素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー平凡で勉強が苦手な子が王子様みたいなイケメンと恋する話ー

美絢

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6.子どもっぽい

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「成長期の子どもみたいだねぇ」
「喧嘩売ってる?」

 急いで着替えて校庭に向かうと穂積が吹き出した。指をさしながら楽しそうに笑っている。つられて周りも笑い出した。こいつは人を巻き込むのが上手い。トラックを走っている人にぶつからないように円内に向かう。やれやれと穂積の横に腰を下ろした。

「タマいなかったの?」
「いなかった。姫野が貸してくれるって言ったのに理人が……」
「へ~姫ちゃんと話したんだ?」

 少しだけ言葉に詰まる。穂積は俺の片思いを知っている。というより、バレてしまったのだ。だから姫野に複雑な感情を抱いている事も知っている。

「話した。めっちゃいいヤツだった」
「へ~その割には友達いないよね」
「いるだろ?理人が」

 穂積はコミュニケーション能力と人脈が異様に広い。穂積と比べれば俺だって友達がいない。たしかに姫野は群れない。ファンみたいな人はいるけど別に一緒にいるわけではない。ーー理人以外、とは。

「ごめーん、次俺の組だぁ」

 穂積は気づかない振りをしてスタートラインに並んでいく。理人に振られて一週間が経ったけど俺たちの関係はなにも変わらない。
 朝は一緒、帰りはタイミングが合わなければ別。たまに一緒に帰れた日は理人の家に転がり込む。さすがに先週は耐えられなくて断った。もし今日も早く終われば一緒に帰る可能性が高い。俺は断る方法を考えていた。…ぶかぶかのジャージの裾を折りながら。

 ***

「ふふ、子どもみたいだったね」
「おまえも喧嘩売ってる?」
「おまえもって何」
「クラスメイトに笑われたんだよ!察しろ!」

 断る方法が浮かばないままホームルームが終わる。急いで帰ろうと思ったのに先週のように捕まってしまった。ドアに手をかけて開口一番に言われる。後ろで笑いが起きるが理人は全然気にしない。

「ちょうど窓から見えた。本当に折ったんだね」
「…え、あれ冗談だったの!?」
「忘れちゃった。ぶかぶかなまま走っても良かったんじゃない?」

 理人はいたずらそうに笑った。それ絶対コケるやつじゃん…と思いながら穂積の方を向く。声をかけようとしたが既に親指を立ててOKのポーズをしていた。小さく手を振る。

「今日は来れる?」
「………えっと、ちょっとムリかも?」
「どうして疑問形なの?」

 定期をかざしてタイミング良く来た電車に乗る。俺を座らせると顔を覗き込んできた。一瞬キスされるかと思い身を引く。

「実は赤点取っちゃって課題が!」
「教えてあげる」
「……だよな」

 目を背ける。代替え案を一生懸命考えた。
 俺は志望校を3ランク近く上げてこの高校にきた。先生たちにも、友達にも絶対無理だからやめとけと言われた。つまり俺はこの学校の学力レベルよりもかなり劣っている。試験の日は奇跡を起こせたけどそう何度も奇跡は起きない。頭も学力も悪いから、言い訳も考えられない。

「あ!エノキ!エノキ買わなきゃ!」
「お味噌汁でも作る気?どこ?スーパー?」
「スーパー!俺ひとりで行けるから大丈夫!」
「スオさ、僕のこと避けてるよね」

 最寄駅に着き、思い出したように踵を返す。でも、すぐに腕を掴まれた。靴はスーパーの方に向けていたのに足が動かなかった。理人は視線を外さない。逃がさないとでも言うように腕を掴む力が強くなる。

「避けてたら一緒に帰らないって。理人の勘違いじゃない?」
「勘違いじゃない。どうして最近リトって呼ばないの」
「………子どもっぽいかなって…」
「子どもっぽくない。僕はスオにリトって呼ばれると嬉しい」

 言葉に詰まる。俺たちは二人きりの時、幼少期のあだ名で呼び合う。ルールがあるわけじゃなくて暗黙の了解になっていた。そして俺はあの日からそのあだ名を呼んでいない。
 俺だってスオって呼ばれるのは嬉しい。だってこのあだ名で呼ぶのは理人だけだから。でも、今は呼ぶ気になれなかった。

「子どもみたいって言ったじゃん」

 理人の言うとおり、俺は子どもっぽい。フラれたからあだ名を封印して、姫野にやきもちを焼く。ぶかぶかの体育服を着れたのも本当はすごく嬉しかった。
 でも、姫野は俺に体育着を貸そうとした。俺は理人の体育着を誰にも貸したくないと思ったのに。姫野と俺では気持ちの余裕も、なにもかもが違いすぎる。

「何を考えてるか分からないけど、今日はスオを帰したくない」
「帰したくないって…俺は女の子じゃないんだけど」
「女の子とかどうでもいい。家に来て、帰らないで」

 柄にもなく理人がムキになっている。子どものように俺の腕を掴んで駄々をこねる。俺にもわかるようにシンプルな言葉を使って。

「……わかったよ。理人の家に行く」
「ほんとう」
「ほんと。だから手離せって」

 疑わしいという目がこちらを見ている。一瞬スーパーまで走ろうと思ったがこいつは用心深い。俺から手を離さない。

「お菓子買ってく?」
「マジ!?コーラ飲みたい!」

 残念ながら俺はチョロいので欲望に忠実だ。気づいたら理人を急かすように家路に着いていた。
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