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12話
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お姫様抱っこの行き先はミカドのベッドだった。
道中はお互い無言で、俺のしゃくり上げる声と鼻を啜る音だけが響いていた。
ベッドに俺を下ろすと、ミカドは少し困ったような顔をして頭を撫でた。
親指で涙を拭うと、その温もりがスッと離れてしまう。
「ま、待って…!」
そばにいてほしくて、咄嗟にミカドの服の裾を掴む。
ミカドは小さくため息をつくと、一度ベッドから浮かせた腰を再び下ろした。
手を離すとミカドがどこかに行ってしまいそうで、裾は握ったまま。
「どうして、なにも言わないの……?」
その問いに、ミカドは答えない。
「俺、勝手に共生棟に行ったんだよ…本当はすごく怒ってるんでしょ……っ」
服の裾を掴む手はみっともなく震えている。
禁止されているのにも関わらず門をくぐって共生棟に行ったのだ。
悪いに決まっている。
それにあれだけの騒ぎを起こしたのだ。
ミカドにも、一般生徒にも、警護をしてくれる人たちにも物凄く迷惑をかけてしまった。
下手をしたら国家の信用問題にも発展していたかもしれない。
裾を掴んでいる俺の手を、ミカドの掌が包み込む。
「そうだね。怒ってるよ」
その声に肩を揺らす。
温度を感じさせない声に、一瞬呼吸をするのも忘れる。
けれど、次の瞬間には胸が悲しみで支配されていた。
「………そう、だよね。やっぱり、怒ってるよね…」
どんなに優しいミカドでも許容できる範囲は限られているのだろう。
俺の面倒はミカドが見ているようなもんだから、もしかしたらミカドが責められるのかもしれない。
あの日、たまたま俺なんかと関わってしまったから、今も面倒を見てくれているに過ぎない。
ミカドを愛してくれる人が見つかれば、俺に向けてくれる優しさはきっとその人に向くのだろう。
馬鹿なことばかりするから、もう、呆れちゃったかな…
「……怒りもあるよ。でもそれより僕は、」
ーーー悲しかったんだよ。
俺は目を見開いた。
「悲し、かったの……?なんで…」
「それを僕に言わせるの?」
視線が、重なる。
ミカドの指が、服の裾を掴む指を引き剥がしていく。
完全に裾から手が離れると、ミカドがベッドに膝立ちで乗り上げてきた。
肩を押されると、俺はベッドの上に仰向けに倒れる。
「僕は言葉にして伝えたことはないけれど、気づいていたよね?」
ミカドは俺の体を跨いで顔の横に手をついた。
美しい顔に影を落とす。
「ミコトのことが好き。誰よりも、何よりも」
その表情は、好きを伝えるにしては酷く苦しげだった。
さすがにここまでされれば、ミカドの好きが友人としての好きではないことくらい分かる。
俺だってミカドが好きだ。
優しいし、かっこいいし、一緒に居て落ち着く。
何よりずっと憧れていた人だし、勉強も王族としての仕事も飄々とこなしてしまう姿は尊敬もしている。
「………でも、ミコトの僕に対する好きは、違うよね」
この人をこれ以上傷つけたくないと、優しさを返していきたいと、思った。
裏切りたくないとも。
でもこの好きは深さが違うだけで、リノに対する好きと何が違うかはうまく言葉にできなかった。
自分も理解できていない状態でミカドの思いを受け止めてしまうのは彼にも失礼な気がした。
「ごめん、俺……」
「いいんだ。分かっていたから。本当はミコトが僕を好きになってくれるまで待っているつもりだった」
ミカドは俺から体を離すと、ベッドのサイドテーブルに手を伸ばす。
おもむろにガラスケースから薔薇を取り出すと、茎の部分を握った。
「え………」
想いを積み重ねた時間を再現するかのように、薔薇は固く閉じた蕾をゆっくり解いていく。
まるで薔薇以外の時間が止まったようで、俺は食い入るように花を見つめた。
