リライト・ザ・ブルー

潮海璃月

文字の大きさ
53 / 119
Re:05 Reconfess

04

しおりを挟む
 でも、そうじゃない。このタイムリープは、未来につながる軌跡を書き換えることを、許してはくれないのだ。

 教室に戻ると、いたのは侑生だけだった。キャンプファイヤーの明かりが届かない窓の外は真っ暗で、明かりはついていても、教室の中はどこか薄暗い。なにより、喫茶店の飾りを隅に残した空間には、お祭りが終わったあと特有の物寂しさが漂っている。その空間の端で、侑生は一人、机に腰かけていた。


「おかえり。帰るか」


 私を見て顔を上げると同時に携帯電話を閉じる。戻ってくるのに時間がかかった私のことをとがめないどころか、理由さえ聞かずに。

 過去もそうだった。侑生はきっと、私が昴夜と一緒にいたことを分かっていて何も言わない。

 そうして目を瞑る理由が分からなかった。侑生が私を好きでいてくれるからだとは分かっても、そこまでして私と付き合っている理由が、今でもさっぱり、分からない。


「どうした?」

「……今朝、なんでキスしたの?」


 当時の私なら、そんなことは訊かなかった。昴夜を好きだということが後ろめたくて、侑生の前では昴夜の名前を口に出すことすらできなかった。

 侑生は驚かなかったし、気まずそうにもしなかった。


「……それは、なんで学校でって意味?」

「……違うよ」


 侑生は一度口を閉じる。質問の意図が分からないのではなく、答えるべきか悩んでいるように見えた。


「……英凜が」


 昴夜を好きだから――と続くと思った。


「怒ると思ったから」


 でも、違った。それがどういう意味なのかは分からなかった。


「……いや、英凜は怒らないよな。……まあ怒るかどうかはどうでもいいんだけど」


 侑生の視線は、一瞬逸れてから私に戻ってくる。


「どんな態度に出るかなと思って」

「……何を試されたの、私」


 侑生はもう一度閉口した。


「……英凜」


 もう一度口を開く前に、侑生は、手近な机に足を投げ出すようにして座り、膝の上で軽く手を組む。


「……なに?」

「訊こうと思ってたんだけど」


 昴夜となにをしていたのと、問いただされるのだろうか。

 問いただされたとして、答えることは「保健室で怪我の手当てをしていただけ」であって、それ以上でもそれ以下でもない。一緒にいたいというやましさがあったことは否定しないけれど、どうせ何も変えられないことは分かっていた。だから困ることは何もない。

 それでも、ほのかな後ろめたさが心にある。そんな私を、侑生の静かな目が見上げた。


「いまの英凜は、十六歳? それとも、三十歳?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

想い出は珈琲の薫りとともに

玻璃美月
ライト文芸
――珈琲が織りなす、家族の物語  バリスタとして働く桝田亜夜[ますだあや・25歳]は、短期留学していたローマのバルで、途方に暮れている二人の日本人男性に出会った。  ほんの少し手助けするつもりが、彼らから思いがけない頼み事をされる。それは、上司の婚約者になること。   亜夜は断りきれず、その上司だという穂積薫[ほづみかおる・33歳]に引き合わされると、数日間だけ薫の婚約者のふりをすることになった。それが終わりを迎えたとき、二人の間には情熱の火が灯っていた。   旅先の思い出として終わるはずだった関係は、二人を思いも寄らぬ運命の渦に巻き込んでいた。

その後の愛すべき不思議な家族

桐条京介
ライト文芸
血の繋がらない3人が様々な困難を乗り越え、家族としての絆を紡いだ本編【愛すべき不思議な家族】の続編となります。【小説家になろうで200万PV】 ひとつの家族となった3人に、引き続き様々な出来事や苦悩、幸せな日常が訪れ、それらを経て、より確かな家族へと至っていく過程を書いています。 少女が大人になり、大人も年齢を重ね、世代を交代していく中で変わっていくもの、変わらないものを見ていただければと思います。 ※この作品は小説家になろう及び他のサイトとの重複投稿作品です。

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

君の左目

便葉
ライト文芸
それは、きっと、運命の歯車が狂っただけ。 純粋な子供の頃から惹かれ合っていた二人は、残酷な運命の波にのまれて、離れ離れになってしまう。 それもまた運命の悪戯… 二十五歳の春、 平凡な日々を一生懸命過ごしている私の目の前に、彼は現れた。 私の勤める区役所の大きな古時計の前で、彼は私を見つけた…

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

処理中です...