花びらは散らない

美絢

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13話

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 色々な出来事が重なり、俺はダウンした。





 久しぶりに運動したせいか身体中痛いし、熱は出るし、食欲が全くない。

 なにより頭が働かない。
 考えたいことはたくさんあるのに。


「ミコト、何か食べられそう?」


 おでこに乗せたタオルを取り替えながらミカドが顔を覗き込んでくる。
 医者にも診てもらったが原因は不明で、この状態が2週間続いていた。


「だいじょうぶ……」

「食べないと体がもたないよ。飲みものは?」



「ん……。………あれがいい………」



 あれ、で通じるくらいお世話になっているジュースを俺は思い浮かべた。

 既に予想していたのか、ミカドの足は冷蔵庫に向かっていてパックジュースを取り出している。

 優雅な仕草でストローを取り出すといつものように突き刺した。



「自分で飲む~・・・」



 ミカドが唇にストローを押し当てたので、パックを受け取るために上半身を起こす。

 飲ませたかったのに…とぼやきながらも背中を支えてくれた。
 俺はそれに甘えながらストローに口付ける。

 冷たくて美味しい。
 思わず頬がゆるむ。



「ふふ、かわいい」



 ミカドがニコニコしながら頬をつついてくる。
 熱があるのは俺なのに浮かされているのはミカドのようだ。


「色々あって疲れたと思うし、体調が良くなったら気分転換に王都でも行こうか」



「えっ…王都!?」



 頬をつついてくるミカドの指を緩くにぎにぎしていると、思いがけない言葉に思わず目を見開く。

 危うく力が入り過ぎて指を折りそうになった。


「でもいいの?俺ここの卒業条件満たしてないけど…」

「寮外の学生と身内との接触は禁止だけど、街に出かけるのは問題ないよ」

「そ、そうだったんだ…」

「もちろん、監督役として僕が付いていることが条件だけど」



 なるほど、と小さく頷く。


 俺は脱走の前科があるので条件が付くのは仕方ない。
 ミカドに負担をかけてしまうのは申し訳ないが、俺の気持ちはすでに王都に向いていた。



「あの有名なとこ行きたい!出店とかたくさんあるとこ!」

「有名な城下町だね。いいよ、行こうか」

「わぁありがとう!頑張って早く治すね!」


 俺が笑いかけるとミカドも笑顔で返してくれた。




















 あの後すぐに元気になった俺は、ルカに頼んで便箋をもらっていた。

 この寮にはポストがない。


 ミカドに学校案内をしてもらった時も言われなかったし、時間がある時に自分でも校舎を見回ったが見つけることができなかった。


 便箋をもらう時「ルカは手紙を送る時どうしてるの?」と聞くと、「ロキに頼んでいる」と言っていた。


 でも守秘義務が厳しくて確認のために内容は見られてしまうとのことだった。



「わぁ!かわいい!」



 なので、俺は出先で手紙を出すことにした。

 ルカからもらった便箋は美しい紋様が描かれていて芸術品のようだった。
 紙も上質で手触りが良い。

 いきなり書いて失敗してしまうと困るので、ノートに考えた文章を書き出してみる。



「うーん…言葉で言うのは簡単だけど、文にすると難しいかも」



 色々書き出した文を眺めて、俺はため息をつく。

 あまりミカドに見られるのは良くない気がして俺は部屋に篭っていた。

 この部屋にもベッドがあるが、一夜を明かしたことはない。
 なんだかんだ言いくるめられて、ここに来てからずっとミカドのベッドで寝ているからだ。



「あ、ミカドの薔薇…」



 そんなベッドに休憩のため寝転がろうとして、サイドテーブルに置いてあるミカドの薔薇が目に留まる。


 あの日、ミカドは俺の薔薇を咲かせた。


 つまり俺はこの寮の卒業条件は満たせていないが、この学園を卒業する条件は満たしたことになる。

 でも俺の薔薇を咲かせた相手は王族だから、同じように薔薇を所有していて、それを咲かせないと結婚することはできない。





・ ・ ・ ?





結婚、することはできない?










「えっ!?」


 思わず出てしまった声にハッとして口元を覆う。

 ミカドは俺の薔薇を咲かせた。

 咲かせた薔薇は元に戻せるのだろうか?戻せないなら、俺はもしかしてミカドと結婚するしかないのではないだろうか。



「や、やっぱり手紙書いちゃおう…」



 ベッドに寝転がったらその事に気を取られてしまう気がした。
 休憩どころか更に消耗してしまうので俺は椅子に座り直す。


 紙の上品さと筆跡のバランスが取れていないけど、なんとか手紙を書き上げることができた。




















「わ~!王都だぁ~~!!」





 俺は喜びのあまり天に向かって両手を広げていた。





「いい?絶対に離れちゃダメだからね」

「分かってるよぉ~!ねね、あのお店はなぁに?」


 完全に浮かれている俺は自分からミカドの手に指を絡めた。

 手紙はルカにこっそり切手を用意してもらったから、後は投函するのみである。
 コートの内ポケットにちゃんと入れてきた。

 その使命はもちろん忘れていないけれど、今は初めての城下町を純粋に楽しみたかった。


「あぁ、ハチミツを使ったお菓子を売ってるね。食べる?」

「いいの!?食べたい!」


 ミカドがぎゅっと指先に力を込める。

 その声には些か苦笑が混じっていたけれど、すぐに甘いものに変わる。

 基本的に貴族は王都に屋敷を構える。
 例に漏れず俺も王都に家はあるが、父の仕事の関係で大半を別宅で過ごしていた。

 国の式典や社交シーズンになると王都に戻るが、俺は外出を固く禁じられていたのだ。

 城下町に連れて行ってもらう機会がなかった訳ではない。
 でも俺はその向こうにそびえ立つ城が怖くて、足を向ける気にならなかった。


「これ、すっごく美味しいね!寮でも食べれたらいいのに」

「寮のシェフに作らせようか?そうすればいつでも食べられるよ」

「えー・・・なんかそれ、パワハラっぽいよ~?」


 ミカドが俺にワッフルを食べさせながら真顔で言うから、思わず冗談で返して、笑い合う。

 寮の日常に全く笑いがなかったわけではないけれど、新しい刺激はあまりなかったから新鮮だった。

 人々は活気付いていて店には色とりどりの商品が並んでいる。
 季節は冬に近づいているのに夏のように明るい町だ。


 繋いでない方の手で気になるものを指を指すと、ミカドが丁寧に説明してくれる。


 これは西の方で取れる果物だよ、とか、それはポストだよ、とか。





「え……ポスト?」





「ポストだよ。王都のポストは街の景観に馴染むように他とは違うんだ」



「そう、なんだ…」



 改めてポストに目を向けると、投函口の下に集荷時間が書かれている。
 見た目は異なるがそれでポストと識別できるようだ。

 俺は急に現実に戻されたような気がして、立ち止まった。





「ね。それより今度王宮に遊びに来ない?父上と母上がミコトに会いたがってるんだ」





「え……なんで俺?」





「薔薇の話をしたんだ。そうしたら相手の話になったから、ミコトのことを話したんだよ」










 ーーー本当は好きになってもらうまで話さないつもりだったんだけど、つい話しちゃったんだ




















 ミカドは悪戯がバレた子供のように笑う。


 俺は動揺していた。
 薔薇のことが他の人にバレてしまったら俺はミカドから逃げられない気がした。

 ミカドの表情は今まで見たどの表情よりも純粋で胸を締め付けられる。

 クシャ、と手紙が入った部分を思わず握ってしまった。



「…ッごめん、王宮は怖いから行きたくない…っミカドのお父さんたちとも、会いたくない…!」



「どうして?2人ともすごく優しいよ。城の中では僕がずっとそばに居るから安心して」



「そうだろうけど……!俺っ、なんか怖いから、ヤだ…!」



 繋いだ手を離してほしくて一生懸命振り解くが、逆に力は強まっていく。
 今までこんなに強い力で握られたことがないから俺は更に動揺した。

 まるで二度と離さないと言われているみたいで、焦って手を外しにかかる。



「…何が怖い?僕?それとも僕の両親?お城になにか嫌な思い出でもあるのかな」



 俺は肩をびくつかせる。
 一気に指先が冷たくなる感じがして、背中を嫌な汗が伝う。





「……まあいいや。ミコト、僕ね。隠し事をされるのが大嫌いなんだ」





 あれほど強く握っていた指先から力が抜けていく。

 俺は咄嗟に手を引っ込めた。
 ミカドの顔を直視できなくて、地面を見つめる。





「でもミコトはとても頑張ったみたいだから。僕も応援しようと思う」





 解いた指先がスッとどこかを指差す。
 その動作につられるまま、俺は視線を向ける。





「今から10秒間、僕は目を瞑っているね」





ーーーーーーだから、考えて行動してね。





「はじめるよ?10ーーーー、9ーーーー」



 突然始まったカウントダウンを、俺は一拍遅れて理解する。

 急いでポストの前に立ち内ポケットから手紙を取り出す。
 少しシワがついてしまっているけど問題なく届くだろう。

 ポストの投函口に手紙を差し込む。


「8ーーー、7、6ーーー、」


 数字を言う間隔が次第に短くなっていく。

 心臓がドドドッ…と激しく鼓動を刻む。
 呼吸が速くなって苦しい。

 この指先を離せば手紙は投函できるのに、接着剤で貼り付いたように離すことができない。


「5ーー、4、」


ぎゅっと目を瞑って、考える。





「さん、にー、いち…」










俺は踵を返してーーー手紙を持ったまま、ミカドに抱きついた。




















「……ゼロ。君はほんとうに、悪い子だね。ミコト」
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