リライト・ザ・ブルー

潮海璃月

文字の大きさ
44 / 119
Re:05 Reconfess

13

しおりを挟む

 驚きのあまり声が出なかった。唇を拭うことすらできなかった。


「後で送っといて」


 侑生は撮られた写真を確認もせず、弁解もせずに私達に背を向け、準備に動き回るみんなに合流しに行った。

 私と昴夜が、呆然と取り残される。教室内は「チョコレートケーキどこ?」「家庭科室、誰か行ってきて」「小銭ってこれで足りる?」「テープとって」「ここ、剥がれてるんだけど何があったっけ?」そうやってせわしなく奔走するばかりで、誰も私達のことなんて見ていなかった。

 昴夜と昴夜の携帯電話以外だれも、私と侑生のキスなんて見ていない。

 でも、なんで、よりによって昴夜。他の誰に見られても冷やかされて終わるだけなのに、どうして昴夜。

 誰より一番、昴夜に見られたくないのに。

 昴夜は、バツが悪そうに視線を泳がせていた。携帯電話を持ったまま、どうすればいいか分からないように何度も瞬きする。


「…………」

「…………」

「……英凜にも送ろうか」

「いや消し――……、いや……私には、いい、です……」


 言葉尻にかぶせて削除を迫ろうとして、でも侑生がこんなことをした理由を考えると言えなかった。

 分かっている。侑生は、昴夜に見せたかったのだ。もしかしたら、見せたい通り越してその手元に残そうともしていたのかもしれない。

 こうして、私達は平然とキスする間柄だと。

 昴夜が頭に手を伸ばし、でも今日はワックスで固めているのだと思い出して、手を降ろす。それからもう少し沈黙したあと、ようやく携帯電話をポケットに突っ込んだ。


「……相変わらず仲良いね、英凜と侑生」


 私を好きだった昴夜は、どんな気持ちでそう口にするのだろう。


「……そういう話じゃない」

「……侑生があんな見せつけるタイプなんて知らなかった。あーやだやだ」


 カラ元気のような軽口と共に、昴夜も準備に混ざりに行く。残された私は、一人で泣きそうだった。

 過去に、こんな場面はなかった。侑生が昴夜の目の前で私とキスしたことなんてどこにもなかったはずだ。それなのにどうしてこんなことが起きるのだろう。未来を変えるどころか、友達以上になることのできない私達の関係を上塗りするかのように。

 私は、どうしても昴夜と一緒になってはいけないとでもいうのだろうか。

 クラスの喫茶店自体は順調で盛況だった。これといったトラブルはなく、一方で侑生と昴夜の顔による広告効果は抜群で、八割方は二人を目当てにした女性客だった。私が接客をしている間なんて、廊下の侑生がナンパされているのも聞こえた。


「英凜ィ、そろそろ休憩? 更衣室からさー、あたしのケータイ取ってきてくんない?」お昼過ぎ、陽菜が時計を見ながら言う。


「いいよ、どこにある?」

「多分スカートのポケットの中、よろしく」


 廊下に出ると、侑生はしつこくナンパされたままでいた。そのせいか、その顔はすっかり不機嫌そうに変わっていて、看板も下ろし、そこに腕を載せて壁に寄りかかっている。

 その視界の隅にメイド服の白と黒がちらついたのだろう、私が話しかけるより先に視線がこちらを向いた。


「休憩?」


 ……いや、先に謝って。急に、しかも昴夜の前でキスしたことを謝って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

想い出は珈琲の薫りとともに

玻璃美月
ライト文芸
――珈琲が織りなす、家族の物語  バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。  ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。   亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。   旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

君の左目

便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。 純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。 それもまた運命の悪戯… 二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。 私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

処理中です...