「………絶対咲くと思ってたけど、やっぱり緊張するね」
ミカドは綺麗に微笑みながら、薔薇にそっと口付けた。
道中はお互い無言で、俺のしゃくり上げる声と鼻を啜る音だけが響いていた。
ベッドに俺を下ろすと、ミカドは少し困ったような顔をして頭を撫でた。
親指で涙を拭うと、その温もりがスッと離れてしまう。
「ま、待って…!」
そばにいてほしくて、咄嗟にミカドの服の裾を掴む。
ミカドは小さくため息をつくと、一度ベッドから浮かせた腰を再び下ろした。
手を離すとミカドがどこかに行ってしまいそうで、裾は握ったまま。
「どうして、なにも言わないの……?」
その問いに、ミカドは答えない。
「俺、勝手に共生棟に行ったんだよ…本当はすごく怒ってるんでしょ……っ」
服の裾を掴む手はみっともなく震えている。
禁止されているのにも関わらず門をくぐって共生棟に行ったのだ。
悪いに決まっている。
それにあれだけの騒ぎを起こしたのだ。
ミカドにも、一般生徒にも、警護をしてくれる人たちにも物凄く迷惑をかけてしまった。
下手をしたら国家の信用問題にも発展していたかもしれない。
裾を掴んでいる俺の手を、ミカドの掌が包み込む。
「そうだね。怒ってるよ」
その声に肩を揺らす。
温度を感じさせない声に、一瞬呼吸をするのも忘れる。
けれど、次の瞬間には胸が悲しみで支配されていた。
「………そう、だよね。やっぱり、怒ってるよね…」
どんなに優しいミカドでも許容できる範囲は限られているのだろう。
俺の面倒はミカドが見ているようなもんだから、もしかしたらミカドが責められるのかもしれない。
あの日、たまたま俺なんかと関わってしまったから、今も面倒を見てくれているに過ぎない。
ミカドを愛してくれる人が見つかれば、俺に向けてくれる優しさはきっとその人に向くのだろう。
馬鹿なことばかりするから、もう、呆れちゃったかな…
「……怒りもあるよ。でもそれより僕は、」
ーーー悲しかったんだよ。
俺は目を見開いた。
「悲し、かったの……?なんで…」
「それを僕に言わせるの?」
視線が、重なる。
ミカドの指が、服の裾を掴む指を引き剥がしていく。
完全に裾から手が離れると、ミカドがベッドに膝立ちで乗り上げてきた。
肩を押されると、俺はベッドの上に仰向けに倒れる。
「僕は言葉にして伝えたことはないけれど、気づいていたよね?」
ミカドは俺の体を跨いで顔の横に手をついた。
美しい顔に影を落とす。
「ミコトのことが好き。誰よりも、何よりも」
その表情は、好きを伝えるにしては酷く苦しげだった。
さすがにここまでされれば、ミカドの好きが友人としての好きではないことくらい分かる。
俺だってミカドが好きだ。
優しいし、かっこいいし、一緒に居て落ち着く。
何よりずっと憧れていた人だし、勉強も王族としての仕事も飄々とこなしてしまう姿は尊敬もしている。
「………でも、ミコトの僕に対する好きは、違うよね」
この人をこれ以上傷つけたくないと、優しさを返していきたいと、思った。
裏切りたくないとも。
でもこの好きは深さが違うだけで、リノに対する好きと何が違うかはうまく言葉にできなかった。
自分も理解できていない状態でミカドの思いを受け止めてしまうのは彼にも失礼な気がした。
「ごめん、俺……」
「いいんだ。分かっていたから。本当はミコトが僕を好きになってくれるまで待っているつもりだった」
ミカドは俺から体を離すと、ベッドのサイドテーブルに手を伸ばす。
おもむろにガラスケースから薔薇を取り出すと、茎の部分を握った。
「え………」
想いを積み重ねた時間を再現するかのように、薔薇は固く閉じた蕾をゆっくり解いていく。
まるで薔薇以外の時間が止まったようで、俺は食い入るように花を見つめた。
「………絶対咲くと思ってたけど、やっぱり緊張するね」
ミカドは綺麗に微笑みながら、薔薇にそっと口付けた。
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