24 / 119
Re:07 Remind
07
しおりを挟む高校二年生の夏休みって、何があったっけ。夏祭りは二人で行って、侑生の予備校の友達に会った。あとは……そうだ、昴夜も言っていたけれど海に遊びに行って、新庄が少年院に入ったと聞いたのだ。……でも、それ以上は覚えていない。自慢の記憶力も、さすがに十四年前の日常生活となるとあてにはならないようだ。
でも誕生日に何をあげたか、それに対する侑生の反応くらいは思い出せるんじゃないだろうか。ぼやぼやと悩みながら教室に入り――今度は自分の席が分からなくて固まってしまった。
「……三国の席は俺の隣だろ」
トン、と侑生の長い指が机を叩く。覗き込むと、夏休み明けだというのに、引き出しにはぎっしり教科書が詰まっていた。そういえば教科書はいつもできるだけ机に詰め込んでいた覚えがある。
「あ、ありがと」
「ん」
席に着く侑生は、もう顔に疑問を出さない。気だるげな顔でガラケーを取り出し、始業式までの時間を潰している。
「あーつーいー……おーはよー」
そうこうしているうちに、昴夜も教室に入ってきた。そのカバンには女子高生のようなクマのぬいぐるみのキーホルダーがくっついている。彼女の趣味ではない、正真正銘昴夜の趣味だ。
その昴夜と、目が合った。会うのは奇妙な“用事”を済ませた夏休み以来だ。
「……おはよ」
「……んー」
少し気まずそうに目を逸らし、昴夜は侑生の後ろの席に着く。やがて先生がやってきて、ホームルームを始めて、始業式と新学期の掃除と……と九月一日の行事が進む。
膠着状態の過去は、それでも時計の針を着実に進めていく。過去に戻った私は何をするべきなのか、何ならできるのか、ちっとも分からないまま日々だけが過ぎていく。
九月二十日、学校に行った瞬間、昴夜が「英凜!」とまるで尻尾を振る犬のようにその席から身を乗り出す。
「誕生日だよね。おめでとう」
「テンション低!」
そんなことはない。本当は満面の笑みでお祝いしたい気持ちでいっぱいだったから、昨日から一生懸命シミュレーションしてようやく落ち着いて口にすることができるようになったのだ。
でも、こんな場面あったかな……。具体的にどうしたかなんて何も覚えてないけれど、昴夜がこんな飼い犬のように目を輝かせていた覚えはない。あの日に影響しない限度で、何かが変わったのだろうか……。
「あれ、桜井誕生日?」
私達の会話を聞きつけた陽菜がやってきて「なんか持ってたかなあ」とカバンを開く。
「あ、チョコ持ってた。やるよ」
「雑! でもありがとー」
コロン、と昴夜の掌に小さなチョコが一個転がった。
陽菜は、中学生のときからの親友だった。面倒見がよくて活発なタイプで、私のグレーゾーンを“体が弱い”と勘違いしてよく気遣ってくれていた。高校卒業後にも唯一連絡を取っていた相手で、大学一年生のときには東京で一緒に遊んだこともある。
その姿と無意識に比べてしまうせいもあって、いまの陽菜はやっぱり幼く見える。茶色いショートボブの髪はくりんと内側に巻いてあって、男勝りなのに根は女の子の陽菜らしかった。
「ねー英凜は? ねーなんかないの?」
陽菜にもらったチョコレートを口に放り込みながら、昴夜は手を差し出す。
「お菓子買ってきたよ」
「なんでみんなお菓子くれんの? 嬉しいけどさ」
例えば携帯ストラップとか、ピアスとか、お菓子にしたって手作りとか、もっと心を込めたものはいくらでもあげることができた。でもどれもこれも“友達”という立場には不釣り合いで、仕方なくトッポを買って済ませることにした。昴夜は「ありがとー」と受け取りながらさっそく箱を開けて、それを口に咥える。
「あれ、俺英凜の誕生日になにあげたっけ?」
「……なんだっけ?」
私の誕生日は二月十八日、私はもちろん、昴夜も覚えていなくてもおかしくないほど前だった。ただ、私は誕生日に昴夜からなにかを貰った記憶自体がない。
「もらってない……かも?」
「……なんかそんな気がする。今年――じゃないや、来年はあげるね」
そっか、昴夜が誕生日プレゼントをくれるんだ。ほんの百円、百五十円のお菓子かなにかだろうけれど、昴夜が私に。
過去になかったけれど、この過去では。
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
想い出は珈琲の薫りとともに
玻璃美月
ライト文芸
――珈琲が織りなす、家族の物語
バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。
ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。
亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。
旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。
その後の愛すべき不思議な家族
桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】
ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。
少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。
※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
君の左目
便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。
純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。
それもまた運命の悪戯…
二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。
私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる