う。自由な時間を削って勉強を教えてくれた。これじゃあ家庭教師のバイトみたいだな、と言った覚えがある。
それから理人はずっと勉強を見てくれている。しかし残念ながらあの日のような結果は残せていない。
「そういえば、進路出した?」
「そのことだけど、……就職、することにした」
今日までだよね?と付け足される。俺は言い淀んだ。目を瞑り、意を決して口を開くと一瞬、時が止まった。思ったよりも声が弱々しくなった。理人の反応がなくて、もしかして聞こえなかったのでは?と顔を上げる。大きく見開いた目と視線があった。
「なんで」
「勉強がいやだから。考えたんだけど、……大学はちょっと…」
「一緒の大学に行こうって話したよね」
「…やっぱり俺は理人と同じ大学には行きたくない」
理人が息を呑んだ。就職は以前から考えていたことだ。母子家庭だということもあるけど、それだけじゃない。
「お金?お金なら僕が出す」
「ちがう」
理人の家は国内屈指の大病院を経営している。彼も当然のように医学部にいく。うちの学校の理系進学コースなら有名私大・国立大学だって狙える。
そして何より金銭感覚がちがう。このマンションだって理人が残りたいと駄々を捏ねたから親が与えた。ここには一人しか住んでいない。
「理人に志望校のランクを下げてほしくない」
理人が選んだのは俺の志望校だった。医学部はあるけど大学自体の偏差値は高くない。しかもマンションからは遠いから一人暮らしをすることになる。隅の方の住宅情報誌に目を向ける。理人は当たり前のように俺と暮らす部屋を探していた。
「医者になれるなら大学はどこでもいいよ」
「よくない。理人のお父さんたち、一緒の大学に行ってほしいんだろ」
「どうしてそのことを知ってるの」
思わず身構える。親経由で理人の両親から連絡が来た。言い分はただ一つ。理人に自分たちと同じ大学を目指してほしいとのこと。
そして、ある提案をされた。俺に、自分たちが経営する病院で働かないかと声をかけてくれた。勉強で苦労しているのを知っているからか母親も反対はしない。なにより理人の近くにいれると思った。そんなずるい策略もある。
「………とにかく、俺は大学へは行かない」
目を見ると決心が揺るいでしまいそうだった。ソファから降りて机との間に座る。プリントに目を落とす。やっぱり全然理解できなかった。
「スオは僕と離れても、…平気なの」
理人が、抱きしめてきた。感情が昂ると抱きつくクセがある。嬉しい時も、…寂しい時も。まるで感情を押し付けるように。
「平気。大学に行けば俺より仲がいい友達ができるよ」
姫野みたいに、と心の中で呟く。いつも通り笑いかけた。でも、理人は笑い返してくれなかった。ただ腕の力を強めた。
「入る必要性を感じないから」
ふと先週の話題を思い出す。理人は筆箱につけたばかりのキーホルダーを珍しそうにいじっていた。穂積がお土産でくれたものだ。
話半分で課題を取り出す。なにぶん教科が多すぎてなにからやればいいか分からない。プリントの束を理人が取り上げる。
「テニス部入ればいいじゃん。姫野いるんだし」
「姫野がいても関係ないよ。スオとの時間が優先」
「は?なんで俺?」
理人がプリントを並び替えていく。理系科目のプリントを優先的に並べ始めた。思わず顔を顰める。
「僕の部活はスオの家庭教師。ほら、やるよ」
ルーズリーフを取り出すと数式を書き出す。俺は切り替えられないのに理人はすでにスイッチが入ったらしい。高校受験の時を思い出す。
理人は推薦に合格し、早々に進路を決めていた。仮に一般入試でも余裕で合格していたと思う。自由な時間を削って勉強を教えてくれた。これじゃあ家庭教師のバイトみたいだな、と言った覚えがある。
それから理人はずっと勉強を見てくれている。しかし残念ながらあの日のような結果は残せていない。
「そういえば、進路出した?」
「そのことだけど、……就職、することにした」
今日までだよね?と付け足される。俺は言い淀んだ。目を瞑り、意を決して口を開くと一瞬、時が止まった。思ったよりも声が弱々しくなった。理人の反応がなくて、もしかして聞こえなかったのでは?と顔を上げる。大きく見開いた目と視線があった。
「なんで」
「勉強がいやだから。考えたんだけど、……大学はちょっと…」
「一緒の大学に行こうって話したよね」
「…やっぱり俺は理人と同じ大学には行きたくない」
理人が息を呑んだ。就職は以前から考えていたことだ。母子家庭だということもあるけど、それだけじゃない。
「お金?お金なら僕が出す」
「ちがう」
理人の家は国内屈指の大病院を経営している。彼も当然のように医学部にいく。うちの学校の理系進学コースなら有名私大・国立大学だって狙える。
そして何より金銭感覚がちがう。このマンションだって理人が残りたいと駄々を捏ねたから親が与えた。ここには一人しか住んでいない。
「理人に志望校のランクを下げてほしくない」
理人が選んだのは俺の志望校だった。医学部はあるけど大学自体の偏差値は高くない。しかもマンションからは遠いから一人暮らしをすることになる。隅の方の住宅情報誌に目を向ける。理人は当たり前のように俺と暮らす部屋を探していた。
「医者になれるなら大学はどこでもいいよ」
「よくない。理人のお父さんたち、一緒の大学に行ってほしいんだろ」
「どうしてそのことを知ってるの」
思わず身構える。親経由で理人の両親から連絡が来た。言い分はただ一つ。理人に自分たちと同じ大学を目指してほしいとのこと。
そして、ある提案をされた。俺に、自分たちが経営する病院で働かないかと声をかけてくれた。勉強で苦労しているのを知っているからか母親も反対はしない。なにより理人の近くにいれると思った。そんなずるい策略もある。
「………とにかく、俺は大学へは行かない」
目を見ると決心が揺るいでしまいそうだった。ソファから降りて机との間に座る。プリントに目を落とす。やっぱり全然理解できなかった。
「スオは僕と離れても、…平気なの」
理人が、抱きしめてきた。感情が昂ると抱きつくクセがある。嬉しい時も、…寂しい時も。まるで感情を押し付けるように。
「平気。大学に行けば俺より仲がいい友達ができるよ」
姫野みたいに、と心の中で呟く。いつも通り笑いかけた。でも、理人は笑い返してくれなかった。ただ腕の力を強めた。
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